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Destiny・Wars  作者: 梅院 暁
第四章 ~教団~
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第十六話

「やめろ!」

 ボルスの叫びに気付いた男が声の方向に顔を向ける。

 その時には、ボルスの右拳が男の顔に向けて突き出されていた。

 殴られた男が吹っ飛ぶ。

 ボルスは倒れている女性を起き上がらせ、

「逃げろ!」

「え、あの……」

「早く!」

 その女性はボルスの剣幕に驚いたか、その場から走り出した。

 不意を突かれた男は、気絶したのかそのまま起き上がる気配がない。

 一方で異変に気付いた男達がこちらに向かってくるのが見えた。

 ボルスは反射的に右手を背中を伸ばしたところで、今自分が剣を持っていないことに気付く。

 今ボルスが着てるのは、いつも身に着けている革鎧(レザーアーマー)ではない。鍛冶屋の親方から借りた作業着である。

 仕方なく素手のまま構えようとするボルスだったが、あることに気付いた。

 相手の顔は、こちらが抵抗し一人倒しているのにもかかわらず、笑っている。それに合わせ、武器の構えも隙だらけだ。要はこちらが一人で、かつ武器を持っていないことに油断しているのだ。

 先頭の男が、こちらに切っ先を向けながら(せま)ってくる。突き刺すつもりか。

 ボルスは敢えて避けようとはせず、むしろ男に向かって駆け出す。

 突然のボルスの行動に意表を突かれたか、男は慌てて切っ先を突き出す。しかし、特に狙いが定まっていないそれを回避するのは容易だった。逆に攻撃が避けられたことで体の泳いだ男の足に右足を引っ掛けると、男は呆気なく転ぶ。

 今度は二番手が上段に振りかぶって突っ込んできた。

 だがボルスは焦らない。

 男が剣を振り下ろす寸前に、両手で男の両手首を掴む。速度が乗る前に止められた結果、男とボルスは奇妙な態勢で睨み合うことになった。

 男がボルスの腹に蹴りを放ってきた。

 ボルスは蹴り飛ばされた――ように見せかけ、男の足が当たる直前にその身を背後の地面に投げた。ただし、掴んだ手だけは放さずに。

 そうすることで、自身へのダメージを最小限に抑えると同時に、蹴られた勢いを足して、相手の両腕に体重を掛ける。ボルスに引っ張られるようによろめいた相手の腹に、今度はボルスが右足を掛けた。地面に背中が着いた時、勢いそのままに相手を投げ飛ばす。さらにその反動を利用して後転し、片膝立ちの姿勢で上体を起こした。

 その手にはいつの間にか奪い取っていた剣が握られ、それを一閃する。

 ボルスに斬りかかろうとした三番手の男が、左足を斬られ、その場に倒れた。

 ボルスは剣を逆手に握ると、背後に突きを放つ。

「げえぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 肉を断つ感触とともに絶叫が響いた。

 振り向くと、最初に突っ込んできた男の鳩尾(みぞおち)を剣が貫いていた。

 男の断末魔を聞いたか、さらに何人かの男達がこちらに向かってきた。

 ボルスは刺した剣を手放すと、すでに絶命している男の手から剣をもぎ取る。

 その時、新たな喚声が上がった。

 見れば、鎧を着た兵士達が駆け付け、次々と魔法不能者達に斬りかかる。中には、紫の板金鎧(プレートアーマー)を着た騎士の姿もあった。

 ボルスを囲んでいた男達が慌てだす。

「くそ、こんなにも早くに来るとは!」

「どうする?」

「撤退だ!」

 男達が動こうとするところに、ボルスが進路を塞ぐ。

「邪魔をするな!」

 男の一人が叫んだ。

 ボルスとしては、軍が駆け付けた時点でこの場を去るつもりだった。だが、ここでこの男達を逃がせば、さらに被害が広がるだろう。

 ボルスは剣を構えた。

 男達がボルスに殺到したとき、

「大地の怒りよ、汚れし者達に裁きを――」

 と、詠唱するものがいた。

 ボルスはその声に危険を感じ、咄嗟(とっさ)にその場から離れようとする。

 しかし、遅かった。

 次の瞬間、ボルスが先程までいた地面が破裂した。襲い掛かってきた男達はおろか、ボルスもその衝撃に巻き込まれ、地面にその身を打ち付ける。

「どうだ、魔法不能者ども!」

 白い法衣を着た、教団の一人が杖を振り上げ、喝采を上げた。

 どうやら、男達が集まったところをまとめて魔法で片付けようとしたらしい――引き付けていたボルス諸共(もろとも)

