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第三話

これまでの内容。

霊が視える主人公水無瀬いろはは霊を祓うことなどをする禍祓を生業とする不知火せつなが放った蘇環というワードが引っかかり、せつなからこの世の仕組みについての話、そして禍祓についてを聞いた。

翌朝、ここ最近の晴天とは打って変わっての雨模様。

玄関前の傘立てからお気に入りの傘を抜き、最寄りの駅まで母に車で送ってもらった。

母の送迎は雨の日限定で晴れている日は自転車で最寄り駅まで漕いで行く。

霊の見える私にとって、最寄り駅はそれはそれは悲惨である。

自殺の名所として有名なスポットで、人生に疲れた人がよく飛び降り自殺を図るらしい。

なので、駅の至る所に地縛霊が住み着いている。

ただ、普通の人には見えないので、ベンチに霊が座っている時は潰されることもしばしば。

私から言えることとすれば、よく一つ開けて席に座ることがあるが、その間に霊が座っていることが多い。

それから、意外にも電車の中にも霊は住み着いている。

網棚の上で横になって缶酎ハイを飲んでいる霊がいた時には、びっくりした。


学校の最寄り駅に着き、改札を抜ける。

暑い時期になると、改札を出て右側にひっそりと佇むセブンティーンアイスの自販機で温州みかんを買って、通学のお供として食している。

いつも暇そうに立ってこちらに視線を向けてくるインド料理屋の店主も、今日はいない。

いつものように心臓破りの坂を上り、無事に学校へと到着した。

雨で濡れてしまった靴下を女子トイレまで我慢できた自分を褒めながら個室で履き替え、持ってきておいたビニール袋に濡れた靴下を突っ込んだ。

トイレのゴミ箱に温州みかんの箱を捨てて、トイレを出て行った。


教室に入ると、不知火くんが机に頬杖を突いて外を眺めていた。

何やら少し不機嫌そうにも見えた。


「おはよう、不知火くん。どしたの?」


「水無瀬、俺は今とてつもなく憂鬱だ」


「あ、雨降ってるからかあ。分かるよーその気持ち、アハハ」


雨降ってるだけでそこまで気分下がるようなことかなと思いつつ、苦笑いで場をどうにかしようとした。


「不知火、大丈夫か?悪いが水無瀬、保健室に連れてってやれ」


「お、オキドキ……塚原先生」


と、私は不知火くんを保健室まで連れて行ったのでした。


不知火くんの体調は雨が止むと打って変わって、午後の体育の野球の授業では燦々と照りつける太陽の下、真っ青な晴天に特大アーチを2本も描き、校舎のガラスを2枚豪快に割るほどにまでに完全復活を果たしていた。


─不知火くん、まさか仮病?


不思議に思った私は、放課後不知火くんに聞いてみた。


「不知火くんってもしかして……体育のために仮病使った?」


「仮病? そんなことはない。今日はたまたま体調が悪くなっただけさ」


「でも、雨が止んだら不知火くん途端に元気なったし……。雨で体育なくなるかもってちょっと落ち込んでたんじゃ?」


「ただの偏頭痛だ。気にするな」


「せつな様」


20代前半くらいの女性が私の後ろから不知火くんに寄って行った。

綺麗な銀髪に雪のように真っ白な肌、ジャケットが張り裂けそうなほどの豊満な胸、細い腰にすらっとした足と私とはかけ離れたスタイルのその女性は、白のジャケットに白のミニスカートととにかく全身真っ白という印象だった。


「どうした、ヒノハ」


「えっ!? この人、ヒノハちゃんなの?」


「はい。私、狐でありますから、このように人に化けることができるんです」


「ってことは、不知火くん、まさかこんな人がタイプ!? キャッ!」


「バカ! そんなわけねーだろ!」


不知火くんは、頬を赤らめて否定した。


「お気に召さなかったですか。じゃあ、元に」


ヒノハは頭に乗せていた葉っぱを取ると煙に巻かれ、煙が晴れると白狐の姿に戻っていた。

すると、背後から大物が走る音と共に地響きがした。

何事かと後ろを振り返ると、巨大なネズミが廊下を次々と駆け抜ける。

教室を出てみると、ネズミの大群がこちらへ引き返してくる。


「危ない!」


不知火くんが咄嗟に私を突き飛ばして教室へと飛び込んだ。


「あ、あれ何?」


「殺鼠剤で殺されたネズミの地縛霊が集まったものだ。かなりの霊素が集中している……。少々厄介だな」


「ど、どうすればいいの? 不知火くん」


「ん……。ヒノハ、お清め延長コードはどこにある?」


「これですね!」


ヒノハが不知火くんに渡したのはごく普通の延長コードだった。


「それで、どうするの?」


「まあ、見てて」


不知火くんは廊下のコンセントに延長コードを差し込み、六個あるすべてのオンオフスイッチをパチパチパチと切り替え、銃のように右手で構えた。

すると、延長コードの先に電気の玉のようなものが発生し、高い音を響かせながら、次第に大きくなっていった。


「駆逐せよ、霊滅キャノンッ!!!」


そう言うと、電気の玉が一直線にネズミに向かって発射され、一瞬で遠く離れるネズミに命中した。

すると、電気の玉は、激しい爆発音とともに爆発し、爆風が私たちを襲った。


「やったか!?」


ネズミの大群は、無数の光の粒となって空高く昇っていった。


「成功だ」


「よかった。ありがとう、不知火くん」


「前に家で珍しく味噌汁が出たとき、ワクワクしてお椀を覗いたら、ネズミがまるまる一匹浮かんでいる姿が目に飛び込んできて……。今も忘れられず、ネズミには特に嫌悪感を覚えているんだ」


と、不知火くんは延長コードを手首に巻き付けて手繰り寄せながら語った。


「そ、それは災難ね……」


「まあ、それが後に父が入れた爬虫類用の冷凍ネズミと知った日には、父を召そうかと思ったよ」


「召すって、そんな……。まあネズミ入れてるんだしね……」


「母が丹精込めて作った味噌汁にネズミを放り込むなんて、どうかしてるぜ」


「でも、なんでそんなネズミなんて……?」


「うちの家、貧乏でさ。味噌汁って言っても具材なしの味噌汁で、何か入れるものはないかと父なりに考えたらしいんだが……まさか冷凍ネズミとはな」


すると、突然、電気がすべて消えた。


「今度は何!?」


「悪い、俺がずっとお清め延長コードをチャージしてたせいで、ブレーカーが……」


説明しよう。お清め延長コードは、チャージする時間が長いと消費電力がえげつないことになるのだ。


「ズコー」と、私はすっ転んだ。

まあ、何はともあれ、私たちは無事ネズミを撃退したのでした。

続く

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