表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Destiny・Wars  作者: 梅院 暁
第六章 ~契約~
30/34

第二十七話

 コーデイアが騒ぎの場に割り込み、男達は出鼻を挫かれる形となったが、

「おいおい、今度は女か……」

「怪我しないうちにとっとと帰りな!」

 と、恫喝する。

「それは出来ませんね。貴方方の悪行、見過ごすわけには参りませんもの」

「悪行、だとぉ?」

「ぬかしやがったな、小娘が!」

 一斉にコーデリアに憤怒の目を向ける男達。今にも斬りかかりそうだ。

 ようやく追いついたボルスは、

「おいおい、あいつらあんたに矛先変えちまったぞ」

「そうですね」

 と、余裕そうなコーデリアに少々不安を覚えた。

 不安は口に出さないものの、とりあえず事実だけを彼女に教えることにする。

「……随分落ち着いているが、使える武器なしで大丈夫か?」

「……え?」

 彼女にとって予想外の質問だったらしい。

 だが、ボルスの目から見て、今の状況は本当にまずい。

 まず、コーデリアは槍を所持していない。となれば、残った武器は魔法と隠しダガーということになる。

 しかし、魔法は詠唱なしでは十分な威力が発揮出来ず、唱えている最中に斬りかかられでもしたら、為すすべもないことは明らかだ。

 一方、隠しダガーは、不意打ちには持って来いだが、この状況ではあまり意味はない。相手は三人もいる上に、周りには野次馬の群れ――その照準にはかなりの精度と速度が求められる。

 ようやくそのことに考えが至ったか、コーデリアは「あ」と声を出し、

「どうしましょう……」

「はぁ……下がっていろ」

 溜息を吐き、ボルスがコーデリアに代わって前に出た。

「おい、また何か来たぞ……」

 今度はうんざりした声を出す男達。

 俺だけこの反応の差は何だ、とボルスは思いつつ、

「うんざりしてくれたついでに、剣を引っ込めてくれればこっちとしてはありがたいんだが」

「うるせぇ!」

 いきなり、先頭の男がボルスに向け剣を突き出してきた。

 ボルスは右手で腰のカッツバルゲルを抜き放ち、その切っ先を弾く。姿勢が泳いだ男の鼻っ面を、カッツバルゲルの鍔で殴り付けた。

 男の鼻から血が噴き出す。

「野郎!」

 男の仲間が剣を振りかぶる。

 ボルスも咄嗟に剣を構え直した。

 だが、相手の剣が振り下ろされることはなかった。

 ボルスの背後から飛翔したスローイングダガーが、男の手の甲に刺さった。男は手から剣を落す。

 三人目が動こうとするが、

「お止めください。今の方のようになりますよ?」

 と、コーデリアが威嚇の声を発した。彼女の手には、すでに二本目の短剣が握られている。

 その脅しに、男達の動きが止まった。

「……おいしいところを持っていくんじゃねぇよ」

「あら、失礼」

 振り返らずにボルスが苦言を口にするが、コーデリアは反省した様子がない。

 ボルスは目の前の男達を睨み、

「去れ。これ以上騒いだところで、誰も得しない」

 と、カッツバルゲルの切っ先を男達に向ける。

「くそぉ、覚えてやがれ!」

 無傷な三人目の男が叫ぶと同時に駆け出し、後を追うように残り二人が走り去る。

 三人の姿が見えなくなったところで、ボルスは剣を鞘に納めた。

「お見事でした」

「やかましいわ」

 ボルスはコーデリアの方に向き、

「無茶しやがって……俺がいなかったらどうするつもりだった?」

「どう、とは?」

「お前一人でもあの連中に突っかかっていったのか、って聞いているんだ!」

 ボルスは声を荒げる。

「相手は三人、武器も持っていた! そんな奴らに喧嘩売るなんて、正気か!」

「なら、あの悪行を見過ごせと? 昨日助成なさった方の言葉とは思えませんね。あのまま見過ごせば、あの方は斬られて――」

「斬られていたのはお前の方かもしれなかったんだぞ!」

 コーデリアの言葉を遮るように、ボルスが怒鳴る。あまりの剣幕に、コーデリアが二の句を告げられなくなった。

 騒いでいた野次馬達も、ピタリと言葉を止める。

「そこまでじゃ、お二人さん」

 静寂の中、ボルスとコーデリアの会話に割り込む者がいた。最初に商人を庇っていた、壮年の男だ。

 ボルスは横目で睨み付けると、

「引っ込んでてくれないか?」

「出来んな。わしも一応この騒ぎの当事者だからのぅ。それが原因となった以上、お主等の喧嘩を止める責任がある」

「屁理屈を……」

 ボルスが目をさらに険しくするも、男の方は涼しげに流し、

「まぁ、お主の言いたいことも分かるが、一度落ち着いたらどうじゃ? 頭ごなしに言うだけじゃ、伝えたいことも伝わらん」

 男は一旦言葉を切り、コーデリアに向かい合う。

「お嬢さん、先程は助かった……じゃが、その者の言う通り、危険なことをしたのは確かじゃ。そこは謝るべきじゃろう。その者がそこまで怒るということは、それだけお主が大切で、心配であることの裏返しなのじゃからな」

「おい待ておっさん。俺は別に……」

「なんじゃ、違うのか?」

「……その娘とは、昨日会ったばかり……あんた言ったような大層な間柄じゃない」

「でも、助けたじゃないか」

「それは……」

 男がボルスをジッと見てきた。

 ボルスはこれ以上否定の言葉を重ねることが出来ず、目を逸らす。

「ごめんなさい」

 そこへ、コーデリアが詫びの声を出す。

「なんだ、急に」

 ボルスが驚くと、

「そこの方の(おっしゃ)られた通り、貴方に心配を掛けてしまったのは事実です。ワタクシが、いささか軽率過ぎました」

 そう言って、彼女は頭を下げる。

「……いいって。俺も言い過ぎた。すまない」

 ボルスも詫びる。先程の男とのやり取りで、いささか毒気が抜けていた。

「これで一件落着、じゃな、お二人さん」

 その光景を見て、うんうんと男は頷いている。

「あの……」

 落ち着いたところに、声を掛けてくるものがいた。三人組に痛め付けられていた商人だ。

「ありがとうございました。何とお礼を言っていいか……」

「礼なら、その二人に言ってくれ。俺はただ成り行きで乱入しただけだ」

 ボルスが困っていると、

「すみませんが、少ししゃがんで頂けますか?」

 と、コーデリアが声を掛ける。

 商人が「は、はぁ」と膝を下ろす。

 コーデリアは懐から指輪を取り出し、右の中指に嵌めた。そして、商人の顔に右手を掲げる。

「失礼しますね」

「あ、あの?」

「彼の者に癒しの力を……『ヒーリング』」

 彼女が詠唱とコマンドワードを発し、右手の指輪が輝く。すると、商人の顔に出来た痣が、徐々に消えていった。

「……どうでしょうか、まだ痛みますか?」

「い、いえ、ありがとうございます!」

 商人が思いっきり頭を下げる。ボルスの見る限り、痣の痕跡は残っていない。

「礼には及びませんよ……それでは、参りましょうか、ボル?」

 そう言い、コーデリアが野次馬の間を抜けていこうとする。

 その背中に、ボルスは声を掛けた。

「……だから、『ス』まで付けろよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