幼馴染の不良からオムライスを作って欲しいと土下座して頼まれた
いつもお読みくださりありがとうございます。
「頼む! オムライスをつくってくれ!」
登校中。
中学校のすぐ近く。
他の生徒たちが歩いているすぐ横で、幼馴染のケンジがいきなり土下座してきた。
私を見るなり駆け寄って来た彼はスライディング土下座なるエキセントリックな荒業を極め、人目もはばからずに大声で懇願する。
それはもう、最後の望みである蜘蛛の糸にすがるがごとく。
あまりに必死な有様であった。
「え? なんで? どうして?」
状況が呑み込めない私は、頭の上に「?」マークが一杯浮かび上がる。
角度的にスカートがのぞけそうな位置にケンジがいるので、思わず裾を両手で押さえてしまった。
はたから見たら彼はただの変態にしか見えないだろう。
「頼む! この通りだ!」
私の疑問に答える気もないのか、ただただ懇願を続けるケンジ。
なんでそんなに必死なの?
◇
大原ケンジは私のクラスメイトで幼馴染。
一年中日焼けしたかのような褐色の肌に、キラキラの金髪。深い森を思わせるようなグリーンの瞳。
実は彼、外国人とのハーフであり、肌も髪も瞳の色も自然体のものだ。
華奢な見た目の割に喧嘩っ早いことでも有名で、しょっちゅう揉め事を起こしているが、いじめとか犯罪行為はしない。絡んで来た相手とだけ戦うだけ。
ついついやり過ぎちゃうこともあるけど、根は良い人なんだと思う。
そんな彼が私にオムライスづくりを頼んで来たのは、弟のためだと言う。
彼の弟は小学一年生で、面倒はケンジが見ている。
夕食の用意も彼がしているのだけど、ほとんどコンビニ飯。
たまには手作りのものが食べたいよーとせがまれ、仕方なく何か作ってあげることにしたそう。
それで、何を食べたいかと尋ねたらオムライスと。
作り方を調べても、自分にはとても出来そうにない。
こまった、こまった。
「そこで私にお願いしようと思ったわけね」
「うん……」
昼休み。
空き教室で彼の相談に乗る。
机を挟んで迎え合わせになって話していると、廊下から私たちをの様子を覗き込んで噂をする野次馬の話し声が聞こえてくる。
無視。
「分かった、いいよ。
でも一つだけ条件がある」
「え? 条件!?」
こういう時、頼みごとを無償で引き受けると、後で面倒なことになる。
安易に無条件で引き受けてしまうと、また何度も頼まれるようになるんだよね。
この子になら何をさせても大丈夫って。
そう言う体験を小学校のころに何度かしたので、必ずこちらからもお願いをするようにしている。
「うん。オムライスは作ってあげる。
でもその代わりに作り方をちゃんと覚えて、
あとで私にご馳走しなおしてね」
「ええっ……」
「ダメ?」
「ううん……」
ケンジは腕組みをして悩む。
まるでお腹でも下したかのように具合が悪そう。
「そんなに難しいこと言ってるかな?」
「おっ……俺にオムライスなんて作れねぇよ……無理だ」
そう言うケンジの鼻の頭を私は指でつつく。
「てっ! なにすんだよ!」
「いい加減に覚悟を決めろ。
なよなよしてて気持ち悪いんだよ」
「え? え?」
私の言葉に意表を突かれたのか、とまどって顔を固まらせるケンジ。
「オムライスなんて簡単につくれるよ。
私が教えてあげるから安心して。
大丈夫、難しくないから」
「……本当かよ?」
信じられないと言う様子で私を見つめるケンジ。
おもむろに席を立ち、腕を組んで仁王立ちしながら彼を見下ろして言ってやる。
「大丈夫、ちーちゃん、嘘つかない」
「自分で自分のことちーちゃんって言うのかよ……」
どうでも良いことを気にするケンジ。
廊下で野次馬たちが恋の始まりだーとか騒いでいる。
こんな恋があってたまるか。
◇
数日後。
私はケンジの家にお呼ばれした。
彼の自宅は閑静な住宅街にあり、意外なことに結構大きな家だった。
赤い屋根に広めの庭。
バルコニーにウッドデッキもある。
めっちゃ裕福層な感じの家。
庭は綺麗に整えられていて、植えられている植物もきちんと手入れがされている。
こんな庭を眺めながらウッドデッキでお茶でもしたら、ブルジョワな気分だろうな~!
