第二話
ここで前回までの内容をおさらいしておこう。
霊が見える水無瀬いろはは桜ヶ丘中学校に転校してきた不知火せつなが隣となり、声をかけてみた。
すると彼は「蘇環」という言葉を残し、移動教室へと行ってしまった。
いろはは「蘇環」とは何なのか気になった。
昼休み、私はまた不知火くんに話しかけた。
「あの、不知火くん。朝言ってたソカンって……」
「阿蘇山の『蘇』に、環境の『環』で蘇環だ」
「あ、いや漢字聞いてるわけじゃなくて、意味を」
「すまない。蘇環というのは俺らが今実存する空間のことだ。少し難しい話になるがいいか」
「あ、うん……」
私は持ってきた弁当箱を開けた。
そして不知火くんから蘇環についての説明を弁当をつつきながら受けた。
蘇環とは本来は原子のみで構築されており、万物が原子構造をあらゆる形に変化させ、流転することにより構築されているのだそうだ。
そして私たちが幽世といういわば天国的なところから霊素という不思議なモノが蘇環へと流出し、原子による構造に次第に霊素が組み込まれていき、構造がややこしくなってきて、今の私たちに繋がるらしい。
「どうだ、分かったか?」
「うーん、ちょっと難しくて私にはあんまり実感がないかな」
と私はタコさんウインナーを口に放り込む。
「お前、幽霊は見えるか」
「うん、小さい頃からずっと……ハッ!」
口に出したのに気づき、慌てて口を塞いだが、もう遅かった。
──やっちゃった……また馬鹿にされる。
私が落ち込んでいると不知火くんは目を輝かせて私の顔を覗き込んできた。
「それだ」
「それだって、何のこと?」
「幽霊が見えるということは微弱な霊素しか持っていない俺ら人間の中でも霊素を結構蓄えてる、いわば霊寄りってこと。それが俺が今言ったことに繋がるってことさ」
「でも霊視って遺伝するわけじゃないんだね。だってお母さん見えてないみたいだもの」
「いや、霊素は子供にも遺伝する。事実、陰陽師というのは代々、先代の霊素を受け継いで生まれているから霊力は最強クラスだ」
「じゃあ、私の霊が見えるっていうのは霊素が関わってるの?」
「ああ、そういうことになるな」
「でも単に霊素を浴びただけで霊が見えるようになるならみんな見えるんじゃ?」
「そもそも霊が見える器というのが大事なんだ。これがなければ霊素を浴びても意味がない」
「う、器? 生まれつき決まってるってこと?」
「ああ、そういうことだ」
「あのさ、不知火君って幽霊が見える私のこと変だなとかって思わない?」
「いや、別に。なぜなら俺は禍祓だからな。霊が見えるのは普通のことだ」
「ま、マガバライ?」
とここで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
「しまった。長話に付き合ってくれてありがとう」
「いえ、気にしないで。それより不知火くん弁当持ってきてないの?」
「ギクッ……。あ、いや……忘れただけさ」
不知火くんは何か事情があるのだろうか、後ろ向きになって明らかに動揺している。
「そう。それは災難ね。売店の焼きそばパン、結構美味しいみたいだよ」
「気遣い、すまない」
不知火君は立ち上がり、教室を後にした。
そして放課後。
禍祓について気になって私は再び不知火君に話しかけた。
「それでどこから話せば?」
「マガバライについてよ」
「そうだ。禍根の禍にお祓いの祓うの字で禍祓。俺らは蘇環で彷徨う霊を幽世へと送ることを生業としている」
「えっ。待って、そもそも不知火くんって人間なの?」
「まあ、基本的には人間だが、若干死神も混ざっているような感じだ」
「ハーフみたいな感じ? それともキメラ?」
「まあ、ハーフとしておこう」
すると、コンコンと窓を外から叩く音がし、ふと視線を音の方へ移すと小さくて可愛い白狐が目に飛び込んできた。
「おお、ヒノハ」
「例の禍祓道具の講習会、ちゃんと出席してきましたよ」
「それで、無料の試作品ちゃんともらってきたか?」
「もちろん……ってところでせつな様、この方は?」
「水無瀬いろは。どうやら霊が見えるらしい」
「ってことは、僕のことも見えてるってことですか!?」
「うん。目が大きくてすっごく可愛い」
「エヘヘ。そう言われると嬉しいな」
ヒノハは自分の頭を撫でながら照れていた。
「その試作品、見してみろ」
「はい、これです」
とヒノハが取り出したのはラップであった。
「これってラップじゃないの?」
「いいえ、ただのラップじゃないんです! このラップを霊にぐるぐる巻きにするとピッタリ密封できる。その名も霊滅ラップ! まあ、普通にラップとしても使えるんですが」
「これがタダか……。技術の進歩だな」
不知火くんは霊滅ラップをまじまじとあらゆる角度から観察し、変な頷きをしている。
「せつな様はこういう無料のやつに目がないんです」
「ああ、今は何かと物価高でケチになってないとやってけない。禍祓はあくまで家業で継いでるだけで別に稼げる仕事じゃないからな」
「そっか……って、しまった。今日は友達と勉強会だった。じゃ、また明日」
と私は慌ててカバンを背負って駆け足で教室を出た。
続く




