ラシー&ルナのザリガニ釣りでいってみよう!
「はあ〜憂鬱だなぁ〜…」
ルナ・コートリアムはメイルストローム号のラシーと共同で使っている部屋の二段ベッドの下段にうつ伏せになって項垂れる。
今はオフ時間なのでニットの部屋着姿である。
「どうしたルナ? あの日かし?」
丈の長いパーカーのラシーは上段から顔を出しルナの様子を覗く。
「違うわ。この前、ジャンボニラ増し餃子食べてから艦長ちょっと私から距離を取っている気がするの…」
「そりゃあ、お前のチートスキルのエロ喰いでピノキオったから顔を合わせづらいんだし。男心をわかってやれし」
「ピノキオったって何? ただ普通に餃子食べただけで距離取るなんて艦長、実は餃子食べる子嫌いなのかな?」
「お前のあの食い方のどこが普通だし? 自分が食われる側だとアイツも理解したんだろ」
「艦長って食品なの?」
「ちょい待てし...」
ラシーはゴソゴソと上段のベッドに戻ると、短くカットされたスルメを持ってまた顔を出す。
「ラシーちゃん? それで何を?」
「ほれ、お前の実力を見せてみろ!」
と、ルナの口にスルメを無理やり捩じ込む。
「フグッ! ....んむ....にゅむ.....あ....固い……ん…んん〜…すごい臭い……はぁ…味が染み出してくるぅ......」
「最早エクストラスキル卑猥喰いだな。それを使えば艦長のは大樹ユグドラシルだ」
「....ゴクン...私ラシーちゃんが何を言ってるかわからないんだけど?」
「しかも自動発動か...奴の負け確だし...」
「?」
困惑するルナを無視してラシーは続ける。
「まあ、ダンザニア大学の研究では男というのは科学的検知からするとRPI理論を適用した場合塩基配列でいうシュリンプ、つまりはザリガニのようなものなんだし。奴のヴェガも見た感じザリガニとかタラバガニに似てるし、VSAの操縦理論だと自分に似た機体は扱いやすいのだ。つまり奴はそこら辺にスルメを置いときゃ寄ってくるし」
「艦長って科学的検知からするとザリガニなの? 絶対それっぽい言葉並べて適当なこと言ってるよね?」
「信じるか信じないかは、あなた次第です」
と、逆さまになったままルナを指差すラシー。
「ラシーちゃん? 流石に私もその程度の嘘は見抜けるよ? 艦長どころか人がスルメに反応する生き物なわけないじゃない」
毛糸のライオンのぬいぐるみを抱えて少しムッとした顔でルナはラシーを睨む。
「じゃあ、手っ取り早い検証方法があるし」
「ねえ? 私たち本当に何やってるの? 側から見たら不条理な人なんだけど」
現在ラシーとルナは部屋着のまま居住区画の廊下の端っこの窪みに身を潜め、タコ糸の先にスルメを縛り付け、廊下の真ん中に放置している。
「ルナ、よく聞けしタコ糸にスルメを括り付けて仕掛ければ大概の生き物は釣れるという論文が篤国の禁忌資料室には大量にあるんだし」
「またそれっぽいこと言って…ラシーちゃんって実はバカなの?」
「バカはスルメを甘く見てる貴様だし、見てろ、大物を釣ってやる」
「なんで宇宙戦艦の廊下で釣りしてるのよ?」
ルナが呆れていたその時、ラシーの握ったタコ糸が引かれる。
「掛かった‼︎」
「嘘っ⁉︎」
ラシーはタコ糸を力一杯手繰り寄せる。
「いててててっ‼︎」
スルメを握っていたのは…
「イナクスくん‼︎」
「どんぐりマン釣れたし‼︎」
ラシー達の同僚で同じ艦橋で航宙士をしているイナクス・シェイクリスプである。
「君たち何やってんの?」
「スルメで人間が釣れるのか検証中だし‼︎ 1匹目を祝してスルメに似た臭いのするイナイナからもルナに言ってやれスルメの重力的引力を」
「男にスルメに似た臭いとか言わないでくれる? 全然言ってる意味がわかんないんだけど…そりゃ廊下にスルメなんて落ちてたらなんだろうって拾うでしょ?」
「きっとザリガニもそういう気持ちなんだし、勉強になったかルナ?」
「ザリガニがスルメに引き寄せられる理由がそんなに人間味があるとは思えないけど、ラシーちゃん果たしてこれって釣りって言えるのかしら?」
「釣りって言うんなら口に咥えたの釣らなきゃちょっと違うんじゃない? 手伝ってあげるよ。もっと確実に検証するには…」
「と、いうわけでスルメをお皿に乗せてみました。床に直に置いたら誰も口に入れないからね。あと糸は肉眼じゃ見えないくらい細いのにしたよ」
ノリのいい男イナクスである。
「なかなかわかってるじゃねえかし!お前のドングリ頭の刈り上げはトンカツの衣の如し!これで釣れたらルナの固定観念を瓦解させる事が出来るし!」
「その前にラシーちゃんの正気が瓦解してるんだけど」
「うるせえ‼︎ スルメ臭のするイナイナは釣れたじゃねえか‼︎」
「拾っただけだけどねー、あとスルメ臭とか言わないでね」
「しっ‼︎ 獲物が来たし」
皿に乗ったスルメの前に一人の少女、篤国沙耶である。
「クイーン出た‼︎」
ラシーは歯を剥き出しにして目を光らせる。
「沙耶お嬢様は流石にスルメじゃ釣れないと思うわよ?」
「待てし、奴の挙動がおかしい…」
沙耶はスルメの前でキョロキョロする。
「明らかにスルメに興味を示しているし」
「沙耶お嬢様、そんなはしたない」
沙耶は周りに人がいないのを確認すると、スルメを手に取り…
「食った‼︎ 引け‼︎」
「きゃっ‼︎ なになにこれなんなんです‼︎ スルメが生きてる⁉︎」
口に入れたスルメを引っ張られ取り乱す沙耶。
「おっしゃ‼︎ スルメでマグロクイーン釣れたぞ‼︎」
後日の艦長室。
「おいラシーわかってるな? 三日間独房だからな? あと俺のことピノキオMAXホルダーって言いふらしてるのお前だろ?」
S.A.V.E.Sの母体財閥の令嬢にイタズラを働いたラシーにブチギレたアルバ・デルキランが静かに告げる。
「はい…」
「食事もなしだ」
「それだけは勘弁してください。何でもいいから食べ物だけはください…」
「わかった。なら三食スルメだ」
「はい…」
たまにはこういう本当にくだらないのも大切だと思うんですよ。