少なくとも私の家よりは豪華。
賃貸アパートだし。
2DKに4人暮らしというめちゃせま空間での生活だし。
男部屋と女部屋しかないし。
羨ましいぞ、このやろう。
「入ってくれよ」
「おっ……おじゃましまーす」
あまりに豪華な家に気後れした私は、すっかり借りて来た猫状態になり、おそるおそる家の中へ。
外観の絢爛さとは裏腹に中はひっそりと静まり返っていて、空気も重くて暗い。
ケンジによると、お手伝いさんが来て掃除をしているそうだ。
じゃぁ、その人にご飯を作ってもらいなよって言ったら「弟がダメ」だと言った。
どうやら以前に、お手伝いさんの作った料理を弟君がワガママを言って拒否したとか。
ケンジ的には普通の料理だったらしいけど、それ以来、弟君はずーーーっとお手伝いさんの料理を拒否するようになった。それから食事を作ってもらうこともなくなり、二人はコンビニ食で空腹を満たすようになる。
「ご両親はどうしたの?」
「二人とも仕事でほとんど帰ってこないよ。
それぞれ別々に付き合ってる人がいるし」
いきなりそんなことを言うもんだから、流石の私もびっくりした。
不倫の事実を子供に隠そうともしない親って……ちょっと最低じゃないですかね?
「え? そうなの?」
「俺たちは邪魔なんだよ。
あの二人にとって、いらない存在なんだ。
だから……いや、わりぃ。
なんでもねぇ」
暗い話になると思ったのか。
それ以上、私に言っても意味がないと思ったのか。
彼は早々にこの話題を打ち切った。
深く触れない方が良いと思ったので、それ以上尋ねなかった。
奥へ通してもらい、キッチンのある部屋へ。
天井に欧米風の扇風機みたいなのがついている以外は、ごくごく普通のご家庭といった感じのダイニングルーム。
窓からは日の光が差し込んで来ている。
でも暗い。
マジで空気が暗すぎる。
「なんか息が詰まるね。
換気してもいい?」
「おう、構わねぇぞ」
許可が得られたので、さっそく窓を開ける。
さわやかな風が吹き込んで来て、多少はましになった。
「そう言えば弟君は?」
「遊びに行ってるよ。
滅多に帰って来ないんだ」
「え? それ大丈夫なの?」
「大丈夫だろ、たぶん」
ケンジの弟君は近所の公園に遊びに行って、暗くなるまで遊んでいるらしい。
危ないなーって思ったけど、彼には何もできないのだろう。
「じゃぁ、早速作ろうか。
材料は買ってあるんだよね?」
「うん。冷蔵庫に入ってる」
冷蔵庫を開ける。
パックに入ったままの卵と、冷凍のミックスベジタブル。
そしてパック詰めのサラダチキンがぽつーん。
あとは飲料水と調味料がちょこっと入っているだけ。
なんとも寂しい冷蔵庫だった。
まぁ……ぐちゃぐちゃの私んちのよりはマシかな。
調理器具は一式揃っている。
ほとんど使われていないのか、新品同然。
炊飯器の中には炊いたばかりのお米。
ご飯くらいは自分で炊けるでしょと言ったら、ちゃんと用意しておいてくれた。
これは見込みありだ。
私はお茶碗一杯分お米をよそって、温めたフライパンにどーん!
ケチャップをかけてそのまま炒める。
作り方とか詳しく調べていない。
多分、本格的なのだとケンジは覚えられないと思う。
だから作り方も適当で良いと考えた。
まぁ……もともと私も適当な作り方しか知らないんだけど。
「まぁ、これくらいでいいかな。
次は具材を炒めるよ」
「一緒に炒めなくて良いのかよ?」
「野菜から水分が出るからびちゃびちゃになっちゃう」
「ふーん」
私はボウルにケチャップライスを移して、そのままミックスベジタブルをフライパンにどーん!
サラダチキンもほぐして一緒に入れ、適当に炒める。
ケチャップも追加して軽く塩コショウを振る。
味の素も忘れずに。
具材から水分が抜けたら、ケチャップライスを戻して具材と混ぜ合わせる。
だんだんそれっぽくなってきた。
「はい、完成。お皿に盛りつけるからね」
「え? 卵は?」
「後からふんわりかけるの」
「へぇ……」
お茶碗によそって、その上にお皿を被せてひっくり返す。
綺麗なドーム型によそることが出来た。
次に卵を溶いて、フライパンに薄く延ばして火を通す。
固まったらそのままお皿の上のチキンライスに被せる。
これでオムライスの完成。
「結構、簡単でしょ?」
「うっ……うん」
出来上がった二人分のオムライスを眺め、ケンジは自信なさげに答える。
「じゃぁ、次はケンジが作って。
見ててあげるから」
「わっ……分かったよ」
ケンジは私が作って見せた手順をマネして、同じようにオムライスを作る。
コメを炒めて、具材を炒めて、お皿に盛って、卵を乗せるだけ。
実に簡単なんだけど……。
「うわぁ……マジかよ。ダメだぁ」
ケンジは見事に失敗した。
チキンライスもグチャグチャだし、卵もボロボロ。
とてもオムライスには見えない。
なんて言う料理だろう?
