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Destiny・Wars  作者: 梅院 暁
第三章 ~邂逅~
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第九話

 一応、この小説は、剣と魔法のファンタジーです。

 乾いた音が響いた。

 自身がろくに構えていなかった状態で放たれた一撃。

 それをボルスは自身の頭に達する寸前で――

 木剣の柄の部分で受け止める。

 武芸者の目が驚愕で見開かれるのが、交差する木剣越しに見えた。

「おいおい、構えるの待ってくれたっていいだろ」

 ボルスは軽口を叩いてみたものの、実をいえば、その口調ほどの余裕はない。

 今、ボルスは木剣の刀身を左手で握り、右手は掌で柄を押すような形で添えている。

 問題なのは、左手の方だ。先程の打ち込みを防御した際の振動で、退いていたはずの痛みがぶり返してきた。

 もしこの体勢のまま押し合いを続けたら、明らかに自分の方が不利となる。

 長引いたら負け――ならば!

「長引かせなけりゃいいだけの話だろうが!」

 叫ぶと同時に右腕に力を込める。軽く曲げてあった右肘を一瞬で伸ばし、相手の木剣の切っ先を()らした。今度は、武芸者の体勢が崩れる。

 ボルスは文字通りその隙を突いた。刀身を左手で掴んだまま、柄頭で相手の右肩を突く。

 こちらの左腕に鋭い痛みが走った。しかし、この機を逃せば敗北することは、自分がよく分かっている。

 よろめいた相手の脇腹、左腿、左肩に向かって立て続けに突きを放つ。ほぼ狙い通りに命中し、その武芸者は地面に転がった。

 木剣の柄を右手で握り、切っ先を相手の首筋に突きつける。

「まだやるか? 別に俺は構わんけど」

「くっ……あんな滅茶苦茶な戦い方で負けるとは……」

「騙し討ちされるよりはマシだろ?」

 相手は二の句が告げれなくなったか、歯軋りする。

 しばらくボルスが油断なく見据えていると、ついに相手の口から降参の言葉が漏れた。

「某の負けじゃあ……」

 それを聞いた野次馬達が騒ぎ出す。

 ボルスが切っ先を首から遠ざけると、武芸者は木剣を杖代わりにして立ち上がった。よろめきながら、賭け金の入った皿に向かって歩き出す。

「さぁ、この金はそなたのものだ……受け取れぇ!」

 武芸者は、皿を掴むと、その中身全てを地面に向かってばら撒いた。

 それに焦ったのはボルスの方だ。何故なら、自分の払ったのは借りた金だからだ。

「何するんだよ!」

 文句を言いつつも、地面に(かが)み込んで銀貨を拾う。

「そして……これは某からの驕りじゃ、受け取れぇ!」

 武芸者の叫び声、そして周囲からは悲鳴が聞こえた。



 湿った音がした。

 周りの喧騒が止んだ。これが、骨が砕けた音だと理解したからだろう。

 人混みに視界の一部を遮られながらも、パーシヴァルは見ていた。

 武芸者が銀貨を地面にぶちまけ、不意を突いてあの青年に殴りかかったところを。次の瞬間、誰もが目を疑う光景を。

 銀貨を集め終わった青年が立ち上がった。逆に件の武芸者は地面に伏している。

 それは一瞬の出来事だった。

 青年の頭を木剣が捉える寸前、青年の右手に握られていた木剣が一閃――その一振りが、武芸者の右膝を砕いたのだ。

 その早業に、再び野次馬達が騒ぎ出す。

「何の騒ぎだ!」

 人だかりの向こうから怒鳴り声が響いてきた。

 パーシヴァルは嫌な予感がして、人混みを掻き分けて青年の方へ向かう。

 案の定、別の方向から巡回中の兵士が青年の方に向かっているのが見えた。

 パーシヴァルが一足早く人混みを抜け、青年に近づく。青年がこちらに気付き、何か言おうとするのを制止し、預かっていた荷を持たせた。

 ちょうどそこで、兵士達が人混みから姿を現す。

「貴様ら、何をしているか!」

 誰何(すいか)の声に、青年が何かを言う前にパーシヴァルは彼を(かば)うように立ち、

「私は、第十五騎士団所属の者だ」

 と、先に身分を明かし、左胸にある隊章の刻まれた短剣を見せた。

 途端に兵士達が姿勢を正した。

「き、騎士団の方でありましたか……」

 その口調も、心なしか、丁寧になっている気がする。

 この国の騎士の大半は、貴族の血筋だ。そのために、この国の人間の多くは騎士と貴族はほぼ同一であると考えている。

 この兵士達もまた、同様の考えで態度を改めているのだろう……まさか、目の前の騎士が、数日前までは自分達となんら変わらない役職だったとは、夢にも思わずに。

「その、何やら民衆が騒ぎ立てていたものでしたから……何があったのですか?」

 もう一人の兵士が、恐る恐る、といった感じで尋ねてきた。その聞き方は、騎士になったばかりのパーシヴァルにとって堅苦しく感じる。

 しかし、この状況はかえって好都合かもしれない。パーシヴァルは咄嗟に、

「うむ、実を言えば、そこに倒れている男が、こちらの方に危害を加えようとしていたのを目にしてな。駆けつけたときには、すでに返り討ちに合っていた。この方の身柄を確保して話を聞いたところ、どうやら金銭に関わる問題で揉めてしまったらしい。その男に怪我を負わせてしまったことを、酷く悔やんでおられてな……」

