ルナ画伯
ラシーとルナの独房ライフもあと後数時間で終わる。
なんだかんだでラシーとの独房生活も楽しかったな、とルナ・コートリアムは横でベッドから半身ズリ落ちそうな体勢で寝ているラシーを見ながらクスリと笑う。
徒然なる思いを革製のカバーを掛けた日記帳にルナは絵付きで書き記している。
普段からラシーと同室で生活しているルナは彼女が寝た後にこっそり日々の記録を取るのが日課だった。
「ラシーちゃんはS●GAの佐野厄除大師……と」
「……フガッ……んんっ…ルナ? 何書いてるんだし…?」
一度ビクッと痙攣したように動いてから目を覚ましたラシーが瞼を擦りながらゆっくりと起き上がり、日記帳をマジマジと見ながら問い掛けてくる。
「おはようラシーちゃん、とうとう見られちゃったみたいだね。これは子供の頃からの習慣にしてる記録なの。イメージも後で読んで思い出せるように絵も描いてるの」
「この石板の上にいる黒白と黄白赤の縞模様のカラスみたいな絵はなんだし?」
「バー●ャファイターのアキラとジャッキーだよ?」
「おい! 前衛的な絵じゃねぇか! アキラとジャッキーがアポロチョコみてえだし‼︎ ピカソみたいだ!」
「フフフ…ラシーちゃん、私はルナ・コートリアムよ」
「おめえがルナなのは明白だバカチンが‼︎ じゃあこっちの濃い緑の蜘蛛みたいのはなんだし⁉︎」
「ラシーちゃんって実は目が悪いの? これはどう見ても沙耶お嬢様じゃない」
「おかしいのはお前の画力だ‼︎ これのどこが沙耶なんだし⁉︎」
「これはね、濃い緑色をしてるのが沙耶お嬢様の艶やかな黒髪を表しているの。自信作なんだから」
「形を重視しろこの画伯が‼︎ じゃあこっちは……あー…これはなんとなくわかるし…」
ラシーが指差す絵は赤いペンで描かれたマッチ棒に枝毛が生えたような棒人間。
「ほら見ればわかるんじゃない、誰だと思う?」
「赤いから艦長だし…」
「正解、艦長の凛々しい姿を如実に描いたの。じゃあこっちはわかる?」
少し楽しくなってきたルナが上の方が茶色で下の方が肌色のどんぐりのような絵を指でトントンと叩く。
「どこからどう見てもイナイナだし…」
「ねっ? イナクスくんてわかるよね。とっても上手に描けたと思うの。そうそう料理とかの絵も描いててね」
ペラペラとページを捲り、ルナが調理した料理の記録らしきところを開く。
「これはなんだと思う?」
「なんだし? この緑と赤と黄色の花火?」
「もう‼︎ ほんとにわからんチンなんだから‼︎ これはサラダよ、赤と黄色はパプリカで緑はレタスじゃない」
「はい」
「隣にあるのはなんだかわかる?」
と、薄黄色の円盤を示す。
「うーん……溶き卵?」
「コンポタージュにしか見えないでしょ? ラシーちゃんたらもしかして老眼だったりするの?」
「お前色だけ合ってりゃ描けてるとか勘違いすんなよ‼︎ 釣りたてのカツオのようにピチピチのミニナイスバディのウチが老眼なわけないだろが‼︎」
ルナはそんなラシーをものともせずに平然と、
「そういえばそのピチピチのラシーちゃんも描いたの‼︎ どこだったかしら?」
バラバラバラと日記帳を操り開いたページには、
「待て待て待て‼︎ この黒い竜巻に襲われてる棒人間がウチじゃないだろうな⁉︎」
「とっても可愛く描けたと思うの‼︎ ほら、この竜巻の中の縦線なんてラシーちゃんの長いまつ毛に見えるでしょ‼︎」
「さっきからお前の描く絵はサイコホラーの荒れ果てた精神科病棟の壁に描いてある絵なんだよ‼︎ いい加減にしろ‼︎ マジでビビるぞ⁉︎」
「ラシーちゃん‼︎ これでも10年以上絵を描いている人にそんなこと言っちゃダメでしょ‼︎ もうこの前描いたエグゼクティブナポリタンと呪術の刃を見たらそんなことは言えないわよ?」
「エグゼクティブナポリタンと呪術の刃ってなんだよ⁉︎」
そして、晴れて独房から解放されたラシーとルナ。
艦長室に改めて篤国沙耶に謝罪をするようにアルバに呼ばれた次第である。
「この三日間でしっかり反省しただろうな?」
「お姉ちゃん‼︎ 釣られる時スルメが歯に当たって痛かったんですからね‼︎」
「沙耶…艦長…コイツの方が危険人物だし…」
と、静かに隣のルナを指し示す。
「ラシーちゃん⁉︎」
「被害者振るな…アホ画伯…呪術の刃書いてろ…」
第一独房シーズン終了です。