最終話「つながる」
『フィーネ⁉︎』
『今、あの魔王様、自分のことフィーネって言わなかったか?』
観客たちがフィーネの名前に反応する。
「どうしてあなたが生きているのよ」
「おやおやずいぶんといい顔ができるようになったじゃないか。
その顔が台本に沿って出せるようになってはじめて演技と呼べるのだ」
「チッ何様よッ!」
「そろそろ正体をあかすときが来たな。ハリー、聖水を」
「兄上様ッ!」
水の入った壺を抱えたハリーが舞台袖から登場する。
「我が魔王どうぞ」
ハリーが差し出した壺を手に取り、縛っていた髪をほどいて、そして水を頭から一気にかぶる。
黒い染料が水に洗い流され金色の髪があらわになると水滴が太陽に照らされて
髪をキラキラと輝かせる。
『フィーネだ⋯⋯』
観衆のひとりが口にした。
それが伝わり広がるようにして口々に『フィーネ』『フィーネ』と聞こえてくる。
「リノンそこをどけ!」
ロード・ハイネス1世が鞘から剣を引き抜いて舞台上にやってくる。
「ロード様ッ!」
「よく聞けリノン。役者としての実力も令嬢としての立ち振る舞いもすべてお前はこの者に勝てない」
「どうしてロード様まで私に冷たいことをおっしゃるのですか!」
「彼女こそがロイネル家の血をひく真の王フィニール・ロイネルだからだ」
「⁉︎ フィーネが王様⋯⋯」
「リノン、貴様は王都から追放する。摂政を退いた父親と一緒に未開拓の離島で田畑を耕すがいい」
「ロード王よ。ふたたび死人の名前を出しては驚くものが多いのではないか」
「ああ。しぶとくて驚愕だよ」
「そうさ女優フィーネは仮の姿。フィニール・ロイネルは生き延びてお前を倒す機会を窺っていた。
もはや我が魔王軍はお前たちの勢力を凌ぐ強さだ」
私は背負っていた大剣を手に取り、観衆たちの前で鞘からゆっくりと引き抜いて見せる。
鞘から溢れる碧色に輝く光。
完全に引き抜きいて天に掲げると碧色の光が一層強くなる。
「かつての支配者がノコノコと。よいだろう魔王、どちらがこの王国の支配者に相応しいか剣で決着をつけよう」
ロード・ハイネス1世は切先をこちらに向ける。
本気だ⋯⋯
『フィーネ!』
血相をかいてジャックが舞台の上に上がってくる。
「フィーネ、乗せられちゃダメだ。こんなの台本にない!ロード王の罠だ」
たしかにロード王はお芝居の振りをして私を殺す覚悟だ。
だけど⋯⋯
「ジャック、ここで辞めたくない。今、最高の舞台で最高の演技ができている。
だから最高の脚本に仕上げて」
「⁉︎」
ジャックの顔つきが変わる。
私の覚悟を受け止めてくれたようだ。
「わかったよ」と、手にしていた台本に一筆入れる。
「結末は変えてないから」
改稿した台本を手に取り目を通す。
「ありがとう」
「さすがは国民的人気女優だな。今の一瞬で覚えたのか」
「こんなの役者なら朝飯前よ」
「ならばいくぞ」
一撃目はロード王から。
懐に飛び込んできて薙いだ剣を後ろに飛び下がって避ける。
もちろん動きを読んでいたロード王は2撃目の攻撃を入れる。
くるりと回転して剣戟が斜め左上からくる。
その一撃をよけて魔王は剣を正面にかまえる。
ここまではジャックの脚本通り、まるで予言の書ね。
やっぱり強い人って相手の攻撃が読めるんだ。
「魔王、ロード王は次でトドメをさしてくる気を抜くな」
「ふんッ」
構え方を変えた。
来るッーー
ロード王はジャンプして頭上から剣を振り下ろしてくる。
魔王は剣を盾にするように顔の前に掲げて向きを変える。
すると剣に反射した太陽の光がロード王の目に刺さる。
「うッ⁉︎」
「トドメだロード王!」
魔王の振り降ろした剣がロード・ハイネス1世の左肩からバッサリ切り裂く。
「ぐわぁッ!」
剣を落としてうずくまるロード王。
「我の勝ちだ。ロード・ハイネス1世」
「コレでいい殺せフィニール。ようやくお前に王位を返すことができる」
「ネキル。あなた最初からそのつもりで⋯⋯」
「さっきの一撃では傷が浅い。はやくこの首を切り落とせ」
「わかった。望みのままにしてやろう。言い残すことは」
ジャックは絞りだすような声で口を開いた。
「愛しているフィーネーー」
「ッ⁉︎」
「父の思惑だとかロイネル家の人間だとか関係ない。俺はフィニール・ロイネルというたったひとりの女性を愛している」
「言い残すことは以上だな」
魔王は剣を天に掲げるように振り上げて、ロード・ハイネス1世に振り降ろした。
”ガッキーン“
剣が硬いものを叩く音が広場に響き渡る。
その音に驚いた鳥たちが羽ばたいてゆく。
魔王が振り降ろした剣の先端はうずくまるロード王のすぐ傍に突き刺さっている。
「復讐に取り憑かれた哀れな王ロード・ハイネス1世は死んだ。
コレよりお前は我が弟、ネキル・ロイネルとして生きろ。それが私、フィニール・ロイネルの答えだ」
ごめんね、ネキル。
「うっうう⋯⋯わあああん」
ネキルはうれしいような悲しような顔をして子供のように泣いている。
私は国王になるよりもやりたいことがある。
「観衆のみなさん。ネキル国王戴冠式の前座余興はいかがだったでしょうか?」
『余興?』
私の発言に観衆がざわつきだす。
ここからは私のアドリブだ。
展開がどう転ぶかわからない。
「私たちは劇団フィーネです。私たちの劇団は貴族だけじゃなくて
一般の人たちにもお芝居に触れてほしくて立ち上げました」
私はそこから台本3ページにも4ページにもなるセリフ量を話していた。
幸運にも私の熱意は伝わり、王都内のレストランや酒場でもお芝居ができるようになり演劇が一般化した。
十数年後、写真や印刷が普及し、役者の顔や人気は王都に限らず王国全土に広まっていった。
「”魔王ゼーテ物語“パパの書いたお話は友達がみんな好きだと話してました。ママ」
「当然、魔王ゼーテは永遠に語り継がれる名作よ。はい、髪の毛のセットが終わり」
「もしママがもうひとつの選択の方を選んでいたら今ごろ私は王女様かぁ」
「王女になりたかったのフィーネ」
「(首を横に振って)ぜんぜん。私がなりたいのは女優だけ。ママより人気になるんだから」
「私のころより王国民が増えましたからねぇ」
”コンコン“
ドアをノックする音。
「フィーネ、フィニール、間もなく開演だ」
「パパッ!」
「いよいよですね」
「うん。歴史あるキングダム劇場での初公演。見ててね」
完
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