第五話
大学の夏季休業も、あと二週間程で終わり。
……風邪引いたり、利き手火傷した自分が悪いけど、あまり進めること出来なかったなぁ……
平民街の一角のとある店に着くと、すでに初老と思える男性が、店開きのための点検を行っていた。
初老とはいっても、そのことが確認できるのは、白髪が大分混ざった短い髪だけだ。夏でも肌寒い地域に店を構えているのにもかかわらず、長袖を捲り上げてあるその腕は、岩の如きゴツゴツとした分厚い筋肉で覆われている。初見の人間は、必ずや彼の職業を聞けば耳を疑うであろう。
実際に、パーシヴァルは初めて会ったとき、子供達が読む冒険譚の戦士が現世に現れたのか、などと思ってしまった。
彼は、パーシヴァルが店の入り口に立つと、
「聞いたぞパーシヴァル、お前謹慎になったらしいな?」
と、聞いてきた。
店先に顔を出して第一声がこれだ。こういった噂は予想よりも早く広がるようだ。
「……おやっさん、その情報の出所は?」
「んなもん聞いてどうすんだ?」
「そういった流言出す奴ってのは、時々他の国からの間諜だなんてこともあってね。下手したら国内で反乱なんかを誘発することもあるし、怪しいところは片っ端から潰しとかないと後が怖いんだよ」
ま、謹慎は事実だけど、と付け加えパーシヴァルは店の中に入った。
奥の作業場から伝わる熱気のおかげで店内は暑く、額に薄っすらと汗が浮かぶほどだ。熱の他にも律動的に槌で叩く音や刃を研ぐ音が響いてくる。
ちょうどそこに、パーシヴァルと同じ年代の男が剣や湾刀を数本抱えて来た。それらの刃は店内に入る陽光を鈍く反射し、出来立てであることを窺わせる。
その男は、パーシヴァルの話を聞いていたか、
「今朝研ぎ上がった剣を受け取りに来た兵士が言ってましたよ。どうやら城の方でも結構話題に上がってるようですぜ」
と、教えてくれた。
「ただ、あの何とかって貴族の方はまったく罰せられなかったようですぜ」
そのことは、あの上官の言い方から大体予想が付いていたことだ。
しかし、予想してなかったのか、店頭で品物を並べていた親方が、
「ちょっと待て! なんでそいつだけ罪になんねぇんだ?」
と尋ねてきた。
「まぁ、貴族の特権って奴っスよ」
「ふざけんなよ。そもそも街中で喧嘩だ何だって騒ぎ起こしたら身分問わず両方罰す、ってのがお上の定めた法じゃねぇか。それをなんだ、貴族だ何だって勝手に捻じ曲げやがって!」
「親父、あっちは喧嘩じゃなくて一方的に殴られたって言ってるそうだ。だからあっちの主張じゃ、パーシヴァルさんだけが罪人だ。法を犯したことにはなんねぇとよ」
「フォラーズ! お前は城の連中の方を持つってのか!」
「んなこと言ってねぇだろ。だけど、俺ら下々の人間が騒いだって、あっちは意に介さんだろうよ」
言い合いを始めた親子の会話が、徐々に険悪になり始める。
「まぁまぁ、おやっさんもフォラーズも落ち着けって。別に俺はそこまで深く気にしてないから……」
さすがに、これ以上は不味いと思い、パーシヴァルは二人を止めた。
だが、親方の方は憤懣やる方ないようで、
「お前はそう言うがな。パーシヴァル、俺あ情けなく思うよ。貴族だ何だつって事実捻じ曲げてよ、罰受けなきゃいけねぇ奴を野放しにしておいて、お前だけ罰受けろなんざ馬鹿げてやがる。そんなの悪党以下だ。そんな世の中が、俺あ悲しい」
最後の方は弱々しい声で呟き、親方は悄然と肩を落とす。まるで自分のことのように嘆き、心配してくれる親方の心が、パーシヴァルは嬉しく感じた。
完全に手を止めてしまった父親に代わり、フォラーズが店頭に品物を並べている。
すると、フォラーズが突然パーシヴァルらを呼んだ。何事かと顔を向けると、フォラーズは通りを見ながらニヤリと笑みを浮かべ、
「世の中、まだまだ捨てたもんじゃないぜ」
と言った。
パーシヴァルは首を傾げながら通りに目を向けると、女性が女の子の手を引いて歩いてくる。二人とも地味な色合いの簡素な服装――もっとも、大陸北部特有の寒冷な気候から、厚めに重ね着はされているが――をしていて、貴族街から程遠いこの地域を歩いていることから、平民であろう。二人の顔にパーシヴァルは見覚えがあった。
パーシヴァルが店先に立つと、その姿に気付いたか、彼女らは足早に駆け寄り、
「先日は娘が危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
と、深々と頭を下げた。一緒にいた女の子も舌足らずながらも「ありがとう」と言って頭を下げる。
パーシヴァルは慌てて、
「頭を上げてください。俺はそんな礼を言われるようなことをした覚えは――」
「いえ、貴方は娘の恩人です。あの時、貴方が通りかからなかったら、娘はどうなっていたことか……」
「いやいや、そんな大げさな……」
と、パーシヴァルは頭を掻きながら、隣に立っている少女へ視線を移す。
すると、女の子はパーシヴァルを見上げながら微笑んだ。
パーシヴァルも笑みを浮かべ、膝を曲げると目線の高さを女の子に合わせた。
「君、名前は?」
パーシヴァルは少女の頭を撫でる。
「ソフィア」
「ソフィアちゃんか。もうあんな怖いおじさん達に近づいちゃ駄目だぞ」
「うん、おじちゃん」
「おじちゃん、じゃなくてお兄さん、だ」
苦笑しつつ、修正してあげていると、後ろからフォラーズが、
「この子、将来きっと美人になりますよ」
と言った。
「何、本当か!」
