ラシー&ルナの通信体験教室 反撃の回
「…というわけで、昨日はそういうクソガキどもにしゃくれ行く魂の話をしてやったんだし。その後リュカをビビらせて遊んだ」
「それでリュカくんいつもは食堂で口説いて来るのに、昨日は隅っこでオムライス食べてたんだ?」
いつもの艦橋でラシーとルナは任務の目的地レゾナンスが間近に迫ったので、いよいよ理事長への挨拶をする為に通信システムの最終調整をしていた。
「どうやら、あのガキどもにはウチの声がおばさんに聞こえたらしいからマイクがおかしいことになってるんだし! 新品のマイクに付け替えたから次は大丈夫だと思うし!」
「そうね、年齢的に言えば私達も学生で通じる歳だから、ちょっとおばさんの声って言われたらショックかも…」
「流石にボインなルナをおばさんって言うならわかるんだが、ウチをおばさんって言うのは失礼過ぎて水車に縛り付けて鼻から水が入って苦しむ所を横でピルクル飲みながら観察しててやりたいくらいだし」
「私はラシーちゃんと同い年です! それに学生相手にどうしてそんな残酷な仕返しを思い付くの?」
「ピルクルのどこが残酷だぁ! お前さてはカルピス派だな!」
「そっちじゃないから!」
「なんだ水車の方か…ルナ…ウチは見た感じ中学生に見えなくもないだろ? 寧ろ高校生の沙耶よりもミ…ニマム…ではないウチはビッグだ」
「ラシーちゃん! 何言ってるか分からないから!」
そんな二人の耳に着けたインカムに着信音が入る。
周波数計を見るラシーの顔が固まる。
「この周波数は昨日の…」
「昨日の学生さん? ねえ? 確かこの艦って普通民間の通信機器からは繋がらないはずだよね? 関わらない方がいいかもしれないから無視しましょう?」
「いや、寧ろ好機だし。二度と繋げて来ないように叩きのめしてやる。ルナ! 繋いだらラーラーラーだ!」
「えっ!? 何!? ラーラーラーって…!?」
構わずラシーはスイッチを押して通信を承認する。
『またカイトがいじくり回してるから昨日のとこと繋がっちゃったじゃない! 昨日のおばさんですか?』
明らかに昨日の学生のうちの一人の女子学生の声である。
「ラ…ラ…ラーラーラー♫」
「コチラハオウトツウシンキチキョクオルスバンサービスデス、コチラノツウシンハイップン、ニ、ハチジュウエン、ノ、リョウキンガハッセイシマス、コノママツウシンヲ、ツヅケマスカ?」
「ラーラーラー♫」
電子音声による対応の体でまず白を切ってみる作戦に出たラシー。但し、これは始まりの挨拶にしか過ぎない。
『なんだ…なんかのカスタマーサービス的なのに繋がったみたいだな? でもこの声ってやっぱあのおばさんじゃね?」
「オバサンデハアリマセン、オネエサンデス、ワカリマシタラ、1、#、ヲオシテクダサイ。ワカラナイバアイハ、2、#、ヲオシテクダサイ」
「ラーラーラー♫」
『なんか磯野サザエみたいな喋り方の電子音声だな、2#っと』
「ツウシンニ、2、#、ナド、アリマセン、アタマガオカシインデスカ?」
「ラーララ♫ラララ♫ラーララ♫」
『なんかムカつくぞ! このカスタマーサービス!』
カイトという学生が言うと、おそらく彼らの背後からの少しマイクから遠い成人男性の声が入る。
『自立型AIかもね。可愛いじゃないか。ここはAIに詳しい僕に任せなさい。ヘイッ! お嬢さん! 今日のパンツの色は?』
『なんであんたはAI相手にもセクハラするのよ!』
「ムラサキ、デス」
「ラッ!? ラーララ♫ラララ♫ラーララ♫」
『なんかちゃんと答えてくれたね』
『BGMが動揺した気がするんだけど気のせいかしら?』
『AIの割に勝気な下着の色を選ぶねぇ。実にいい。声の感じから体型を予想するに胸はBくらいかな?』
「Dだ!バカヤロー!」
一瞬でラシーが素に戻り激昂する。
「ラシーちゃん! 演技が台無しなんだけど!」
『ほら! やっぱり昨日のおばさんじゃん! 何カスタマーサービスのフリしてんすか!? しかももう一人いるし!』
軽い感じの男子が聞くと、
「お前ら性懲りも無くなんでまた繋いで来やがった!?」
「ラシーちゃん! 学生さんだから優しくしてあげて!」