 予想通りの結果だったのか、法衣の男は喜んでいる。そのためだろうか――背後から迫る男に気付いていない。

「死ね!」

 男の握る剣が白い法衣を切り裂いた。斬られた男は、何が起きたのか分からない、とその顔が語っていた。

 さらに、さっきの魔法を受けたはずの男達の内何人かが身体を起こす。

「くそ、舐めた真似を……」

 男達の様子からして、それほど効果はなかったようだ。

 一方、ボルスは身体のあちこちを打ち付けたせいか、すぐには動けそうになかった。

 男達はボルスに近づき、

「こいつのせいで同士が何人もやられた。どうせなら、撤退する前にこいつを見せしめにしないか?」

「そりゃあいい」

 と、剣の切っ先を向けてきた。

 ――ガラにもないことをした報いか。

 ボルスが覚悟を決めかけたとき、ボルスと男達の間に、何かが飛来した。

 男は咄嗟に剣で弾きながら、

「何者だ!」

 と、誰何の声を上げる。

 ボルスの目線の先には、紫の鎧を身に着けた、長い黒髪の騎士が立っていた。



 暴動の鎮圧に派遣された兵士に混ざり、パーシヴァルを含め騎士団から何人か駆け付けていた。

 だが、パーシヴァルは教団に対する反乱であると聞いたとき、内心やる気を無くしていた。というのも、パーシヴァルはそれほど教団に対する信仰を持ち合わせていなかった。正直なところ、教団の問題に巻き込むなと叫びたくなったほどである。

 よって、ほかの騎士達が魔法不能者達に積極的に挑む中、パーシヴァルは一人、後ろで巻き込まれた民衆の避難に努めていた。民衆が襲われれば、適当にあしらう程度のことはしたものの、基本的に自分から闘うようなことはせず、逃げ遅れた人間の避難を優先させていた。

 そんな中、突然の爆発音が響いた。

 何事かと見てみれば、見知った顔を見つける。

 躊躇(ちゅうちょ)の末、他の兵士を(つか)まえては残りの避難を任せ、単身駆け付けたのだった。

 しかし、どういうわけか、その青年は昨日着ていた青い革鎧ではなく、いつも行く鍛冶屋の作業着(もっとも、少し前まで自分も着ていたが)を身に着けている。

「なんだ貴様、たった一人で、まさかヒーロー気取りでもあるまい?」

 男の一人がせせら笑った。こちらが一人で来たことに余裕を感じているらしい。

 パーシヴァルは嘆息しつつ、答えてやることにした。

「別にそんなつもりはないね」

 ま、助けるのが妙齢の美女だったら話は別だが、と付け加える。

 だが、そのふざけた答えに、相手は苛立ったようだ。

「ちっ、こいつから片付けるぞ」

 全員の注意がパーシヴァルに向かった。

 パーシヴァルは、柄に手を伸ばしてこそいないものの、いつでもサーベルを抜けるように身構えている。

 ――さて、どうしたものか。

 一応、支給された魔装具を装備しているものの、あまり強力な魔法を使うことは出来ない。あの青年を巻き込む可能性があり、そもそも相手が詠唱する時間を与えてくれるとは思えない。

 魔法不能者は魔法が使えない。だからこそ、彼らの戦い方は単純明快で、相手よりも先手を取り、そのまま力押しで倒す――要は、魔法の詠唱をしようものなら、詠唱が終わる前の無防備な状態を狙ってくる。

 パーシヴァルは魔法を使うために、右手を上げ魔力を集中させ、口を開く。

 そこで相手が動いた――パーシヴァルの詠唱が終わる前に仕留めようと。

 しかし、パーシヴァルの口から出た言葉は詠唱ではなかった。

「〝ストーンブラスト〟!」

 コマンドワードである。


 そもそも、魔法を放つ際になぜ詠唱を行うのか?

