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ファイナルコペンハーゲン流出

 清太は苦悩していた。

 最近の節子はナポリタンへの執着が普通だとは思えないからだ。

 節子に求められるがままに1日3食ナポリタンを与えしまったせいか、節子は近頃すっかりナポリタンにだらしなくなってしまっていた。

『なぁ〜…兄ちゃん…もっとナポリタンちょうだ〜い…?』

 と、事あるごとに甘えるようにナポリタンを懇願してくるのだ。

 襲い来る衝動に遂に、

「ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

 頭を抱え清太は葛藤する。

 涙がとめどなく流れ嗚咽を漏らす。

 もっと…もっと…自分がナポリタンを速く作れれば…ジャンプが売り切れる前に買いに行けたのではないだろうか…?

 ダメだとわかっていても清太には抗う術はなかった。


「節子…節子…今日のナポリタンはウインナーを乗せてみたで!」

「うわぁ!粗挽きやぁ!」

 清太が差し出したウインナーナポリタンに節子は歓喜の声をあげてむしゃぶりつく。

 その様に清太の背筋に寒気の様な快感が走る。

「節子…ウインナーうまいか?」

「うん!ウインナーで口の中いっぱいや!」

「……っ…ふっ…うっ…」

 清太の喜びに高鳴る胸に暗い悪意が湧き上がる。

 それは節子を思い通りに弄びたいという欲求であった。

「節子?もっと激しいナポリタン食べたくないか?」

「うん!うちもっと荒々しいナポリタン食いたい!」

「…くふ…ふふ…それなら節子…コイツを乗せればさらにナポリタンは荒ぶる神々の領域になるで…」

 清太が取り出したのは紙包み、それを開くと包まれていた物をナポリタンの上に置く。

「コロッケや!」

「実はな節子、兄ちゃん昨日夢でわけわからんおばはんにコロッケの力あるって妖しい霊感商法みたいなこと言われたんや、でもな、そのおかげでホ…ホ…ホォウ……………………………ホタテもいいけどコロッケもナポリタンに合うって気付いたんや、兄ちゃん市場で如何わしいホタ…ホ…はぁ…はぁ…くっ……ホ…タテ買って不審者だと思われて死刑になるのはちょっと怖くてな。こんな弱くて変な兄ちゃんでごめんな節子」

「全くや!」

 なんて正直な妹に育ったんだろうか、それだけで清太の快楽中枢はドーパミンを大量に放出する。

「…く……くぅっ…ふっ……うああ…」

 この瞬間が堪らなくて自分は生きているのだ。

 清太はもうナポリタンを作る事に迷わないと決めた。

 そして、ジャンプを定期購読しようと硬く心に誓った。


「おい!ルナ!コイツジャンプ買い逃しただけで泣き叫んでるぞ!ていうかウインナー食べさせてる今回で確信したし!この兄貴妹を性的に見てやがるし!しかも節子は兄ちゃんの変質者振りに気付いてるっぽい!」

 メイルストローム号の食堂でルナがいよいよ清書し出したファイナルコペンハーゲンの原稿を読んでラシーがなんじゃこりゃー!?と叫ぶ。

「言い方が汚いわよ!レディーとして見てると言いなさいよ!男の子ってジャンプ売り切れてると凄く落ち込むじゃない?そのセンチメンタルな描写が欲しかったのよ」

「この断末魔みたいな泣き方をセンチメンタルと言えるのか!」

「こんなに泣くほど清太にはジャンプを買うことが大切だったと思えばとても感動的だと思わない?」

「思わない!」

「ラシーちゃんって冷徹なのね。少しがっかり」

「下ネタっぽくホタテを言い淀む奴に感動は覚えねぇよ!」

「見損なったわ!普通ここまで読んだら清太の様に泣いてるはずよ!血も涙もないのね!猗窩座で泣いたりしないんでしょ!?」

「ルナぁぁぁぁっ!!」

 ラシーはルナの肩を掴むと、

「あれはよかった……」

「うん、よかった」

「よかったし」

「凄くよかった」

「凄いよな」

「凄い」

「てか、清太を基準にするなぁ!ウチは極正常な絶対可憐美少女だからな!」

 ルナをガクンガクンと揺さぶり出す。


「ギャースギャースと何を揉めているんだ?」

 迷惑そうな表情のアルバ・デルキランがミートソースのパスタを盆に乗せて二人のテーブルの横に佇んでいる。

「艦長!聞いてくれし!ルナがすんごいエロい官能小説書いてるんだし!コイツを禁錮刑にしてくれし!」

「ちょっとラシーちゃん!どこにもそんなシーン無いじゃない!」

「ちょっとルナ、隣座って読ませてもらっていいか? 俺も読書は好きな方なんだ。読めばジャンルくらい判別出来る」

 ルナが横にズレるとアルバはそこに腰掛けテーブルにパスタを置く。

「私は正統派な愛をテーマにした小説を書いてるつもりです。でもラシーちゃんが気色悪いだのキモいだのと意地悪言うんです」

「誰が読んでも同じ感想だぁ!これは絶対なんか変な意味で優秀な作品だし!」

「どら、見せてみろ」

 ラシーが原稿をアルバに渡すと、熟読し始める。

「ファ…イナルコペンハーゲン?」

「略してファイコペだし!」

「このタイトルはラシーが考えたのか?」

「なんで真っ先にウチを疑う?」

「違うのか?」

「はい、全て私が考えました」

「…」

 アルバは目頭を抑えながら上を向くとここには居ない誰かに向けて小声で、

「キチゃったよ…師匠…今の今まで娘にあんたらしい部分が全く無いと思ってたら…そうでもなさそうだ…」

「あー…」

 アルバに同意する様にラシーが抑揚のない声を出す。

「えっ!父と私一回も似てるって言われたことないですよ?」

「そりゃ見た目がこんなに違えば誰も似てるどころか血の繋がりさえあるとは思うまい…まぁ、文章というのは内容が大事だ黙って読ませろ」

 改めて綴られた原稿に目を落とす。

 ルナは気恥ずかしそうな視線でアルバをチラチラ見て待つが、普段から大量の書類に目を通しているからかアルバのページを捲るスピードは速い。

 そして、読み終えると、

「これはとても…」

「とても?なんだし?」

「まともな作品ですよね!」

 ラシーとルナが急かすがアルバは俯き。

「俺もうこのパスタ食べたくない…」

 と言って机に倒れながらパスタを二人の前に差し出す。

「ほらな!言ったし!これキモいんだよ!」

「艦長!ハッキリ言ってくれないと私達モヤモヤします!」

「つまらなくはない、いや、面白いから続きは読みたいけど…」

「「読みたいけど?」」

「気持ち悪い…」

 死んだ魚の目でアルバは呟く。

「ほら!普通こうなるんだし!」

「創作は面白ければいいんですー!」

「おめぇ!遂に開き直りやがったな!」

 アルバに読ませた事でファイナルコペンハーゲンは艦内で話題になったそうな。

「ラシーちゃん!」

「なんだよコラ?」

「マンチュイソーよ!」

「だからわかんねぇんだよ!」



 


 


ファイナルコペンハーゲンは作者が思いつき次第続く。

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