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第9話「ざまぁと棒ととれたての大根」

『カンパーイ』


第13幕となる今週の舞台が終わり、今夜はお待ちかねの出演者全員による打ち上げパーティー。


「ティグさんの斬られぷり今日もよかったよ」


「サラちゃんこそ、悪人ぶりが板についてたぞ」


「は? それ褒めてんの?」


「ええ⋯⋯」


お芝居未経験だったサラさんやティグさんも回を重ねるごとにこだわりが出てきている。


楽しそうに自分たちの演技について議論するみんなの姿を見ていると私の中に劇団を立ち上げたいという思いが芽生えてくる。


リナやロイはどうしているのだろうか?


団長が捕まって劇団は解散⋯⋯


2人は大好きなお芝居がやれているのだろうか。


「どうしたんだいフィニール」


「ジャック」


「なんだか思い詰めているね。飲むもの持ってきたよ」


「ありがとう」


「大方、劇団をつくりたいとか考えていた?」


「⁉︎ なんでわかるんですか!」


「君を見ていればわかるよ。サラさんたちがあそこまでのめり込んでいるんだ。

ロード王に仕返をして終わりじゃもったいないんじゃないかな」


「私のわがままに巻き込んでしまいましたからね。責任はとらないと」


「それに脚本家の僕としても劇団があった方がうれしい」


「そろそろ考えないとですね。魔王ゼーテの最終回の向こう側」


「王都に行く覚悟はできたんだね」


「はい。次の幕が最終回です」


「いよいよ決着をつけるか」


『ここに居ましたか我が魔王』


「ハリーか」


「妹のところに潜り込ませているメイドからおもしろい情報が届きました」


ハリーが私に手渡したのはニーナと名乗るメイドからの手紙だった。


彼女はスパイとしてよく訓練された戦闘メイドとのこと。


「暗号は解読して我が魔王にも読んでいただけるようにしてあります」


”親愛なるハリー・カシールス様“


国王令を出したリノン様は帰還なされたロード王に咎められることになりました。


「リノンよ。国王令を勝手に発出し、王国民からの不信を招いたそうだな」


「も、申し訳ございません。王国民の支持を上げたいばかりにあのようなことを」


「本来なら王宮から追放するところだが、そなたの兄に免じてもう一度チャンスをやろう」


「兄? あの無能丸出しの兄上にございますか?」


「あの男は魔王相手に賢明な判断をした。そなたの兄は実に聡明で頭のきれる男だと俺は評価する」


ーー


“止めて、ちょっとハリー、脚色していないよね“


”俺、なんかやっちゃいました“


”はやくつづきを読もうかフィニール“



ーー


「愚鈍な兄を評価していただきありがとうございます。それでロード様、私にチャンスというのは?」


「グリラスク宰相を倒した戦勝記念行事を王都で催す。王国民のムードを盛り上げていま一度、俺の支持を高めるんだ」


「でしたら、私によき考えがございます」


「申してみよ」


「フィーネが所属していた劇団を解散させて、王都ではしばらく観劇を見られなくしました。

そろそろ王国民も観劇に飢えてきた時期、そこで私が劇団を復活させロード様を讃える演劇を上演すれば

ロード・ハイネス1世陛下の支持もうなぎ登りにございます」


「おもしろい。ならば主演は誰に演じさせる? フィーネはもういないのだぞ」


「もちろんこの私がやります」


「は?」


***


リノン視点


ようやく巡ってきた。


王国民に私の美しさとロード様の威厳を見せつける絶好の機会が。


「ところであなたたちがフィーネと同じ劇団にいた役者たち?」


「は、はい⋯⋯ロイと申します」


「私はリナです」


「その割には大した顔じゃないわね。まぁ私の引き立て役には充分。

それじゃあ、ロード様を讃えるお芝居の準備をしましょう」


まずは私が三日三晩寝ずに書いた台本を彼らに手渡す。


「これなんですか?」


「台本よ! あなたたち本当に役者⁉︎」


「いや⋯⋯ストーリーがめちゃくちゃ⋯⋯」


「何? 私が書いた台本にケチをつけるというの? 不敬ね」


「申し訳ございません。ですがその⋯⋯」


「は? たしかロイと言いましたね。土木工事の強制労働に耐えられずまいっていたあなたを拾ってあげたのはどこの誰だと思っているのですか?

そこのリナとかいうあんたも娼婦にまで身を堕としていたのを拾ってあげたのはいったい誰?」


「リナ⋯⋯」


「ごめんなさいロイ⋯⋯生きていくためにはどうしても仕方なくて。だけどロイには知られたくなかった」


「クッ」


「急に泣き出してどうかしちゃったの? はっ!もしかしてしゃべっちゃダメでしたぁ? 

