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Destiny・Wars  作者: 梅院 暁
第五章 ~名前~
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第二十話

「久しぶりだなぁ、パーシヴァルぅ……」

 男は怨嗟の含まれた口調で、パーシヴァルに言う。

「ヴィルジニア……」

「なんだ、知り合いか?」

 青年が声を掛けてきた。青年は、すでにパーシヴァルと向かい合うのを止め、突如現れた集団を牽制している。

 パーシヴァルは溜め息を()きつつ、

「一番会いたくない奴だ」

 と面倒くさそうに応える。

「それしても懲りないな……いい加減にしないと、本当に家名に傷が付くぞ?」

 パーシヴァルの呆れ半分、気疲れ半分の声を聞いたヴィルジニアは眉を上げ、

「家名? 貴様のせいで勘当されたわ!」

「あらら」

 つまり、ヴィルジニア家はこの男と縁を切ったわけだ。

 確かに、家名を守るためには、それが一番なのだろう。おかげでこちらが最も被害を受ける羽目になったが。

 パーシヴァルは頭を抱えたくなった。

「首輪の外れた飼い猫ほど性質(たち)の悪いもんもないだろうに」

 青年が、パーシヴァルの心を代弁するかのように言う。

 今まで不自由しなかった人間が、突如何も無いところに放り出されようものなら、本当に何をし出すか分からない。

「貴様だけは絶対に許さんぞ、パーシヴァル! さぁ、先生方! お願いしますよ!」

 目の前の元貴族殿は逆恨みを選んだらしい。

 囲んでいる人間が、次々と剣を抜く。見たところ、ヴィルジニアを含めて九人か。身に着けているものから、金で雇われた傭兵といったところだろう。

「二人とも殺っていいのか?」

 男達の一人が声を上げる。

「騎士の方はそうしろ。もう一人は殺すな。生け捕りにしろ」

「おいおい、ずいぶんと面倒なこと言ってくれるじゃねぇか。両方とも殺っち待った方が楽だぞ」

 別の男の言葉に、ヴィルジニアは顔を(しか)めたが、

「なら、前金の倍出す。それでどうだ!」

「へっ、しょうがねぇか」

 パーシヴァルは今の問答で確信した。

 こいつらは人を殺すことを躊躇(ちゅうちょ)しない。むしろ生業(なりわい)としている連中だ。削げた頬と、暗い光を放つ目、そして薄く浮かぶ笑みがそのことを物語っている。