パーシヴァルが思わず声を上げると、
「この子の顔立ちは母親に似かよったものがありますからね。母親も中々の美形ですし……」
と、なんとも心躍らせることを言うではないか。
少女の顔と母親の顔を見比べてみる。確かに、大きな瞳や、小ぶりでスッと通った鼻筋などは母親の面影がある(一方の母親の方は、フォラーズの物言いに照れている)。
毎度のことながら、フォラーズは自分が気付かないところに着眼点を置くものだから、いつも驚かされる。
「そっか、だとしたら十年もしたら――グェッ!」
突然、パーシヴァルの頭に鋭い痛みが走った。それと同時に、頭が上に引っ張られるような感覚――いや、実際に引っ張られているのだ。その力に逆らうことが出来ず、しゃがんでいたパーシヴァルの腰と膝が伸びていく。
立ち上がりながらも首を捻り、背後を覗けば、まず見えたのが厚い筋肉に覆われた太い腕と、その向こうで爛々(らんらん)と眼光を放つ目――間違いなく親方のものだ。
「こんな時まで、ナンパのことを考えるな!」
たぶん、親方が頭を掴み上げているであろう手に力を込めたのであろう、両側のこめかみの辺りに金鋏で挟んだような圧力がかかった。さらに恐ろしいことに、身体全体がぴしっと伸び切った状態で、足が地面から離れ、浮き始める。
「ちょ、親父それ以上は不味いって!」
フォラーズが止めに入ったようだが、肝心の親方は開放する気配がない。
仕方がなく、パーシヴァルはある事実を親方に教えることにした。
「なぁ、おやっさん……」
「なんだ?」
「ソフィアちゃんが怖がってんだけど……」
それを聞いた途端、親方は即座に手を放し、パーシヴァルは尻を思いっきり地面に打ち付けた。
母親の方は呆然と、女の子の方は完全に怯えて母親の足を掴んでいた。よっぽど親方の形相が怖かったと見える。
さすがの親方もそのことに気付いたらしく、気まずいといった感じで、
「いけねぇ、驚かせちまったようだな……すまねぇ」
と謝り、
「まぁ、こいつにこれ以上の礼はいらんよ。というより、これ以上いたら、娘さんにより質の悪い虫が付く」
と、パーシヴァルからすれば、なんとも自分の人格を疑われるようなことを言って親方は締め括った。
母娘がその説明に納得したかどうかは分からないが、最後に「本当にありがとうございました」と母親が再び頭を下げ、娘の方は「バイバイ」と手を振って、二人は店先から去っていった。
とりあえずパーシヴァルは手を振り返し、未だにクラクラする頭を抑えながら立ち上がる。
「さて、仕事に取り掛かるぞ。今日中に仕上げんといかん品もあるしな」
親方が作業場へ入っていくと、フォラーズがパーシヴァルの様子を見て、
「大丈夫か、パーシヴァルさん? 親父も容赦ってもんを知らねぇし、今日のところは帰って休んだ方がいいんじゃ?」
と、心配そうに声を掛けてきた。
「いや、大丈夫だよ。慣れてるし……」
「そうっすか? じゃ、作業服はいつもんとこにあるんで、お願いしますわ」
「任せろって」
そう言うと、パーシヴァルは一回背伸びをし、
「じゃ、本職が休みな分、精々働くかね」
と呟き、作業場へと向かった。
今回は、製作秘話および裏話を休載します。
代わりに、ようやくこのサイトでの投稿も慣れてきたので、梅院暁という人間について少し分かって頂こうかと。
実を言いますと、今書いている小説「Destiny・Wars」はブログで書いていたいたものをリメイクして載せているんです。
以前後書きに書いたとおり、元々「Destiny・Wars」という作品は、「RPGツク●ル」というソフトでRPGとして作っていました。
あるとき、友人から「携帯のホームページの自由投稿コーナーで、そのRPGを小説化してみないか」と言われ、早速書いてみました。
しかし、自由投稿コーナーなので、他の人が面白おかしく作り変えた偽物などを載せたためにかなり困ったことになりました。
そこで、自分でブログを作り、書き始めました。今から、五年ほど前のことです。
ただし、小説の書き方なんかをちゃんと勉強したわけではないので、お世辞にも私の文章能力は良いとは到底言えるものではありませんでした。
でも、途中で投げ出すのも良くないと思い、書き続けてました。その成果か去年の頃には、少しだけ文章力は上がっていたものの、ここで困ったのが過去に書いた話です。
よくよく読み直してみると、話に矛盾が出来ていたりして、書き直したい、という欲求に駆られました。
しかし、書き直そうにもすでに百話を越えていたために、簡単に書き直せるはずがなく、途方に暮れながら無駄に話を書く日々が続いていました。
そんなとき、この「小説家になろう」サイトに出会い、「そうだ、文章のおかしなところや物語の矛盾点を直してこっちに載せよう」と考え付いて、早速登録して書き始めました。
今までちゃんと設定してなかった世界観や登場人物などの設定をし直し、パソコンで書く前にノートに書いてから推敲して載せるというやり方で、今まで以上に時間を掛けて、この「Destiny・Wars」という作品を作ることに情熱を注いでいます。
とはいえ、まだまだ未熟なところが多いので、温かい目で見守ってもらいながら、時には意見等を下さると嬉しいです。
長くなりましたが、これからもよろしくお願いします。
P.Sマイページの方に、一応ブログで書いたものをリンクしておきました。もっとも、最近はごくごく偶に日記を書いてるだけですが……




