素直になっていいのかな?
「節子。今日は兄ちゃん節子の為に特別なナポリタン作ったったぞ!」
清太は息を切らしながらテーブルに皿を置く。
「わあ!今日のナポリタン真っ白やぁ〜!」
「兄ちゃん特製の特濃ホワイトシチューを掛けたナポリタンや!兄ちゃんカントリーマアムには絶対負けるわけにはいかんのや!ドロドロで喉に絡みつくけど全部食べるんやぞ!」
「うん!麺も極太やぁ!」
節子は清太の特濃シチューをナポリタンに絡め、頬張り始める。
「…ふぅ…っ…」
何度も味わって来た興奮だがやはり昂ってしまう。
自分のナポリタンが節子の身体の一部になって行く様は清太にとって何にも勝る愉悦だった。
「節子!兄ちゃんのナポリタンは節子だけのもんや!残したらお仕置きやからな!」
「こんなにうまい兄ちゃんのナポリタン残すわけあらへん!極太ナポリタンはうちのや!」
「兄ちゃんをからかうんやあらへん!兄ちゃんのはまだまだ極太とは言えへんからな!」
妹が自分のナポリタンを極太と思ってくれている、清太はもう節子専用なのだろうか?
「違う!兄ちゃんのは極太や!うちこんな太いの見たことあらへんもん!」
なんて曇りのない表情で欲望の塊のナポリタンを食べるのだろう、清太は手の震えを堪える事が出来ない。
節子はナポリタンをあっという間に平らげると、
「あふぅ…兄ちゃんのナポリタン……うまかった…」
「ふ…ぐ……ぐぅ……」
清太は至高の言葉に当てられ、遂には意識を失ってしまった。
「兄ちゃん!」
「清太…清太…」
聞き覚えの無い声に呼ばれ清太が目を開くと、
「な!なんやここは!?」
「清太、あなたはこの異世界ナポロポリタンに勇者として召喚されたのです」
二つの惑星が隣り合わせに見える宇宙のような場所に清太は漂っていた。
目の前には彫刻の様に美しい純白の外套を羽織った女性が清太と同じように浮いている。
「清太…あなたはこれからナポロポリタンの地に降り立ちコロケティの息吹の力を使い、穢れた大地を再生する旅に出るのです」
「んな旅に出るか!ワイは節子にナポリタンを食わせにゃならんのや!そんな旅他の奴に頼んどくれ!ワイは節子にナポリタン食わせてイクんや!ワイの人生は1にナポリタン!2にナポリタンや!まだ節子にホ…ホ…ホタ……ホ…タテ…ホ……ホォウ………ホッ…ホタテ入りのナポリタン食わせてないからな!お前が誰か知らんがワイのナポリタン道を阻むならお前にもワイの特濃ナポリタン食わしたる!」
「あ、呼ぶ人間違えました。すみません」
「ハッ!」
目覚めると清太はベッドに横になっていた。
頭を横に向けると節子がベッドの端に上半身を乗せて寝息を立てている。
節子が看病してくれたのだろうか?
いや、恐らくそうだろう。
そんな節子を思うと清太の意識はハンマーで殴られたように身体からまたカッ飛んでしまいそうだ。
「節子…兄ちゃん、わけわからん勧誘断って帰って来たで…」
清太は節子を起こさぬよう呟き、節子の頭を撫でた。
「お前絶対下ネタ書きそうになるとナポリタンって書いてるだろ!なんでカントリーマアムに対抗意識を燃やしてるんだし?!てかこの兄貴の興奮のツボがキモいし!しかもナポリタンが美味かったって感想言われて感極まってぶっ倒れてるし。女神が異世界に召喚しようとしたのに清太のヤバさに気付いてキャンセルして戻されてるんだが?ルナ?今のところファイナルコペンハーゲンの先が全く読めないんだがなんなんだこの小説は?あとコロケティの息吹ってなんだし?」
「そうね。まだわからないよね?私もわからないから。ラシーちゃん?コロケティの息吹ってなんだろう?」
「お前が知らないならウチが知るわけないだろが!行き当たりばったりで書いてたのかお前!」
「それは違うわ。その時私が考え得る最高にロマンティックな話書いてるんだから」
「それを行き当たりばったりっていうんだよ!ナポリタン食ってる節子見て兄貴が昇天しそうになってるのが最高にロマンティックなのか!?あと一度流したが清太は普通にホタテって言えないのか?!お前やっばいな!どういう感覚で書いてるんだし?」
「勘よ!」
「プロっぽいこと言ってるけど貴様の書いてる内容ポルノだからな?」
「とか言ってなんだかんだで読んでるじゃない。ラシーちゃんのマンチュイソー」
「マンチュイソーってなんだよ!!」
メイルストローム号の大浴場である。
場内は隅から隅まで大理石で作られた豪華なものだが、戦艦という限られたスペースでは男女兼用時間交代制という制限が付く。
今は女子が利用出来る時間帯で麗らかな女性クルー達が素肌を晒して湯浴みを楽しんでいる。
「ルナ? ちょっと相談したい事があるし、聞いてくれる?」
滑らかな肌をタオルを巻いて隠し、大浴場の広い湯船に浸かりながらどこか思い詰めた表情のラシーは隣りで同じく薄い布一枚に身を包んだルナに熱っぽい視線を送る。
「なになになに!?ラシーちゃんやっぱり好きな人いるのかな!?任せなさい!このルナさんが解決してあげる!!」
いつになくテンションの高いルナがフンスと鼻息を荒げながら胸に手を当てどんと来いと促す。
「ルナ…ウチね?最近ある人のこと考えると胸がトクンってするの…これって何かの病気なのかな?」
「キャー!!ラシーちゃん!!それはきっと恋よ!!もう!
