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レゾナンス誤解事件

 これはメイルストローム号が王都コロニー、グラムライズを出航して間も無い時に起きた事である。


「ラシーちゃん? ラシーちゃん?」

 肩まで伸ばした銀髪にトロンとした垂れ目を細いフレームの眼鏡で隠した透き通るように白い肌を白いワイシャツで覆いその上に紺色のS.A.V.E.Sの隊服風ジャケット、下は短いタイトスカートを履いた色気のある若い女性、ルナ・コートリアムが隣にいる同じ服装の黒髪縦ロールを左右に結えた、幼い印象を受けるが何処か小悪魔的面持ちの同僚、ラシー・セルシーにゆっくりとした口調で話しかける。

彼女達は今、定期的に点検する必要のあるメイルストローム号の管制システムの出航後第一回目のチェック作業中である。

 彼女達は横に並びコンソールになっているデスクに向かい、篤国財閥が開発した船だからかやたらとフカフカの椅子に腰掛けてキーボードを叩く。

「なんだし部分ジャイアン?」

 黙々と作業しながらラシーは棒読みで返事をする。

「ブブンジャイアン? ふふふっ…突然何処かの国のごはんの名前なんて言ってラシーちゃんたら食いしん坊さん」

 片目を瞑りラシーの顔を見ながらクスクスと笑うルナ。

 やれやれとため息を吐いたラシーは、

「貴様の耳には部分ジャイアンが料理の名前にき…こえなくもないか…どうでもいいし、それよりなんだし? 艦長の話ならもう聞き飽きたし」

「私そんなに艦長の話してた? あのね。今回レゾナンスに向かうのはいいんだけど、ほら、あの子。沙耶さんなんだけど」

 ルナはそう言って後ろの今は艦橋に不在の艦長席の隣に立ち船窓から何処か遠くを見つめている少女、篤国沙耶の方にラシーと目を合わせてから顔を動かして視線を誘導する。

 丸みはあるが意志の強そうな少し鋭い瞳をした深緑にも見える黒髪を龍の刺繍の入ったリボンでツインテールにした、凛とした立ち居振る舞いの少女である。

「うちの親戚に何か用だし? ルナ?」

「うん、今回のレゾナンスに行く目的はS.A.V.E.Sの任務でも必ず危険を伴うものじゃない? だからこの艦のリーダーにアルバ艦長が選ばれたんだし? 学園コロニーだから学生として不自然の無い年齢の子供を連れて行くのはわかるけど、なぜ篤国の大事な御令嬢をかなぁ? って思って…」

 沙耶から視線をラシーに戻して目で疑問を投げかける。

「それはなアホンダラ、アイツが頭がキレて激強の小娘だからだし」

「聖耶さんの噂はよく聞くけどお姉さんの沙耶さんも優秀なのねぇ…」

 小さく感嘆しながら少し目を大きく開くルナ。

「あの小娘はそこら辺のS.A.V.E.S隊員を束にしてもぶっ殺してくる可能性の方が高いし、レゾナンスに学生として乗り込ませるにはとにかく強くないといかんし。知ってるし? レゾナンスは辰真流のサラブレッドとか、格闘技大会総ナメにしてるステゴロなら無敵の赤い娘とか、エロ天才スポーツ特待生とかノートパソコンをゲヘヘといじってるメガネとか、そいつらを操る四次元ポケットセクハラ教師とかが支配してるって噂を聞くし」

