第十七話
<最近の日課>
・大学で、六時まで残り、夕飯を学食で食べる。
・マンションに戻るも、部屋の中が外よりも暑い。
・節電しなければならないので、近所のマクドナルドへ。
・現在、炭酸飲料が全サイズ百円なので、それを頼む。
・飲みながら、小説orレポートを書く。
・休みの日の場合、昼から近所のガストに行って、ドリンクバー飲みながら小説orレポートを書く。
パーシヴァル達が店に着くと、親方がそわそわと落ち着きなく店頭をウロウロとしていた。
「親父、すまねぇ、遅くなった」
「フォラーズ! 一体お前どこほっつき歩いて――」
そこで、親方はフォラーズの後ろにいたパーシヴァルに気付いたらしく、
「お前、今時分は登城しているはずだろ?」
「まぁ、ちょっといろいろと……」
パーシヴァルは先程起きた騒ぎを要約して伝える。
「なるほどな……なんか騒がしいと思ったら、そんなことがな……」
「で、戻ったところですぐに食事にありつけそうにないんで、おやっさんところで相伴に与れないかなぁ、と」
親方は「呆れたぜ」と呟き、
「まぁ、うちは大所帯だ。一人ぐれぇ増えたところで何とかならぁ。お前ら、とっとと飯にすっぞ」
フォラーズとあの青年が荷車を引いて裏口に向かった。
「もう少ししたら飯になっから、その辺で油売っとけ」
と言い残し、親方も奥に消える。
さすがにまだ店は開いてないので、店頭に商品などは並んでいない。
店の中に入り、椅子に座ろうとしたところで、机の上に大きな包みが置いてあることに気付く。
その包みには見覚えがあった。
「いくらなんでも、不用心だろ……」
それは、昨日あの青年に会った時に、彼が持っていたものだ。あの青年が武芸者に挑もうとした際に預かったので、よく覚えている。
――そういえば。
パーシヴァルはこの荷を受け取った時に感じた違和感を思い出していた。
少々気が咎めたものの、結局好奇心が優った。荷を覆っていた布をはがす。
その中身はパーシヴァルの予想通り、一本の剣だった。それも、かなり巨大なものだ。ひょっとしたら、自分の身長とあまり変わらないのかもしれない。
だが、パーシヴァルの興味は別のところにあった。
パーシヴァルはその大剣を片手で持ち上げる。
そう、この剣は大きさに反し、軽いのだ。今まで親方に従事し、数々の剣を見てきたが、この大きさでここまで軽い剣は見たことがない。
ここまで来たら、もはや湧き上がってくるものを抑えることは出来ず、今度は鞘を払う。
露わになったのは、鈍くも美しく――その中に確かな存在感を示す、白銀に輝く刃だった。
ごくり、とパーシヴァルは喉を鳴らす。
普通、このような剣は折れないように刃は厚めに作られているはずだが、その剣はその常識が通用しないほどに薄い。そのためか、刃の鋭さが際立ち、切っ先に関しては、突けばどんな槍も凌駕するほどの威力を想像させる。
飽くことなく眺めていたパーシヴァルだが、視界の端にあるものが留まった。
それは板金鎧の胸板の一部である。なんでそんなものがあるかと言えば、親方は古くなった武具や鉄くずなどを元値よりはるかに安い値段で買い取り、それを鍋や包丁などの日用品に叩き直して売っているのだ。元は鎧だった板も、あちこちが凹み、刻み込まれている傷がその歴史を物語っている。
このとき、パーシヴァルは試し切りをしたい欲求に駆られた。
パーシヴァルは左手に剣を保持した状態で、板金に右手をかけた。
次の瞬間、その板は宙を舞い、パーシヴァルの両手は剣の柄を握り締める。
パーシヴァルの口から裂帛の気合が漏れ、その巨大な刃が一閃された。
パーシヴァルの手に、金属同士の衝突による衝撃が伝わる。
店内にいくつかの音が響いた。ぶつかった金属の鈍い音――そして、切り裂かれた板が床に落下した音。
