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Destiny・Wars  作者: 梅院 暁
第六章 ~契約~
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第二十五話

「改めまして、ハルディと申します。そこに座っているのが娘のアニスです。先程は助けていただいてありがとうございました」

 揺れる馬車の中、ボルスの隣に座るハルディが再び礼を言った。

 向かい側には、二人の少女――コーデリアとアニスが上品に腰かけている。

「その話はいいって……どうせ、助けた後の報酬目当て、下心有りの人助けなんかに礼はいらないよ」

 何度も同じことを言われ、ボルスは息を吐く。

「それにいいのか? こんな見ず知らずの男を馬車に乗せたりして? しかも武器も持っている。今すぐにでもあんたら三人の命を奪えるんだぜ?」

 ボルスの言葉に、馬車の中は静まり返った。

 少し脅し過ぎたか、とボルスが思ったのも束の間、

「……クスクス」

 何故か、コーデリアが笑い出した。

「何がおかしい?」

「いえ、失礼しました……クスクス」

 しばらくコーデリアは笑っていたが、落ち着くと、

「そもそも、お金に汚い人が、ワタクシ共を助けるはずがございません。むしろ、襲う側になるでしょう? そのような人が今更そのような……ありえませんよ」

 コーデリアは微笑みながら、ボルスの発言について矛盾点を指摘する。

 ボルスは、彼女達と会ってから何度目かの溜息を吐くと、

「警戒心ってものが無いのかね」

「人を見る目ならありますよ」

 そう言ってコーデリアは満面の笑みを浮かべる。

「どうだかな」

 ボルスは直視できず、視線を逸らす。

 その様子を見て、ハルディとアニスまでもが笑い出した。

 ボルスがギロリと睨むと、

「これは失礼しました……えぇと、お名前を伺っていませんな」

 ボルスは敢えて名乗っていない。

 ボルスは追われの身である。どこで教団の手の者が見ているか分からない以上、あまり自分に関する情報は残したくない。

 だが、この期に及んで名乗らないのも、逆に怪しまれるだろう。

「ボルスだ」

「ボルス様、ですね」

「じゃあ、『ボル』と呼ばせていただきますね」

「なんでだよ」

 ボルスは思わず突っ込む。

 言った当人であるコーデリアは悪びれた様子もなく、

「ほら、ボルスさんやボルス様、ですと他人行儀ではありませんか」

「それで何で渾名(あだな)なんだよ。というか、『ボル』まで来たら『ス』も付けろよ」

「そうしてしまうと、呼び捨てになってしまうではありませんか」

「渾名はいいのかよ」

「ならば、ワタクシのことも『コーディ』とお呼びください。親しい人は皆様そう呼びますよ」

「いや、俺達さっき会ったばかりだろ」

 二人が言い合っていると、

「なんか……無愛想な人だと思ってたのに……」

「これ、アニスなんということを……」

 というハルディとアニスの会話が聞こえた。


 しばらく四人で他愛のない話をしていると、

「旦那様」

 と、御者席のディルが馬車内へ声を掛けてきた。

「どうしました」

「検問です」

 ボルスはその声に反射的に身を固くした。ただ、そのことを感じさせないように即座に姿勢を正す。

「何かございましたか?」

 ハルディは馬車の窓から外にいるだろう兵士に尋ねた。

「そなたは?」

 馬車の外から兵士の声がする。

 ボルスは自身の姿を見られないようにした。

 だが、そのことに集中していたためか、その様子をコーデリアにジッと見られていることに気付かない。

「サムラーンから香辛料の取引に回っております。ザミュル方面の取引から戻りがてらワイドでも商売のために立ち寄ります」

 ハルディが身分を明かすと、

「そうか。ところで来る途中、青い革鎧を着た男を見なかったか?」

 ボルスは胸の中で舌打ちする。

「ひょっとして、身の丈ほどの剣を担いだ方ですか?」

 ここで、コーデリアが会話に割り込んだ。

「知っているのか!」

「貴方方が捜しておられる方かどうかは分かりませんが……先程、白昼堂々と盗賊が襲ってきました。その時青い鎧を着た方が助成してくれました」

 そう言って、コーデリアはハルディに目配せした。

「そうでしたな。盗賊を撃退してくださったかと思えば、まさか謝礼を要求してくるとは……」

 と、ハルディが苦笑する。

「で、そいつは?」

 二人ののんびりとした会話に苛立ったか、兵士の声に怒気が混ざる。

「フェガーリ方面に向かうと言っていましたな」

「そうか……ならここに向かってくることは間違いないか……盗賊にはどの位置で襲われた?」

「この街道をザミュル方面へ向かえば……まだ痕跡は残っています」

 それを聞いた兵士が「よし」と言い、

「馬を準備しろ! 奴は徒歩でこちらに向かっている! この関所に気付かれる前に捉えるんだ!」

 と、指示を飛ばす。外から慌しい雰囲気が伝わる。

「あのう、その方がどうしたのでしょうか?」

 コーデリアが兵士に問うが、

「詮索無用だ! 俺達だって、詳しいこと聞かされてないんだ!」

 と、一蹴された。

 そのまま去ろうとする兵士に、

「あの、通過してよろしいのでしょうか?」

 と、ハルディが声を掛けた。

「あぁ、いいぞ! さっさと通れ!」

 兵士は言い放ち、「早くしろぉ!」と周りに怒鳴り散らす。

「やれやれ、早急な方ですな。なんにせよ、許可が出たのです。参りましょう」

 馬車が再び動き始めた。

 外からは、馬蹄の音が遠ざかっていく。

「いやぁ、とんだ災難でしたな」

「ワイドまで目と鼻の先でしたのに」

 ハルディとコーデリアが談笑する。

「おい」

「いかがなさいました?」

「いいのか? 役人にあんな嘘を()いて?」

 ボルスの言葉に、コーデリアは笑顔のまま首を傾げる。

「嘘も何も、ちゃんと事実を述べました。盗賊のこと、通りすがりの傭兵さんに助けていただいたこと……ねぇ、ハルディさん?」

「そうですとも」

 ハルディが頷く。

「そいつが一緒にいるとは言わなかっただろ」

「あら、うっかりしていましたわ」

 何とも白々しくボルスの耳に届く。

「でも、本当に彼らが捜しているのが貴方という確信もありませんし……」

 ボルスには彼女達の胸の内が分からない。

「どういうつもりだ?」

 自分を庇ったところで、不利益を被るのは明らかに彼女達の方だ。

「では聞きますが、貴方は役人に追われるようなことをしたという謂れがございますか?」

「それは……」

 ボルスは言葉に詰まった。まさか、「ある」と断言するわけにもいかないだろう。

「ないのなら、差し出すわけには参りません……ね、ハルディさん?」

「コーデリアさんの言う通りですぞ。私どもの世界では、信用が第一なのです。命の恩人をそんな扱いするなど……そのような人間、信用に値しますでしょうか?」

 彼女達の顔は笑顔から真剣な表情に一変する。

「……後悔するかもしれんぞ」

 ボルスはその言葉だけを絞り出した。

 コーデリアは再び微笑み――ただし、目だけは真剣みを帯びたままで断言する。

「言ったではありませんか……人を見る目はありますよ」

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