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第2話「冒険者ギルド」

なんだか悪い夢を見ていたようだった⋯⋯


婚約したはずの王様には別の婚約者がいて、その王様は

国民を愚弄する悪い王様で、私はその王様に婚約破棄されてしまった。

しかも帰るときに乗っていた馬車が崖の上から落ちてーー


なんだろうこの感覚⋯⋯見慣れない天井に、見慣れない部屋、

そして身体中が痛くてベッドの上にいるこの感覚、昔どこかで⋯⋯


”すぴー” “すぴー“


何? この音。


誰かの寝息?


「⁉︎」


ピンク髪のショートヘアをした見知らぬ女の人が私の手を握ったまま

私のベッドにうつぶして寝ている。


「よだれ⋯⋯」


「! う、う〜ん」


起きた!


「あら、目が覚めたの?」


あなたこそ。


「ねぇ、あなた三日三晩、意識がなくて眠り続けたままだったんだよ」


「はぁ⋯⋯イッ」


「ほら、あまり動かないで。頭を強く打っていたの。包帯も巻いてあげてるでしょ。

ああそうだ。私は“サラ”っていうのよろしくね。

それよりあんな高い崖から落ちてよく生きてられたわね」


「崖⋯⋯」


そうか、あの出来事は夢じゃなかったのか⋯⋯


悪い王様に婚約破棄され、もうひとりの婚約者には断罪されて⋯⋯


「ジャック君ーッ、崖下の子、起きたよー!」


『本当ですかサラさん⁉︎』


男の人の声⋯⋯


「ほらほらはやくー、上がってきてごらん」


階段を登る音ーー


そうかここは2階になのね。


「本当だ。良かった〜」


ドアを開けて顔を出したのは茶色がかった短髪の男性。


なんだかロイに雰囲気が似ている。


「落ちた崖が僕らの野営地の近くだったのも運がよかった。

こうしてはやめに手当することができたんだ。馬車の残骸の下敷きになっていたから

一時はどうなるかと思った」


私、そんなにひどい状態だったの⋯⋯


「な、なんといいますか、あ、ありがとうございます⋯⋯

そ、その、おふたりは⋯⋯何者?」


「ハハハッ 私はさっきも言ったけど“サラ” ここの冒険者ギルドで受付嬢をしているの」


「冒険者ギルド?」


たしか冒険者の人たちに依頼を斡旋する施設⋯⋯だったような。


「そうそう。あなたが寝ている部屋の真下がちょうど冒険者ギルドの施設になっているの。

毎晩、荒くれ者のオッさんたちが夜遅くまでドンちゃん騒ぎするもんだから、この部屋だけは

誰も使っていなくてね。それなのにあなたピクリともせず本当によく眠っていたのよ」


「は、はぁ⋯⋯」


「本当はもう死んでいるんじゃないかと思っちゃった」


「僕はジャックだ。ここの冒険者ギルドで事務を手伝っている。

別に冒険者ってわけじゃないけど、あの日はたまたま大型モンスター討伐の手伝いで

パーティーに同行していたんだ」


「ところであなたのお名前は?」


「フィ⋯⋯」


「フィ?」


「!」


そうだ。下手に名前を出さない方がいい。


女優フィーネがここにいるってわかったら大騒ぎになるかもしれない。


そしたらこの人たちにも迷惑が⋯⋯


何か適当な名前のヒントになるものはないかしら。


「⁉︎」


私のロケットがどうしてあそこに⋯⋯


「ああ。あのアクセサリー? 手当するときに邪魔だったから外してサイドボードの上に置いてあげたよ」


「そうだったのですね」


? あれはなにかしら。ロケットの中から何か飛び出しているような⋯⋯


「大切なもの? とってあげるね」


「は、はい」


紙?


「イッ⋯⋯」


指先にもこんなに激痛が相当な大けがね。


「ロケットを開ければいいの?」


「お願いします」


「手紙かしら」


手渡された小さな紙には親愛なる”フィニール・ロイネル“と書かれていた。


「はっ!」


“フィニール・ロイネル”


紙に書かれていた名前を見た瞬間、頭にビリッとした衝撃が走った。


そして目から溢れる涙が止まらない。


「なんか泣き出した」


「サラさん、彼女どうしちゃったんだろ?」


「シッ、黙って」


これが私の本当の名前⋯⋯


フィーネという名前は8歳のときに森の中で倒れていた私を拾って看病してくれた

イレーヌ姉さんがつけてくれた名前だ。


ロケットの裏面に刻まれていた私の名前は擦れて読めなくなっていた。

それをイレーヌ姉さんが読める部分だけ繋ぎ合わせたのが”フィーネ“


そうか。”フィニール・ロイネル“と刻まれていたんだ。


「私はフィニール。フィニール・ロイネルです」


「フィニール⋯⋯わかったよろしく」


「ロイネル? どこかで聞いたような?」


「サラさん、どうかした?」


「い、いいえ。そうだフィニールちゃんお腹すいてるでしょう? 3日以上何も食べてないもんね」


「い、言われるとたしかに⋯⋯」


“ぎゅるる〜”