あら、私はギクシャクしたあなたたちが見れてとても”おもしろーい“のだけどハーハッハッハ」


「この女⋯⋯」


「ロイ!」


「ん? 何か申しまして」


「なんでもありません。リノン様のおかげでもう一度演技ができて幸せです」


「それでいいのよ。さぁ稽古はじめましょう。さぁ、私の特訓はきびしいわよ」


お芝居というのは未経験だけどフィーネよりも上手なのははじめる前からわかりきっていること。


「ちょっとロイ! この程度の演技で本番に臨むつもり? 主役のこの私に恥をかかせないでよね」


「すみません。もう一度お願いします」


「リナもさっきの演技なんなのよ。役に魂がこもっていない!」


「申し訳ございません」


「ここが一番の見せ場、私の演技で観客が大勢涙するところなのよ」


とても忙しい日々だった。


お芝居の稽古に、舞台上の演出、衣装のデザインまで⋯⋯


いよいよ迎えた戦勝記念行事当日、私の初舞台の幕が上がる。


演目は”降臨せし素晴らしき我らが国王ロード・ハイネス1世“


場所は王宮前の広場。


すでに10万人に以上の王国民で広場はいっぱい。


開幕と同時に花火の音がなり、教会のコーラス隊がロード様を讃える讃美歌を歌う。


舞台の上にはロイとリナが登場して、パンのひとかけらすらまともに

食べることのできない貧民の少年、少女を演じる。


『パンだ。パンが瓦礫の上に落ちている』


『本当だわ』


『お腹が空いた。食べようじゃないか』


『ダメよ。道に落ちたパンを食べたらお腹を壊してしまう』


その調子よ。この場面は最初に観客の感動を誘うところなんだから。


そしてロイが『僕、お腹が割れてもいいから食べないと死んじゃうよー』

とセリフを言ったあと、私が現れて国王ロード・ハイネス1世を降臨させるのよ。


よし、決まった!


観客の声ーー


「これってどこがおもしろいんだ?」


「わからねぇけど。貴族様から観たらおもしろいんじゃねぇのか?」


「おい、見ろよ! ものすげぇ美人が出てきたぞ」


「「おおおお」」


ーー


観客が私の美貌に惹きつけられているのを感じるわ。


このまままっすぐ歩いてバミリという印がされた上に立つ。


そしてここで両手を広げて私のセリフ。


「マズシキタミヨパンガタベタケレバロードサマにイノルノダ」


「あなた様は何者なのですか?」


「きっと国王様が遣わした精霊よ」


「ワタシハウツクシキセイレイコレヨリスクイノオウロード・ハイネス1世サマヲコウリンサセル」


会場が静まり返ったわね。


みんな私の演技力に度肝を抜かれたのね。


すぐに拍手と賛辞の嵐が巻き起こるわ。


『棒読みじゃねぇか下手クソー!』


はい? 下手くそ? 私の演技が?


『ちゃんと練習したのか』


『いつまでつまらねぇもん見せてんだ!』


「ちょ、ちょっと、庶民のあなたたちには私の演技の素晴らしさが理解できないの?」


『何言ってんだ引っ込めーッ!』


『さっさと国王出せ! 退屈なんだよ!』


「ちょっとものを投げつけないでよ。全員処刑にするわよ」


『ハーハッハ』


「誰?」


『まさにダイコン、ダイコン、ダイコン。ここは野菜売り場か』


「誰よ。こんなの私の台本にない」


警備の兵士は何やっているのよ。部外者を舞台に上げるなんて。


『よーく聞けッ!愚民どもよ。我が名は魔王ゼーテ。このハイネス王国を滅ぼす者』


「おい、なんだよ。さっきの棒読みのねーちゃん台本にないとかなんとか言ってなかったか?」


「じゃあコレって本当に魔王による侵略なのか」


「マズいって逃げた方がいいんじゃねぇか?」


「こんなに大勢いてどうやって逃げるっていうんだ」


『狼狽えるな愚民ども! 道端に落ちたパンにすら手を伸ばす、あの少年少女は戦争で

家族や住むところを失い行き場がない者たちだ』


「なんだお芝居のつづきか」


『こうなったのもすべてロード・ハイネス1世が私利私欲のために強引な戦争を繰り返したからだ。

我が眷属ジャックよ。哀れなあの者らに食べ物を与えてやれ』


『ハッ魔王様』


「いったいあなたたち何者よ」


「普通に喋れているじゃないか。どうやらお芝居をすることを忘れたようだなお嬢さん」


ちょっと何この女、私に顔を近づけてきて気やすく頬に触れるなんて。


「勝手に触らないで!いったいあなたはなんなの」


「私は”女優フィーネ“ よ」


「⁉︎ フィーネって⋯⋯う、うそでしょ?」


「私はあなたに殺されました。ですが死の底より甦り、こうして魔王ゼーテとしてリノン・カシールス、貴様に実力の差を見せつけてやっているのだ!」

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