「ひとりだけ割とよくいる子じゃないかしら?」

「なんの話ししてます?」

「ヒッ…」

 知らない間にラシーとルナの間に後ろから前屈みで顔を覗かせる篤国沙耶。

「ラシーお姉ちゃんお久しぶりです!」

 屈託の無い笑顔の沙耶にラシーは眉をピクピクさせながら拒絶するように背もたれに背中ををへばり付かせる。

「お前…うちに気付いてたのか?」

「沙耶お嬢様お疲れ様です。ラシーちゃんどうしたの?」

「…」

 二人と目を合わせないように斜め上を見ながら顔に滴るほどの冷や汗をかくラシー。

「この艦の顔合わせで名前聞いた時には別人かと思いましたがやっぱりラシーお姉ちゃんですね〜」

「ら、ララ、ラシー違いじゃないかし? うちはお前知らんし」

「あー、さっきラシーちゃん、沙耶お嬢様のこと親戚って」

「ほら、ラシーお姉ちゃんじゃないですか、才蔵叔父様とキャシー叔母様は元気ですか?」

 腰に手を当てて全くと言いながら沙耶は胸を張る。

「……久しぶり…パピーとマミーは元気だし…」

「沙耶お嬢様とラシーちゃんはどういう関係なんですか?」

 ただ親戚という割にはぎこちない様子にルナは質問してみる。

「ラシーお姉ちゃんと私は従姉妹に当たります。私の父親とラシーお姉ちゃんの父親は兄弟になります。私の父親が兄でお姉ちゃんの父親の才蔵叔父様が弟ですね。セルシー家に婿入りしたんですよね。セルシー造船ってこの艦の施工主なんですよ。昔はお姉ちゃんによく遊んでもらいました。でも、その頃のお姉ちゃんはお人形遊びが好きなぐるぐる…」

「うわー!!やめろしっ!!」

「なんでです? 見違えましたよ、あの頃のお姉ちゃんは瓶の底みたいな分厚い眼鏡で三つ編みで黒いワンピースをよく着ていて、こんな近くで見なければわかりませんでした。話し方も随分はっちゃけましたね」

「言い方変えても伝わったらわかっちゃうしっ!!!」

「ラシーちゃんそんな地味子だったの!?」

 今のラシーは服装こそ整っているが黒髪なところ以外どちらかというと派手な印象がある。

「テメェら宗家はなんでも言っちまうなし! 沙耶こそ昔から聖耶さん聖耶さんブラコンみたいに聖耶にベッタリだったじゃん! 今もそうなのかし!?」

「それは聖耶さんは可愛いですし」

「双子の弟可愛いとか言ったら自分可愛いって言ってるようなもんだしっ! 聞いてるこっちが恥ずかしいしっ!」

 そこで沙耶もカチンとくる。

「お姉ちゃんだって従妹が至近距離で見ないと気付かないくらいのイメチェンするのも度が過ぎてて笑っちゃいますね!」 

「キーーーーッ!」

 立ち上がり憤慨するラシーに対峙する沙耶が対抗するように胸を反らす。

 ラシーはその胸を見ると急にポカンと口を開けて固まる。

「貴様…いつの間にそんなに巨大化したし? お前のダブルマウンテンは昔はぺったんこだったはず…お前、そこに地球共鳴使っただろ?」

「なっ!?」

 カッと赤くなった沙耶が周囲を見ると、システムチェックをしていた男性クルー達が沙耶…いや、沙耶とラシーとルナの胸を凝視している。

「自分に治癒とか言って細胞活性化させて豊胸したんだよ、この改造人間め…ほんとお前は…」

 恨めしげに沙耶のダブルマウンテンを見つめるラシー。

「ちょっと待ってお姉ちゃん! 殿方が見て聞いてるんですけど! 地球共鳴は私利私欲に使っていい力ではないですから! 自分に…あまつさえ怪我もしてない胸になんか…! そう! 遺伝子にこうなるように組み込まれてたかアレが効いたんです! レゾナンスの発育のよくなるマッサージ機! きっとそれで血行が良くなったわけですねっ!」

 沙耶は恥ずかしくなると思考回路が少しおかしくなる。

「それ今持って来てる?」

 最早、論点がすり替わりラシーの頭には胸の事しか無い。


「レゾナンスってそういうのも作ってるのねぇ…」

 同僚が自分の所属する組織の最大手のスポンサーの血族だと知ったらもっと驚きそうなものだが、ルナはとても素直である。

 







ラシーは私的にお気に入りキャラです。

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