「な、なんと!」

「では、直ちにその男の身柄をこちらに! 後のことは、我々にお任せを――」

 パーシヴァルは「待て」と片手を挙げて兵士達を制する。二人が黙ったところで、

「そこの男は、骨を折る大怪我をしている。早く医者に見せないと危険だ。君達には、その男を医者の下まで運んでもらいたい」

「し、しかし、そうすると貴方が身柄を確保した男はどうすれば――」

「安心しろ。彼については、私が身柄を預かる」

 二人は、それを聞くと互いに顔を合わせる。

「し、しかし……」

「その男から詳しい事情を……」

 兵士達が交互に言うのを、パーシヴァルはわざと苛立っているように装い、

「もう一度言う。直ちに怪我人を運べ。まだ文句があるというなら、怪我の処置を済ませてから、騎士団に直訴すればいい。いつでも聞いてやる」

「い、いえ……恐れ多うございます!」

「も、文句など、滅相も……」

 哀れにも、二人の顔色がどんどん青くなっていく。たぶん、夏なのに肌寒い気温だけが原因ではないだろう。

「なら行け。一刻を争う」

「「は、はいっ!」」

 二人は倒れている男を拾い上げると、騎士や兵士がこの場に来たことで散り始めていた野次馬達に「怪我人が通るぞ! 道を開けろ!」などと叫びながら走り去った。

 それを見届けたパーシヴァルは肩の力を抜き、「ふぅっ」と息を吐く。

「よくもまあ、あんな出鱈目が言えたな」

 パーシヴァルは背後からの声に振り向くと、

「ま、あれだけ堂々と出来たことに自分でも驚いてるよ」

 と、呆れ顔の青年に向かって言った。

「それに、あのまま君が連れて行かれたら、俺が貸した金が戻ってこなくなる」

「そりゃそうだけど……とりあえず、あんたから借りた金と、分け前だ。受け取ってくれ」

 そう言って青年が十枚のうち七枚の銀貨を差し出してきたので、受け取る。

「随分と世話になったな。じゃ、俺はこれで……」

 と、青年は残りを財布に仕舞いながら立ち去ろうとした。

 だが、パーシヴァルは、

「いや、まだ用があるんだ」

 と、青年の左手首辺りを掴んだ。

 青年の顔が一瞬強張ったのを見て、パーシヴァルは確信する。

「やっぱり、君も怪我をしているようだな」

 青年の目が見開かれる。

 左腕の袖を捲り上げると、赤く腫れ、所々に潰れた水ぶくれのある傷が見えた。

「この様子から、傷そのものは何日か前に出来たが、完治していない、といったところか……近くに、俺の知り合いがやってる店がある。そこでなら治療できるだろう」

「いや、これ以上あんたに世話を掛けるわけには……」

 それを聞いたパーシヴァルは笑みを浮かべながら、

「そう言われても、先程彼らに言ってしまったからな……君の身柄は俺が預かる、と。このまま放ったらかしにしたら、俺の責任力を問われてしまう」

 と、有無をも言わさず連れて行こうとする。

 すると、青年は慌てて、

「わ、分かった、分かったから引っ張るな! 痛いし、恥ずかしい!」

 と、手を振り(ほど)こうとするので、「これは失礼」と、パーシヴァルは手を放した。