 それは、言葉にして出すことで、魔法のイメージをより強固にするためである。

 魔法を放つためには、自身の持つ魔力を意図的に体内外に働きかけなければならない。だが、その「意図的に」というのが難しい。大抵の初心者はそこで(つまづ)く。

 そこで、魔力を働きかける際に、実際に発動した光景を脳裏に浮かべる。そうすることで、魔力の働きを自分の思う通りにコントロールしようとするのだ。

 しかし、それだけでは足りない。想像という精神力だけでは、安定した制御が行えず、強力な術を使うことが出来ない。仮に使えたとしても暴発という危険が付きまとう。

 その想像を実際に言葉にすることで、強固なものにし、安定した制御が可能となるのだ。


 パーシヴァルのコマンドワードにより、地面から数個の石礫(いしつぶて)が跳んだ。

 詠唱をせずに放ったそれは、通常より遥かに小さい。当たったところで、大した打撃を与えられないだろう。

 だが、パーシヴァルの狙いは当たった。

 相手は、詠唱なしで魔法を撃つとは思ってもみなかったのだろう。大した威力を持たないのにもかかわらず、出鼻を挫かれた。

 そして、少なからず勢いを減じた男達に向かい、パーシヴァルは猛然と襲いかかる。

 一人目に当て身を喰らわせ、二人目が剣を振るのに合わせて、軍刀(サーベル)を鞘走らせた。右腕の腱を斬られ、剣を落したその男の顔面に、軍刀の護拳(ナックルガード)を叩き込む。

 三人目が斬りかかってくるのを身体を捻りながら回避しつつ、回し蹴りを相手の腹に繰り出した。相手が仰け反ったところに、右手で頭を掴み、

「地面とキスでもして……な!」

 と、地面に叩き付ける。それで相手は昏倒する。

 しかし、四人目の斬撃は避け切れず、刀で受け止めた。鍔迫(つばぜ)()いしつつも、非力なパーシヴァルが徐々に押され始める。

「どうした! 最初の威勢の良さはどこに――」

 突如、男の表情に苦痛がよぎった。それに合わせ、一瞬男の力が弱まる。

 パーシヴァルはその隙を突いた。瞬間的に左手に力を込め、男の剣を押し返す。

 男はその顔に焦りを浮かべつつ、剣を振りかぶり、パーシヴァルの脳天に落そうとした。一方で、パーシヴァルはその時には男の首目掛けサーベルを一閃させる。

 それが、生死の境を分けた。

 男の剣がパーシヴァルに届く前に、サーベルの刃が男の首筋を(とら)える。血飛沫(ちしぶき)が飛び、男の剣は無益にパーシヴァルの横を流れた。

 パーシヴァルは血振りをし軍刀を鞘に納める。そこでようやく気付いた。

 男の右足には、別の剣が刺さっていた。

 ある種の予感がし、あの青年の方を見れば、いつの間にか立ち上がろうとしている。

 周りを確認すれば、騒ぎはほぼ治まりつつあった。

 近くにいた兵士に倒れている男達の後始末を任せ、青年の方へ近づく。

「借りが出来たか?」

 パーシヴァルが聞くと、

「……借りを返しただけだ」

 と、素気なく答える。

 パーシヴァルの予想通り、あの男の足に刺さった剣は、彼が投げたものだろう。

 どう礼を言おうか言葉に詰まっていると、

「ところで、そろそろ行っていいか? 親方達の朝飯を待たせているんだ」

 と、青年が別の方向を向く。それに釣られ、パーシヴァルが視線を向けた先には、荷車とそれに隠れるようにしているフォラーズの姿があった。

 パーシヴァルは笑みを浮かべ、

「そういえば、俺も朝食を食べ損なっていたな」

「どうするんだ?」

 パーシヴァルは思い付いたままを口にする。

「一緒に行って、おやっさんに恵んでもらおうかな。おやっさんのところは大所帯だし、城に戻っても報告を優先されそうだし」

「そうか」

 そう言って、青年は荷車の場所まで戻ると、荷車を引いて歩き出す。パーシヴァルは慌ててそれを追い、肩を並べつつ騒ぎが終わった後の街を歩き始めた。

<D・W第十五話制作秘話および裏話>


 前回の話では、物語中で重要な単語が二つほど登場しました。

 D・Wではほとんどの人間が魔法を使える、という設定にしているので、魔法に関する単語が結構出てきます。

 ときどき難しいのもあるかもしれませんが、質問してくだされば一つ一つ答えていきたいとは思っています。


<教えて! 梅院先生!>


 ついに二回目を迎えました、「教えて! 梅院先生!」のコーナーです。

 このコーナーでは読者の皆様からの質問に答えていきます。


 いつもお世話になっているラーさんからの質問です。


Q.(十五話の後書きで)ついカッとなってやってしまったのは、「悲しいけど……云々」というレドの台詞のところですか?


A.いえ、第二段落以降全部です。

  前半は、誰かの夢を見せ、少々シリアスになるか……と思ったらあのザマですよ。ちょっとふざけすぎましたね……

  ちなみに、問題のレドの台詞は明らかに某有名アニメのオマージュです。


 というわけで、次回もお楽しみに!

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