ラシー&ルナのS●GA日記
チンパオはお休みです。
「眼鏡のルナの事だからテレビゲームなんてやったことないだろ?」
「普通ゲームやる方が眼鏡してそうだけど…確かにやったことないけどなんで? ラシーちゃん?」
王都コロニーの最大権力、篤国財閥の令嬢である篤国沙耶をスルメで釣り上げた罪により放り込まれたメイルストローム号の独房にルナ・コートリアムを道連れに引き摺り込んだラシー・セルシー。
この狭くて簡易的な懲罰房にふたりきりになり1時間ほどルナに戯れ付いたラシーであった。
「友達二人揃ったらゲームをやるのがセルシー家のしきたりだし!」
カッ!と言い放つラシー。
「そんな事言ったってゲームなんてどこにも無いじゃない?」
「ちっちっ…ルナ、ウチが休みとあって遊ぶ道具を持って来ないわけがないだろ?」
懐をゴソゴソ漁るとラシーは服の中からA4サイズのタブレット端末とゲーム用コントローラーを取り出す。
「もう完全にここに居る理由は休暇なのね? 全くいつもよりまな板だと思ったらそんなの潜ませて…」
「ちなみにコントローラーはS●GA製だし…………おい? 今なんつったルナ?」
「ん? 何もおかしな事は言ってないよ? それよりS●GAって何?」
ラシーはタブレット端末をスタンドを使って机に斜めに立たせてセッティングを始める。
「かつてS●GAは圧倒的な科学力で地上に君臨したゲームメーカーだし。異世界に行ったおじさんもS●GAで戦い方を学んだという文献を見たし。グラムライズにもデデーンとあるだろう? S●GA?」
「古代からあるゲームメーカーなのね?」
「常に奇抜なアイデアでゲーム界を牽引して来たのは紛れもなくS●GAなのだ。まあ、ルナもやってみればそれがよく分かるし。ほれ、このサターン式コントローラーを持ってみろ。お前とウチは今日からセガールだ」
ダークグレーのコントローラーを困り顔で受け取るルナ。
「私、ゲームのゲの字も知らないんだけどなぁ…」
そう言いながらコントローラーを眺めると、
「コンピューターのキーボードより大分キーが少ないのね? 握って操作するから丈夫で持ちやすいようではあるけど…」
ルナは試しにカチャカチャと触りながら率直な感想を述べる。
「キーではなくボタンと呼べし。ルナの激しい遊びにも耐えられるくらい頑丈だから安心しろ…S●GAを舐めるな…よし! 早速何か遊んでみよう! 行くぞ! バー●ャファイターでウチと勝負だ!」
スルンと袖からもう一つコントローラーを出すラシー。
「ゲームって激しく遊ぶものなのね? ねぇ…その服の中ってどうなってるの?」
ラシーは顔の横にぶら下げた縦ロールを揺らしながら悪戯な表情をした口の前に人差し指を当てながら、
「企業秘密だし…いいからやるぞ?」
と、コントローラーを素早く操作してゲームを進める。
タブレット端末には操作するキャラクターを選ぶ画面が表示されている。
「わあ、カクカクした強そうな人達が映ったわ」
「このカクカクしたのはポリゴンってやつだし、この中から好きなキャラを選ぶんだし。要は試しだフィーリングで選んでみろ」
「じゃあ…この主人公っぽい人にする」
「ほう、アキラを選ぶとは安直だな、ルナ。初心者から上級者まで使いやすい人気のキャラを選ぶとは…」
「ラシーちゃんはジャッキーって人?」
「ジャッキーは見た感じかっこいいからな‼︎ ジャッキーはウチの王子様だし‼︎」
「ラシーちゃんも大概安直な選び方だと思うんだけど…」
「いいからやるぞ‼︎ ウチは手加減出来ない人だからけちょんけちょんにやられながら学べ‼︎」
5分後…
『K.O.』
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ‼︎」
鼻が膝に付く高さまで俯いてコントローラーを頭上に挙げ顔を隠すラシー。
「ラシーちゃん! ちゃんと手加減出来てるよ‼︎ ゲームやったことない私が勝っちゃった‼︎ ゲームって面白いのね‼︎」
初ゲームでの勝利に歓喜するルナ。
ラシーはガバッと頭を上げると、
「まっまあなっ‼︎ ウチにもビギナーにいきなり本気を出すほど幼稚な勝負感は無いのだっ‼︎ 次は本気で打ちのめしてやるしっ‼︎」
『K.O.』
「ラシーちゃん‼︎ また勝たせてくれたんだね‼︎ ラシーちゃんの戦い方からはS●GAの楽しさを伝えたいって気持ちがすごく伝わって来るもん‼︎」
「S●GAの素晴らしさが分かったみたいだな‼︎ 三度も勝たせるほどウチは甘くないからな‼︎ 次こそS●GAの伝道師の本気を見せてやるしっ‼︎」
気合いを入れるラシーに向かってルナは、
「ラシーちゃん‼︎ ジャンプってどうやるの⁉︎」
「………上…」
そして三時間後…
『K.O.』
「フッ…………」
引き攣った笑みを見せるラシー。
「もうっ‼︎ ラシーちゃん‼︎ いつになったら本気出してくれるの‼︎ せっかくハマって来たのに一回も本気出す出すって本気出してくれないなんて酷い‼︎」
プンスコと頬を膨らませて怒るルナの肩にラシーはそっと手を置くと、
「ルナっ‼︎ 力ある者というのは決して自分より弱い者に本気モードを使ってはいけないんだしっ‼︎ 実力を出して良いのは肩を並べるかそれ以上の相手にだけなんだしっ‼︎」
真剣な眼差しのラシーの瞳をルナは同じく真剣にじっと見つめる。
「ラシーちゃん…いや、師匠…」
ラシーはそれに頷きで返すと上品な口調で、
「ルナ…お前がウチと同じレベルになるまでウチは負けてやる。いつかウチに本気を出させてみろ」
「はいっ‼︎ 師匠‼︎ 防御ってどうやるんですか⁉︎」
「A…ルナ…真の強者の勝つ姿を見たいか?」
「はい! 見たいです!」
「なら、ルナは次の対決でパンチしか使ったらダメだからな?」
「えっ? なんでですか?」
ラシーはルナの肩に乗せた指に力を込めると、
「本気のお前をウチが叩きのめしたらお前が傷つくじゃねぇか!! お前が傷つくところなんてウチは見たくないんだよ! ウチの本気はそのくらいダメージを与えるほど鮮烈なんだ!!」
「それが師匠の武士道なんですね…なんて慈愛に満ちた志…」
「それがS●GAの意志だ、さあ、剣を握れ! お前に至高の極みを見せてやる!」
「コントローラーのことですね?」
『K.O.』
「やった! パンチだけで勝っちゃった! 師匠? もしかして私は真剣にやらない勝負でも師匠が本気を出すまでもない未熟者なんでしょうか?」
不安そうにラシーの背中を摩るルナ。
当のラシーは激痛に耐えるように下を向いたまま溜め息を吐き、
「………………………………………………………………ソウダ…コノヒヨッコガ…」
自分の通ってた学校にはS●GA派がいっぱいいたのでとても楽しいS●GAライフでした。