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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

プリンセス王子とプリンス姫

作者: TOMO

心がざわついていた。


うまく笑えていただろうか・・・。偽りの祝福の言葉にキラキラした笑顔で返してくれた友人に

また一つ罪悪感をいだく。

僕は嘘つきだ。

ずっと嘘をつき続けてきたせいで、嘘の自分が真実になり、真実の自分が嘘になっていた・・・・。


彼は唯一の親友、そしていつも僕の心に灯りをくれる人。

いつからだろう、彼にこんな感情をいだくようになったのは・・・。

20年前、学校に通い始めた頃、周囲になかなか溶け込めない僕に声をかけ、仲間に入れてくれた。

初めは憧れだったのかもしれない。

僕にないものを持っている、憧れの人。

思春期にさしかかった頃、周りが異性に興味を持ち始める中、僕は人ごとのように彼らの話を聞いていた。

この違和感は何なのか、その時の僕は分からずにいた。


そんな中、僕は初めての感情を知ることになる。

異性の話になり彼が好きな人がいると言ったとき、僕は今日のような感情に襲われたのだ。

彼が好きな彼女の話をするほどに、心臓の鼓動が早くなるのを感じた。心が落ち着かない、、それと同時に怒りも込み上げてきた。

僕は不機嫌になり、怒りの矛先は彼に向かっていた。

急にしゃべらなくなった僕に、「俺、何か気に障ること言ったか?」と気遣ってくれた。

悲しくなった。

「体調が悪い」と嘘をつき、目の前の現実から逃げるように家へ帰った。

自分の部屋に入り、ドアを閉めた瞬間、涙があふれた。

泣きながら考えた。

彼は何も悪くない。

僕は何で泣いているんだ?

自分勝手な感情で、彼を不快にさせてしまったことへの申し訳なさと素直になれない自分に対する

情けなさ。

いや、それよりももっと僕の心を突き動かし、かき乱している原因。

薄々気づいてはいたんだ。ただ認めるのが怖かっただけなのかもしれない。

僕が彼に対して抱いている感情。


僕は彼のことが好きだった。


他の誰かに取られてしまうのが嫌だったんだ。

僕は初めて、「嫉妬」という感情を知った。


この想いを誰にも知られてはいけない。そう思った。


僕はいつしか、周りの顔色ばかり気にするようになっていた。

家族や友人は僕に何を望んでいるんだろう?

周りが望む僕を演じるようになった。

これでいい。

自分の本当の感情に蓋をし、周りの空気を読む。

これが一番平穏に過ごせる方法なんだと、自分に言い聞かせてきた。


彼とは親友。仲のいい友達だ。これからもずっと・・・。

そう思ってきたはずなのに。



「俺さ、結婚するんだ」少し照れた表情で彼は言った。

「ほんとに?」心臓がギュッとなった・・・。

「おめでとう」僕は笑顔を作った。心臓の鼓動が早くなる。あの時と同じだ。

「式はいつ?」

「来月、彼女の誕生日に」

「そっかぁ。クリスもついに結婚かぁ。」

「俺も27歳になったし・・・お母様が、あなたもそろそろ年頃じゃないかってさ。」


その後の会話は、よく覚えていない。

あの頃と違うのは、怒りの感情はなく、喪失感と、何か焦りのような感情に支配されていた。


彼以外に、心を許せる相手は僕にはいない。

それでも、彼さえいてくれたなら、一人でも心を許せる相手がいれば、僕には十分だ。

そう思ってきた。


別に、彼との友人関係が終わったわけではない。

彼がぼくから離れていったわけではない。

でも、どうしようもなく押し寄せてくる負の感情に、僕の心は呑み込まれ、僕の心に灯っていた

明かりは、消えかけていた。


彼から結婚の話を聞いて以降、彼と会っても心が晴れない。

むしろ、彼女との結婚話を聞くたびに苦しくなる。


最低だ。

心とは裏腹の表情をつくろい、親友の結婚を祝福する友人を必死に演じているんだから・・。

自分はどうしてこんな人間なんだろう・・・。

答えの出ない無限ループを、一人頭の中で繰り返していた。


4月、春の暖かな日差しに包まれた日、彼は彼女と結婚した。


周りは前に進んでいるのに、僕は一人、1ヶ月前、彼から結婚の知らせを受けたその日から、

時が止まったままだ。

もう考えるのはやめよう!今まで通りにするんだ。

そう自分に言い聞かせても、気持ちが言うことを聞いてくれない。


悶々とした日々が淡々と過ぎていった。


彼の結婚式から1ヶ月後、僕にも結婚の話が来た。

僕の異変を感じていたのか、お母様が面談を持ちかけたのだ。


「お母様、僕にはまだ早いよ。・・今はそんな気になれない。」

「そんなことないわよ、アル。あなたもクリスと同い年なんだから。そろそろ考えておかないとね。

 先週、隣国のリリア女王との交流会があったときにね、娘との結婚はどうか?って。

 リズ王女にお会いしたけど、とても可愛らしいお嬢様だったわよ。一度会ってお話ししてみたら?」


おそらくは、お母様の方から話を持ちかけたのだろう。こちらから話を持ちかけた以上、断ることはできない。

一度だけだ。一度だけお会いしたら、うまくお断りしよう。


「分かった。とりあえずお会いしてみるよ。」今の僕には、とても気が重かったが、お母様のメンツを

保つためにも、こう答えるしかない。


「よかった。早速、手紙を出しておくわね。」


お母様は、安堵した表情で微笑んだ。










 

































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― 新着の感想 ―
[良い点] 幼い頃から抱いていたクリスへの憧れ、年齢を重ねるごとにそれが他人には明かせない思いと知り、ひたすら心に秘め続けているアルの優しさ・強さに感銘を受けました。
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