ラシルナアルバ
今回もチンパオは休業しようとしたがハヌマッチにビンタされた!
「チンパオ!最近俺たち全くパオって無い!」
「忘れてたぜハヌマッチ!パオるの俺たちなんだよな!」
「ルナルナ、何気にルナとごはんは5日ぶりだし、ウチちょいテンション上りマックスだしっ‼︎」
航宙技術の発展した現在においてオペレーターの仕事はシステム面の保全と本部への報告事項の報告が終わってしまえば、あとは交代勤務なので自由な時間は結構ある。
メイルストローム号の食堂に向かう為、廊下を並んで歩くラシー・セルシーとルナ・コートリアムの二人。
ラシーは普段と変わらず左右の黒髪縦ロールを揺らして歩く横で普段はお淑やかなルナがどこか鼻息が荒い。
「今日は週に一回の特別メニュー、ジャンボニラ増し餃子が食べれる日だから朝も昼もちゃんと食べてきたの‼︎ 準備万端よ‼︎」
「そこはしっかり食べてきたのかよ…あんな明日が臭いそうなもんよく食うし…うちはあんなの胃が受け付けんし…」
「餃子って食べると臭うの? 知らなかったわ…そういえばラシーちゃんは焼肉食べると次の日はなんかムンムンした匂いがする」
「それが普通だし! あの時は臭い消しタブレット買い忘れてたんだし…貴様はガチのもの食っても無臭だったし……その消化器の悪臭分解能力が羨ましいし…なんでお前みたいな箱入り娘の好物がゴテゴテのラーメンとか餃子なんだし?」
その質問にルナは腰の前で両手を擦り合わせモジモジしながら、
「ラーメンと餃子はアルバ艦長が初めて私に奢ってくれたものなの…グラムライズでも場末のラーメン屋だったんだけどとても美味しくてね。それまでは精進料理みたいなものしか食べたことなかったから、あんなに身体に悪そうなものがこんなに美味しいなんて思わなくて…」
と、ルナは恥ずかしそうに頬に両手を当てて左右に振る。
「先代の大事な娘を餌付けするのに選ぶもんじゃないし、何考えてるんだヒゲ艦長…」
「だってお父様は武術一辺倒で食事にも気を遣っているから私の食べるものにも影響が出ちゃって、それを逆に良くないって、うちに住み込みで修行に来ていた艦長が屋敷から連れ出して食べさせてくれたの…」
「なるほどやるな艦長…年端もいかないただでさえチョロい性格の女児の家柄を逆手に取った見事な洗脳だし…」
「チョロッ……‼︎ ちょっとラシーちゃん言い方ってものがあるでしょう? そうだ‼︎ この前も艦長にいつもの口調で話しかけてたよね? 艦長は優しいから許してくれるけど規律のためにも目上の人間にだけは敬語は使いなさい?」
「はーい」
と、間延びした返事をするラシー。
「もう、本当にわかってるんだかわからないんだから…」
不安そうに呟くルナが小さくため息を吐いた時だった。
「あああーーーー‼︎」
野太い男の叫び声が廊下の向こうで聞こえる。
一瞬遅れてガタイの良い男がこちらに向かって全力で走って来る。
「艦長⁉︎ 一体どうしたん…⁉︎」
「俺は美味しくないよーーーーーーー‼︎」
言わずと知れたこのメイルストローム号の艦長にして王都最強のVSAパイロットのアルバ・デルキランが二人に見向きもせず横を過ぎ去って行く。
「何があったっていうの?」
アルバの背中を戦慄の眼差しで追うルナに反してラシーはアルバの足跡を辿るように視線を動かすとハンッと笑った。
「見ろ、ルナ…お前にラーメンを教えた奴が恐れているものの正体だし」
と、足元の床を指差す。
「地球の自浄作用…」
地球の自浄作用はラシーの股の間を駆け抜け、アルバを追うように床を這って行く。
そして、
「ラシーお姉ちゃんとルナさん? 今こっちの方から艦長の叫び声が…」
すぐ傍のトレーニングルームから顔を出したランニングウェアを纏う篤国沙耶と地球の自浄作用が鉢合わせる。
「あらら……キミはこっちですよ〜……」
