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第6話「魔王は断罪する」

『はぁ〜』


サラさんが深いため息をついた。


今朝だけでもう5回だ。


サラさんのため息の原因はここ数日で卵の価格が5倍に高騰したこと。


卵は冒険者ギルドで提供している料理のほとんどのメニューに使われている。


いつも身体を張って頑張っている冒険者たちのためにお金を気にせず

たくさん食べてもらいたいから料金は上げられない。


かといってこのままだと採算がとれない。


ならばと冒険者に支払うクエストの報酬を下げるという手段がある。


だが、それだとお抱えの冒険者たちが皆んな他の領にある冒険者ギルドに移籍してしまう。


悪循環だ。


先日も氷系魔法が扱える魔術師たちが高い報酬に釣られて王都で募集しているクエストに参加。


こぞっていなくなってしまったばかりだ。


なぜこのようなことになってしまったのか。


それを魔王の配下となったばかりのハリー・カシールスが話してくれた。


はじまりは5日前の王宮でのできごと。



『う〜ん。とてもおいしいわ』


ロード王の秘書官であり婚約者のリノン・カシールスは好物のケーキを毎日のように食していた。


「パティシエ、また腕を上げたわね」


「リノン様のもったいなきお言葉。身に余る光栄にございます」


「このベリーのケーキなんかも酸味が効いててとてもおいしいわぁ」


「そちらはワタシの新作になります」


「ふふん。明日の新作も楽しみ」


「はッ!」


至福のときを楽しむリノンの様子に、メイド長が苦言を呈した。


「リノン様、お好きなのはわかりますが、ケーキを食べるのはしばらくお控えになった方がよろしいかと思います」


「なに? あなたも食べたいの? あげはしないけど」


「冬に疫病が流行した影響でケーキの原料となる卵が鶏から取れなくなっているのです。

そのせいで価格は高騰。王国民が気軽に手を出せなくなっているのですよ。

王妃となられるリノン様がこの調子では王国民に示しがつきません」


「あら大変ね」


「リノン様ッ!」


「ん? ちょっと待って。卵が取れないってことはもうじき私がケーキとして食べる分の卵も無くなるってこと?」


「そうですよ。例年の生産量に戻るにはまだ半年以上はかかります」


「だったら王国中の卵をかき集めなさい。それくらいあれば半年は持つでしょ」


「卵はそんなに日持ちしません」


「氷系魔法の魔術師を集めるの。彼らに氷漬けにしておいてもらえれば半年でも1年でも持つわ」


「いきなりそのようなこと申されましても、すぐに魔術師なんて集まりません」


「報酬を上げればすぐよ」


「第一、王国中の卵をかき集めることだって、貴族たちが応じませんよ」


「大丈夫よ。国王令を出すの」


「陛下が応じるとは」


「私はロード・ハイネス1世の婚約者よ。私の考えはロード様のお考え。私が代行して発布する」


「無茶苦茶ですリノン様ッ!」


「私に意見するの? 私は王妃になる女。さきほどまでの私への非礼は聞き流しておいてやるわ」


ーーと、いうようなやり取りがあり、国王政府による卵の買い占めによって価格の異常な上昇を招いている。


私とジャックはシナリオのネタを集めるためにロード王はいかなる悪政を強いているかハリーに聞き取りをしていたのだが、

ハリーの口から出てくるのは妹の悪行ばかり。


妹を貶めたいのか?


それほどまでにカシールス兄妹の仲は悪いのか?


ただ、私も彼女にいい印象はない。


「ジャック。リノンの部分を全部ロード王に変えて台本に起こしましょう」


「わかった。プロットができた段階で見てもらうよ」


「うん」


***


魔王ゼーテによる断罪の舞台、第二幕となる場所は冒険者ギルド前の通り道。


冒険者だけではなく一般の領民が行き交う場所。


さぁ、はじめようか。


断罪の幕・開演ーー


「聞けッ! 愚かな人間ども」


魔王の第一声に立ち止まる人間たち。


『なんだ』『なんだ』と辺りは騒然としはじめる。


「貴様らはなにも知らずにそうやってのうのうと暮らしておるのだな」


「なに言っているんだあんた?」


聴衆の野次。


いい反応だ。


ジャックが背後にやってきて小声で話しかける。


「フィーネ、なにかあればすぐに俺が取り押さえる」


「よい」


警戒し過ぎだジャック。


「貴様らが王と崇めるあの男。ロード・ハイネス1世。あの者が裏でなにをやっているか知らずに盲信している姿は

我から見て滑稽で仕方ない」


「不敬だ!引っ込め!」


「良いだろう。ロード・ハイネス1世の正体をこの魔王ゼーテにしてフィニール・ロイネルが教えてやろう」


「ロイネルだって⁉︎」


やはりロイネルの名を覚えている者がいたか。


私は婚約者のリノン・カシールスがケーキのために国王令を出して卵を独占していること

そのために王国民が卵を食べられなくなっていることを話して、悪政を詳らかにした。


「婚約者のわがままを放置して好き勝手やらせているロード・ハイネス1世はまさに無能!」


聴衆から拍手と歓声が湧き起こる。


「ありがとう。そうだ!この魔王から今日は貴様らにささやかな施しをしてやろう。

配下ども用意しろ」


冒険者ギルドの職員たちがテーブルや椅子を設置して料理を並べる。


「卵を使った料理だ。我が魔王軍の配下が王国から卵を取り戻してくれた。

存分に食べるがよい」


国王令に従って領内からかき集めていた卵をハリー・カシールスに命じて解放させたのだ。


さらにハリーには妹のリノンを断罪する手紙を送らせた。


その手紙を読んだリノン・カシールスはというとーー


「キィーッ! お兄様の分際で私を叱咤するなんて許せませんわ」


と、手紙を破り捨てたいう。


***


一方、ロード・ハイネス1世はーー


グリラスク領をたった1日で滅ぼし、配下の兵たちにグリラスク宰相の居城内を捜索させていた。


「なんとしても見つけ出せ!」


「陛下、南の砦にはいませんでした!」


「もっとくまなく探せ! 必ずこの城に居るはずだ」


「陛下」と、ロード王の前に現れたのは摂政グレイタム・カシールス。


ハリーとリノンの父である。


「もうお諦めになってくださいませ」


「ならん。必ず見つけ出す」


「あのお方のことは忘れてはやく娘との結婚の儀を。フィーネのことで王国民の心は悲しみに包まれております。

かようなときこそ、陛下のご成婚で王国民を祝福ムードで盛り上げるのです。さすれば陛下への信頼は揺るぎないものへとなります」


「いったはずだ。王妃となる正室はリノンでもフィーネでもないと。側室との結婚に儀式は不要だ」


「頑固なお方だ」


「良いかグレイタム。尻尾を掴めば次に滅ぼすのは貴様だ」


「陛下⋯⋯」


「いったいどこにいる俺が本当に結婚すべき婚約者”フィニール・ロイネル”」

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