『ラシーちゃん? おばさんラシーちゃんっていうんですか?』
「コイツは2号だ。頭がおかしくてウチを飼い犬のラッシーだと思ってるのだ」
「私2号でも頭おかしくもないから!」
「文句あんのか! 1号の座は渡さねえぞ!」
「そこに異論があるわけじゃないから!」
『2号さんはおねえさんって感じの声ですね! 美人そう!』
「ありがとう…ラシーちゃん! 私はおねえさんだって!」
「おい! テメェ! それどういう意味だ!?」
『まあまあ、私達、昨日のお詫びにちょっとおばさんと楽しく話してみたくて…』
「おばさんじゃねえつってんだろ!!」
『じゃあどんな人なんですか?』
「そうだな、ウチは若くて可愛くて優しくて気立てが良くて人気者で頼りになって頭が良くてスタイルも良くてお金持ちの娘でジャッキーの嫁で綺麗でいい匂いがしてマルチリンガルで料理が上手で目がパッチリまん丸でまつ毛が長くてーーー」
5分後。
「………etc…動物によく懐かれて伊勢海老のランブロスに毎日ごはんをあげててとにかくすごい」
『おばさん絶対子供の頃グレートデリシャスタイフーンとか言ってた人でしょ?』
「絶対言わねぇ」
「言ってそう…」
ルナが白けた目でラシーを見る。
『おばさんが凄いことはわかりましたけど、確かめる為に勝負していいですか?』
普通の男子が勝負を挑んで来た。
「かかって来いよ! ウチの無敗伝説の一部にしてやるし! なんでもいいから勝負してやるし!」
『しあわせガルーダって映画知ってますか?』
「もちろん見たし」
『俺あれ十回見たんですよ! おばさんは?』
「八十五回、おばさんじゃねぇ」
『負けた』
もちろん適当に言っただけである。
『な、ならわんこそばだ! わんこそばは食べたことおばさんあります?』
「浴びるほどよく食べるし、おばさんじゃねぇ」
『俺は百五十杯食べたことあるぜ! おばさんは?』
「三・百・杯、おばさ…んじゃなくウチはお前如きには絶対負けねぇ…」
『くそぉ…先生俺の仇、お願いします』
『ええ!? 僕が勝負していいのかい? じゃあおばさんとおねえさんのどちらかが僕のなぞなぞに正解出来たら勝ちにしてあげるってのはどうだい?』
「望むところだ! まずは先方のコイツが答えるし! あとおばさんじゃねぇ!」
「勝手に勝負に巻き込まないでよ!」
ルナが抗議するもラシーはやる気満々である。
「いいからやれ! この戦いにはウチらのプライドが掛かっているし!」
「えぇ…わかった…はい? なんでもどうぞ?」
と言ってルナは目を閉じる。
『じゃあ、とっておきのなぞなぞ行くよ? 女の人には着いてなくて男の人に着いてるものはなーんだ!』
『はっ!? 先生そのなぞなぞ普通女性にする!? 変態っ!』
「……」
『おねえさんわかる? わかってるんだよねぇ?』
嬲る様な口調で答えさせようとする成人男性。
「………」
通信機から顔を逸らして黙るルナ。
『ねえねえ? おねえさん、ほら、わかるなら答えちゃおうよ?』
『マジでクソ野郎なんだけどこの教師…』
『ドルチェちゃん、僕はただこういう事に至上の喜びを感じるだけなんだ。何もおかしくはないよ。ほら、おねえさん?頑張って? 言っちゃいなよ。大丈夫だから』
『その喜びのセンサーがヤバいのよ』
『いいの! 僕はこうなんだからいいの! ほらほら、おねえさんも早く楽になりたいでしょ?』
教師の尋問にルナは赤面しながら、
「……わかりません」
と、答えて塩らしくなる。
『はい、まずは一人倒したね。じゃあ、次はおばさん。女の人に着いてなくて男の人には着いてるものってなーんだ?』
「ち●こだし! てかおばさんじゃねぇ!」
真顔で答えるラシー。
『即答で正解だよぉ! 僕の完敗だ! 嗚呼…僕はこの時のために生まれて来たのかもしれない。しかし、こんな恥ずかし気もなく答えられるなんておばさん…いや、おじさんだとしか思えない!』
「おじさんじゃねえーーーーー!!!」
本編のスタート時にはラシーとルナは都原カイト達と会話したことがあると分かるお話しでしたね? ちょいちょい修正する可能性があるので暇な時に読んでいただけたら幸いです。