今のラシーちゃんすっごく可愛い!!」
頬を両手で包みルナは盛り上がる。
「ウチが可愛いのは当たり前だ…ルナ? ウチその人の前だとつい強がったりしちゃうんだし、これってウチがその人の前だと緊張しちゃってるってことなのかな?」
「うんうん!恋ってね!最初は素直に認められないことなの!その人ってどんな人なの?」
「多分この艦の中の誰よりも強い人だし」
一瞬でルナが氷漬けになったように固まる。
「ルナ?どうしたんだし?」
「いや…あの…ラシーちゃん?強いって口喧嘩が?」
「そんなひん曲がった解釈要らないし、ただ肉体も精神も強い素敵な人だし」
この艦の誰よりも肉体も精神も1番強いとなると該当する人物は一人しか思い付かない。
「いや…だってラシーちゃんいつもその人と喧嘩してるじゃない?それなのに…あのその…え〜と…好きなの?」
ルナは両手の人差し指を突き合わせながら質問する。
「だってその人、ウチの為に一生懸命になってくれたりするから…最近になって改めてあの人見たら凄くかっこよくなってる気がして…」
ラシーはほんのり赤く染まった顔でポーっとステンドグラスになっている天井を眺めて言う。
「でも…でもさ…ラシーちゃん?その人の事好きな人他にも結構いると思うんだけど…」
「そんなの関係無いし、それに二人きりの時はウチのお願いいっぱい聞いてくれるから、悪くは思われてないと思うし…ルナ?ウチ…素直になっていいのかな?」
「二人きり…の時は…お願い聞いてくれる…?」
ルナは鉄骨で頭を殴られたように目の前がグワンと揺れる。
「それに前より綺麗な瞳で熱い眼差しで見つめてくれて、もうウチ最近そればかり頭に浮かんで仕事が手に付かないんだし…」
と、ラシーは自分の人差し指の第一関節の辺りを口に咥えて遠い目をする。
「ら…ラシーちゃん…?に…?その人熱い眼差しするの?」
そのラシーの仕草は正に、
(ちょっと待って待って!?この感じは本気で恋する乙女なんだけど!えっ!?ラシーちゃんも艦長の事好きなの!?だって昨日艦長にラシーちゃんトルネードナックルやってたよね?!あれって好きの裏返しだったりするの!?艦長も艦長で私の知らない所でラシーちゃんの事見つめてたりするの?!)
「ルナ?どうしたんだし?」
「えっ!?いや!なんでもないよ!?ラシーちゃんもそんな艶っぽい表情するんだなぁって思ったり思わなかったりでなんというかルナさんちょっとパニクってます!!」
裏返った声で返すルナだが、
「ウチはライバルが多くてもその人の1番になってやろうって覚悟してるし…だって…す…す…好き…なんだから…あ……ウチやっと好きって言えた…」
「うっ!うん!そうね!?素直になってもいいんじゃないかな!私も応援してる!」
「そっか…へへ…ウチその人だ〜い好きぃ…♡」
惚けた笑みでラシーはそう言うと、
「ルナ?そろそろ上がるし…」
タオルを押さえて立ち上がり湯船から出る。
「ルナ?何白目剥いてるんだし?あんまり長く浸かってるとのぼせるから行くぞ」
「あっ!はいっ!待って待って!」
ラシーを追うように大浴場から出るルナ。
ラシーの背を見る視線に力が入る。
(ラシーちゃん!今日から恋のライバルだね!正々堂々勝負してやるんだから!)
脱衣所で畳んでおいた部屋着にラシーは着替えながら、
(ああー!部屋戻ったらタブレットで最新機種で出たバーチャ●ァイターでジャッキー使って戦おっと!ポリゴンのジャッキーもかっこいいけどやっぱ最新機種のジャッキーは眼差しからして違う!コントローラーの反応もいいのか願った通りに動いてくれるし!ああ!マジで最新機種のジャッキー大好き!好き過ぎて顔が赤くなる!)
はい、なんか流されるままに書いてたらルナとラシーが恋のライバルみたいになりました。ルナの勘違いみたいですが本当のところは…どうなんでしょうね?(笑)