 先導のために青年の前を歩きながら、パーシヴァルは考える。

 今見た傷……あれは、大きさから見て炎系統の魔術による火傷だろう。

 そして、先程の戦いで彼の見せた実力……一体、彼はどのような旅を続けてきたのだろうか。

 彼の青年に対する疑問が、さらに深まるパーシヴァルであった。

<D・W第七、八話製作秘話および裏話>


 気付けば、前回は料理シーンの言及だけで終わってたんで、第七話分も含めて……

 第七、八話は、同じ場面をボルスとパーシヴァルそれぞれの視点で描いています。

 何でこんなまどろっこしいことをしたかと言うと……読み返してみたら、第六話までにそれぞれのキャラの容姿についての記述が無いことに気付いたからです。

 いくらなんでも、料理シーンに力入れといてキャラの容姿を無視しちゃうのも酷すぎるんで、ちょうど二人のキャラを出会わせたんで、それぞれのキャラに相手の方の容姿を説明してもらおう、と思ったわけで……はい、分かってます。自分の文章力の無さが招いた結果と言うことは……



<その後の料理シーンについての進展>


 最近、帰省した際の母との会話より……


私「最近さあ、私の書いてる小説で、料理している場面について思いっきり突っ込まれちゃったんだよね」

母「ふーん、どんなん書いたの?」

私「えーと、ただ単に、主人公がベーコンとチーズを炒めてただけだって。フライパンと、油を取り出して……」

母「ちょっと待ちや。自分、今何て言うた?」

私「(……何でうちのおかんいきなり関西弁になっとるん?)え、だから、フライパンと油……」

母「おかしいやんけ!」

私「何が?」

母「野宿してる人間が、何でフライパン持っとんねん!」

私「突っ込むところそこ!?」

母「もう、野宿での料理なんて、その辺の棒っ切れに材料ぶっ刺して、焚き火で焼きゃあいいんじゃ!」

私「何千年前の調理法だよ! いくらなんでも、そこまではいかないでしょ……ちゃんと、包丁で切って……」

母「包丁とまな板、どっから出した!」

私「突っ込むところそこ!?」

母「ハ○ジのお爺ちゃんはなぁ……山小屋に住んでるってのに、鉄の棒の先にチーズ刺して、暖炉で温めるんだ……そして、トロリと融けてきた段階でパンに乗せるんだ……肉なんかも、ナイフで削り取って、なめるように……」

私「なんか論点ずれてませんか!?」

母「うるさい! とにかく、ハ○ジのお爺ちゃんだってそうだったのに、なんでボルスは立派な調理器具があるんだ! ハ○ジのお爺ちゃんを見習え! ハ○ジのお爺ちゃんを! フライパンや包丁など、邪道だ!」

私「何回ハ○ジのお爺ちゃん言うねん! どんだけアルプスの少女が好きなんだよ!」


 ……とまぁ、こんな会話がありまして……

 さてさて、次回から、ボルスの料理はどうなることやら……

(注:この小説は『剣と魔法のファンタジー』です)

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