 さらに、ヴィルジニアの言葉から察するに、相手の目的は――

 そこまで考えたところで、背後で動く気配があった。金属同士の衝突音、肉を打つ音、そして押し殺した悲鳴が耳に届く。

 しかし、振り向いて確認する余裕はなかった。

 パーシヴァルは親指で軽く(ガード)を弾き、左手で握った軍刀(サーベル)を鞘走らせる。

 それが、眼前に迫った凶刃を弾き飛ばした。

 相手の身体が、無防備な状態で晒される。

 パーシヴァルは手首を返し、相手の右肩に二の太刀を落とした。

 親方が鍛え上げた刃は、革鎧(レザーアーマー)などものともせず、肩口から胸を存分に斬り下げる。

「風よ、我が命に従い、一筋の刃と化せ!」

 パーシヴァルは隊章の刻まれた短剣を抜きながら、詠唱を始める。

 幸いにも、今斬られた男が盾となったために、相手の妨害を気にすることなく魔法を放てる。

 短剣を投擲すると同時に、コマンドワードを発動した。

「“ウインドアロー”!」

 短剣の周囲に渦巻くか如く風が発生し、それが短剣を押す形で加速を生む。

 短剣の切っ先を矢尻とし、風と一体化した一本の矢が、別の男の右肩を撃ち()いた。

「げぇええええ!」

 男は絶叫し、地面を転がった。

 パーシヴァルはそれに目を向けることなく、左手のサーベルを突き出す。

 本来なら、刃に反りのある刀は、刺突には適さない。

 だが、この軍刀には、親方の工夫――疑似刃(ファルスエッジ)が施されている。

 先端の両刃が、相手の首を容易(たやす)く貫いた。

 これで、三人。

 パーシヴァルはようやく、青年の方へ向く。

 青年の周りには、すでに二人の男が倒れ伏していた。呻き声を上げているところを見ると、(とど)めは刺されていないようだ。

 彼は今も一人の男と剣を交えている。

 だが、一瞬の隙を突き、青年の斬撃が男の足を捉えた。

 さらに、青年は身を屈した男の胸を蹴り飛ばす。

 青年が構え直した横に並ぶように、パーシヴァルもまた刀の切っ先を残った二人に向けた。

「えぇい、何をしている! 早く倒さんか!」

 男達の後ろから、ヴィルジニアが叫ぶ。

 ずっと隠れて高みの見物を決め込んでいたわりには、随分と威勢が良い。

 その声に焦ったわけではないだろうが、男達は決死の表情になる。

「止めとけって。いくら金払われたって、命を懸ける金額じゃないだろ?」

 青年にしては、少々気の抜けた声で言う。

 説得をするつもりだろうか。

「黙れ! この商売は信頼が第一だ!」

「それで死んだら元も子もないだろうに」

 青年の忠告――というか、ボヤキも相手には届かなかったようだ。

 仕方なくサーベルを握りしめたところで、自分達を監視する「眼」を感じた。

 しかも、一人だけではない。

(どうするか)

 命じた人間は、想像が全く付かないわけではない。

「おい」

 突然、青年が小声で呼びかけてきた。

「こいつら以外に、隠れている奴がいるな……」

「あぁ。彼らとは別口だろうな」

「尾行してきたのは、こいつらか、あっちか、それとも両方か……」

「全く無関係とはいかないのかもな」

「何故だ?」

「……君だけを生け捕りにするつもりだからだ。狙いは」

「あの剣か」

「城から付けていたとしたら、完全に俺の失態だ……すまない」

「よせよ。それに、隠れているのはこいつら片付けてからでいいだろ……俺が右をやる」

「なら、俺が左だな」

 互いに目配せする。

 同時に動いた。

 青年に斬られた相手が倒れるが、パーシヴァルの斬撃は受け止められた。

 ここで、別方向から底冷えするような声。

「大気に潜む清廉なるものよ、秘めし鋭利を用い、彼の者を貫け!」

 ――詠唱!

 声の主はヴィルジニア、そしてその内容は――

 パーシヴァルは相手の(すね)を蹴り上げ、さらに男の顔を護拳(ナックルガード)で殴り飛ばす。

 そして、自分も詠唱に入ろうとしたところで、最後の通告(コマンドワード)が放たれる。

「“フリーズランサー”!」

 かつて、ヴィルジニアが放った“アイスニードル”は、魔力で空気中の水分を集め、凝固させて氷の針を作り出す魔法だ。

 今唱えた“フリーズランサー”も原理は一緒だ。

 ただ一つ、出来上がる氷針自体の大きさは除いて。

 氷柱(つらら)と呼ぶにも大きすぎる塊が三本、こちらに向けて放たれる。

 あれ程の大きさとなっては、以前のように刀で弾き飛ばすことなど出来ない。たとえ、親方の一品であろうと……

 そんな自嘲的なことを考えながら、迫る氷槍を凝視していると、パーシヴァルと氷槍の間に割って入る影があった。

「うぉおおおおおお!」

 青年は剣を思いっきり頭上に振りかぶると、勢いよく一本目の氷に叩き付ける。

 力任せに一本目を地面に叩き落とすと、返す二の手を、遅れて飛んできた二本目の側面に当てる。

 二本目の軌道が反れた。

 だが、かなり無茶をしたのだろう。剣が刃毀(はこぼ)れを起こした。

 三本目。

 青年は迷うことなく、剣の腹で受け止めようとした。

 鈍い破砕音、そして宙に舞う青年の身体。

 真っ向から受け止めた結果、三本目は運動エネルギーを失い、地面に落ちた。

 しかし、その代償は大きい。

 青年の剣は半ばから折れ、その衝撃に耐え切れなかった青年の身体が紙のように吹っ飛んだ。

「くそ、邪魔を……」

 悪態を()くヴィルジニア。

 パーシヴァルは我に返る。

「き・さ・まぁああああああ!」

 激昂。

 その怒気にヴィルジニアが一瞬怯む。

 パーシヴァルはサーベルを片手に疾走する。

 それに対し、ヴィルジニアは魔装具の付いた右手をこちらに向け、再び詠唱し出す。

 だが、遅い。

 パーシヴァルの左手が一閃し、ヴィルジニアの魔装具を、()めた腕ごと斬り飛ばした。

「ぎ、ぎゃあぁぁぁぁぁぁ! 手が! 手がぁ! あぁぁぁぁぁ……」

 切り口を抑え、地面を転げ回るヴィルジニアを冷たく一瞥(いちべつ)し、離れたところに倒れている青年に駆け寄る。

「大丈夫か!」

 軽く揺さぶると、青年は呻き声を漏らす。

 一応、意識はあるようだ。

 パーシヴァルは青年を肩で支え、その場を急いで後にする。

 ――監視の「眼」は、いつの間にか消えていた。

 後書きは後々更新します。

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