パーシヴァルは剣の刃を丹念に調べる。仮にも鎧に使われていた部品を切ったにも関わらず、刃こぼれ一つ起こしてない。
その強度にパーシヴァルの胸の奥に、驚愕、あるいは戦慄ともとれる感情が浮き上がる。
剣腹を指でなぞって傷を確認してみるが、傷は無い代わりに何かが彫ってあった。どうやら、文字のようだ。その文字を一つずつ読み上げる。
「〝D〟、〝e〟、〝s〟、〝t〟、〝i〟、〝n〟、〝y〟……」
――〝Destiny〟
その言葉は、古代グラン語で「運命」を意味する。
パーシヴァルは今度は落ちている板を拾い、切断面を調べた。まるで水面に薄氷が張ったばかりのように、滑らかで傷一つ無い。
脳裏に、別の剣が浮かんだ。
その剣はライトナイツ家に代々継がれた業物であると同時に、パーシヴァルにとっては絶望の象徴だった。
あの剣に触れたときから、あの剣を超える剣を求めるようになった。
家を捨て、親方に弟子入りし、自分の手で作ろうとまでしたのだ。
それは、憧れであり、夢であり――呪いだった。
今、目の前にあるのは、自分が求めたものに違いない――無限に広がる砂漠の中で、一粒の宝石を見つけたような歓喜が、パーシヴァルの身体を包み出す。
――欲しい。
胸の奥底から湧き上がる感情を抑えることは、予想以上に困難だった。喉から手が出る、とはよく言ったものだ。もっとも、そんなことするぐらいなら、もっと早く全てを投げ出して両手を伸ばしている。
激しい渇望の炎に身を焦がしながら、パーシヴァルは思った。
――これは、偶然か? それとも、この剣の名の通り……
「客人の荷物に何してんだ、お前は?」
その声にパーシヴァルはハッと我に返る。
見れば、親方が眉間に皺を寄せ、こっちを睨んでいた。パーシヴァルは慌てて剣を鞘に納める。
「騎士様とあろうお方が、他人の武器を物色するのはまずくねぇか?」
親方の声は静かではあったものの、明らかに抑えられないほどの怒気が含んでいた。親方はこういったことを極端に嫌うのだ。
「す、すまない、おやっさん……つい……」
思わず、情けない声が出た。
それを聞いた親方は嘆息し、
「ま、お前の気持ちも分からんでもないけどよ」
と付け加えた。
パーシヴァルは名残惜しく剣を見つつ、
「こんな業物、おやっさんには悪いけど、滅多にあるものじゃない……一体、彼はどうやって手に入れたんだ?」
と、疑問を口にする。
とてもじゃないが、あの青年のような一傭兵どころか、その辺の貴族も持っていそうにない。
親方がすぐに種明かしをしてくれた。
「拾ったらしいぞ。ただし、それ目当ての盗賊のオマケ付だ」
そう言い、親方は卓上から何かを投げた。受け取ると、それは腕輪型の魔装具だった。
「これは?」
「盗賊の頭領が持っていたらしい。なんでも、そいつ自信も依頼主からもらったとか……内側を見てみろ」
パーシヴァルは首を捻りつつ、言われた通りにした。
だが、すぐにその理由に思い至る。遅れながら、その腕輪が銀で出来ていることに気付いた。
「おやっさん、これを渡した奴が、あの剣を狙ってる、ってことだよな?」
「そうだろうな」
親方の言葉こそ平静としたものだが、パーシヴァルは同じようにする余裕がない。
腕輪の内側には、大小二本の線が垂直に交じった――十字架が刻まれていた。
銀、そして十字架――この二つのことから考えられることはただ一つしかない。
この魔装具を渡し、あの剣を求めた者――その正体は。
「教団!」
<D・W第十六話製作秘話および裏話>
……先程、かなりの長文を書いたのにもかかわらず、サーバーが繋がらずに消えたんで、今回は休みます。
同理由により、質問コーナーも休みます。
次回、第五章~名前~