「ひっ!」


「何か食べたいものある?」


「サラさん、フィニールも起きたばかりだからおかゆみたいな軽い物にしましょう」


「それもそうだね」


『肉』


「「⁉︎」」


「い、今なんか言った?」


「私、肉って聞こえたような気がしたけど気のせいだよね」


「きっとそうですよ。サラさん」


『肉』


「⁉︎」


「あ、あの私⋯⋯その、お、お肉が⋯⋯食べたいです」


「え?」


「ダメ⋯⋯ですか?」


「ダ、ダメじゃないよ」


「そうそう」


「お肉ならいっぱいあるから。冒険者が獲ってきた新鮮なやつがいっぱい」


「そ、そうですよね」


「(か細い声で)あ、あの⋯⋯厚切りのサーロインでお願いします」


「「⁉︎」」


咄嗟に掛け布団で顔を隠してしまった。


「変⋯⋯ですか?」


「大丈夫、大丈夫、このサラが腕によりを掛けて焼いてあげるからね」


「さ、さっすがサラさんだ。うちの料理長よりおいしい料理作るだけあるなぁ」


***


「「す、すごい⋯⋯」」


「(小声で) 10kg近くはあった肉をペロリと食べちゃいましたよサラさん」


「ほ、本当ね。あの娘のお腹どうなっているのかしら」


私は自分の本当の名前と一緒に思い出したことがある。


それは8才以前の記憶。


乗っていた馬車が突然壊れて崖から落ちる体験をしたのはこれがはじめてじゃない。


最初は8才のとき。


それが記憶喪失のきっかけとなった。


お父様、お母様、ようやく思い出しましたよ。


お2人のこと。そして私自身のこと。


「さて⋯⋯これからどうしましょうか」


「フィニールちゃん?」


***


1週間後、ようやく歩けるようになった私は、お世話になった冒険者ギルドのみなさんへの

お礼に仕事を手伝うことにした。


「手伝い?」


「はい、サラさん。何か私にできることはありませんか?」


「ねぇ、ジャック君の方は何かある?」


庭の方からジャックの声が。


『はい。お願いしまーす』


「裏庭の方だな」


「何かあるのですか?」


「きっと薪割りをしているから、行ったら重たい木材運びを手伝わされちゃうよ」


「それはちょっと⋯⋯」


「マスター、ギルドマスター! 何か手伝えることある?」


『そこに平積みにしてあるクエストの依頼書を掲示板に貼っといてくれ』


「ですって。これなら安心」


『僕の方は〜』


「それくらい甘えずひとりでやりなさーい」


『ええッ〜』


裏庭ーー


「できた薪を軒下に並べてくれるだけで良かったのになぁ。だけどフィニールってやっぱりあの⋯⋯」


***


依頼書の束はざっと100枚。


『星ひとつしか入っていないクエストは人気がないからなるべく目立つところに貼りなさい』って

サラさんおっしゃっていたけど、人気ある役者の似顔絵と名前が 1番目立つところに飾られる劇場とは

真逆の世界だから少し違和感を覚える。


「はぁ」


ため息が溢れる。


こうしてお手伝いをして気を紛らわせてはいるけど、これからどうやって生きていけば⋯⋯


私にはお芝居しかないから。


「⁉︎」


ハッとした。


そうかお芝居、お芝居だ。そうだ!


***


「えッ! フィニールちゃんって女優さんだったの?」


「はい。隠していて申し訳ございません。

ギルドのみなさんに恩返しするためなら何がいいかと考えたときに

私にはお芝居しかなくて。夜の時間帯、疲れている冒険者さんを

励ます歌やお芝居をやらせて頂けたらと思いまして」


「いいよ。いいよ。全然やってちょうだい。お芝居なんてお金持ちの商人か貴族しか観れないからさ。

うれしいよ」


「ありがとうございます」


「ところでどんなお話をやってくれるの」


「え⁉︎」


***


「そうだった⋯⋯お芝居を演じるためには台本が必要だった」


どうしたらいいのかしら。


私に脚本なんて⋯⋯


台本をどうやって用意するか悩みながら、階段を上がって自分の部屋へと戻る。


「あら?」


ドアを開けるといつもの部屋と光景が違った。


「ッ⁉︎ 」


しまった! 考え込んでいたせいで部屋を間違えてしまった。


それにしてもだけどこの部屋⋯⋯


「本がいっぱい」


うずたく積まれた書籍、そして床や机の上には用紙が何十枚も散乱しているような状態。


私は目に留まった1枚の用紙を手に取る。


「これ原稿用紙だわ。え⁉︎ この文体、まさか台本?」


書いてある内容もおもしろい。いったい誰がこの脚本をーー


「フィニール⁉︎」


「⁉︎ ジャック ⋯⋯」


「どうして僕の部屋に」






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