沙耶は廊下のダストシュートの蓋を開けると地球の自浄作用はそこへ静かに入っていく。
「そこの方が食べ物があって安全ですよ〜」
パタリッと笑顔で沙耶は蓋を閉める。
「これが器の違いってやつだし、わかったかルナ?」
勝ち誇った表情のラシーがルナに話を振る。
「………」
「ルナさん?」
「…………」
タオルで顔の汗を拭いながら傍まで来た沙耶がルナの顔を下から覗き込む。
「お姉ちゃん? ルナさん白目剥いて気絶してますよ?」
「よく考えるとこいつと艦長は立場は違えど同じ釜の飯を食った同類だったし、弱点は自浄作用だったか……」
「お姉ちゃん? それはどういう…?」
場所は変わり食堂である。
「ルナとラシーが俺を食事に誘うなんてどういう風の吹き回しだ?」
部屋着なのか黒いスウェットの上下にパーカーを羽織ったアルバ・デルキランとルナとラシーがテーブル越しに向かい合って座っている。
「プフーーーーーーーーッ‼︎」
「ちょっとラシーちゃん目上の人には敬意を持って‼︎」
「ラシー? 何がおかしい?」
「いや…ふ…は…なんでも…ブヒファッ!」
「ラシーちゃん!」
「ルナ! 何がおかしいかわからんが些細なことがあっても整然としていられるようにお前からも教えてやってくれ!」
「さ…些細なことで…せい…ぜ……フハーッ!」
「ラシーちゃん!艦長だから!自浄作用に勝てなくても目上の人だから!」
「自浄作用? なんのことだ?」
「い…プッ……いや…上には上がいるって事が…へへ…よくわかったんですよ…自然とか…」
「何を言ってるのかよくわからんが、注文はしといたからそろそろ来るぞ?」
メイルストローム号の食堂はタブレットで注文した料理がベルトに乗せられテーブルの横まで運ばれてくる回転寿司形式だ。
もちろんS.A.V.E.Sの隊員は何を食べても無料である。
そしてゆっくりベルトに乗って運ばれて来たのは、
「こ…これは…!」
「ジャンボニラ増し餃子だ、ルナは好きだったよな?」
「はい! 今日はこれのことばかり考えていました!」
香ばしく焼かれたひとつがバナナくらいの大きさの羽付き焼き餃子が6個並んでまだ羽がバチバチ言っている。
感謝感激のルナは顔の横で合掌しているが、
「………」
「ラシーも今日はお疲れ様だ。これを食べて今夜は部屋でよく休んでくれ」
「……はい、ありがとうございます。大変な感激であります」
「なんだお前らしくない喋り方だな? 普通に喋ってくれた方がお前の場合話しやすいからいつも通りでいいぞ」
「じゃあ…オイコラ!消臭機能の低い女の子にこんなガッツリ男飯休暇前でもないのに食わすなしっ!アホンダラー!これ食ったら明日女として死ぬし!」
「いや、でもルナはこういうのが大好物だからお前だってきっと」
「ルナはこう見えてアイアンストマックだし! 女の子のスタンダードはウチの胃だぁ!」
「なら食べないのか?」
「食べるし…食べ物を粗末にするのはマミーに反するし…じゃない!艦長はもうちょっと異性の習慣に配慮をするべきだし!そんなんじゃルナを任せられないし!」
堰を切ったように憤慨するラシーの横で、ルナは辛抱堪らなくなりジャンボニラ増し餃子に箸を伸ばし口に運ぶ。
「ん…ふ…アツ……ふ…こんなに…大きい……ハフ……ングング……」
「………」
アルバとラシーはその様子をしばらく観察する。
「…おいし……んはぁ…すごぉい…ん…お汁が……溢れちゃう……チュル…あふぅ……ん……ん…ふぁ…おいしぃ〜…もっとちょうだ〜い…っ…」
ルナに視線をロックして固まっているアルバを眺めて少し考え込んだラシーはテーブルの下に潜る。
「よしっ!ルナ!その調子だし!エロ喰いスキルで奴のジュニアはピノキオオーバーフロー状態だしっ!お前がハットトリックで今日のエロティックストライカーMVPだ!」
本編書きながらおもいついちゃったんだもん!仕方ないじゃん!