色付きご飯のスクランブルエッグ乗せ?
「ダメじゃないよ、ちゃんと出来たじゃん」
「千冬のと比べるとダメだろ。
形も悪いし、卵もボロボロだし」
「練習すればきっと上手くなるよ。
さぁ、食べよっか」
私はケンジが作ったオムライスを取って、テーブルに運ぶ。
すでに私が作った分も運んである。
「いただきまーす!」
「待てよ」
私が席についてスプーンを持ったら、ケンジが止めた。
「え? なに?」
「それ……どう見ても失敗作だろ。
食べてもおいしくないよ」
確かにケンジの作ったオムライスは見た目が悪い。
でも傍でちゃんと見ていたので、味付けは普通なはずだ。
不味いとは思わないけど。
「食べてみないと分からないでしょ?」
「いや……でも……」
「ただいまー!」
玄関から声が聞こえる。
弟君が帰って来たのかな?
ドタドタと足音が近づいてきて、リビングのドアが勢いよく開かれる。
そこにはケンジを一回り小さくしたような、可愛らしい男の子がいた。
弟君もケンジと一緒。
褐色の肌に金髪。
グリーンの瞳。
幼い彼はお人形のように可愛らしくて、ケンジも昔はこんなんだったのかなーって、思わず二人を交互に見比べてしまった。
ケンジのように男の子としての特徴が身体に現れる前なので、女の子に見えなくもない。
「おっ、早かったな」
「え? 何それ?! オムライス?!」
テーブルの上のオムライスを見つけて目を輝かせる弟君。
来客そっちのけで料理に注目する彼を見て、私はとあることを思いつき、ニヤリと笑った。
「うん、そうだよ。
このオムライスはお兄ちゃんのケンジが作ったの。
それで、こっちは私が作ったやつ。
君はどっちが食べたいかな?」
私は悪人のような表情を浮かべながら二つの皿を見せて、弟君に選ばせてあげた。
向かいでケンジがげんなりしている。
よほど自分の料理を比べられるのが嫌だったみたいだ。
「お兄ちゃんのが食べたい!」
弟君は即答した。
「え? 何言ってんだよお前?!」
「お兄ちゃんの! お兄ちゃんの!
お兄ちゃんのが食べたい!」
弟君は止まらない。
これ、絶対にケンジのしか食べない流れだ。
「じゃぁ、こっちに来て食べようか」
「うん!」
弟君は席に座って、ケンジのオムライスを食べ始めた。
ケンジはもぐもぐと美味しそうに食べる彼を不安そうに見守っている。
「ごちそうさまー!」
あっという間だった。
ものの数分で食べ終えた彼は、最後にちゃんと挨拶をして椅子から飛び降りる。
口の周りのケチャップも拭かずにどこかへ行こうとしたので、慌ててケンジが追いかけていった。
私は空になった皿を見る。
きっと、弟君はケンジが作ったオムライスを本当においしいと思って食べたのだろう。
空っぽになった皿がその証拠だ。
「ふぅ……まったく……」
戻って来たケンジは気恥ずかしそうに皿を下げた。
なんか顔が赤くなっているような気がしたけど、気のせいかな?
「じゃぁ、私は帰るね」
「え? もう?」
「お皿洗いくらい自分でできるでしょ?
私が作ったのはケンジが食べて」
「え? でも……千冬は?」
「私は家に帰ってから食べるから平気」
「あっ……そう」
私はさっさと帰ることにした。
目的は果たしたし、長居は無用かな。
遅くなったのでケンジは家まで送ってくれると言う。
最近は物騒なので助かる。
「わりぃ、ちょっと待っててくれ。
自転車取ってくる」
「うん」
ケンジは自転車を車庫から持って来た。
なんかよく分からないけど、高級そうな感じ。
明らかに普通の自転車とは戦闘力が違う。
やっぱりお金持ちなんだなーって改めて思った。
それから二人で並んで歩く。
ケンジは自転車を手で押して、私に歩幅を合わせてくれた。
「ねぇ……どうして私だったの?」
「え?」
「他の人に教わっても良かったじゃん。
どうして私だったのかなって」
何気なく疑問だったことを聞いてみた。
「いやその……小学校のころにさ。
家庭科の授業でハンバーグ作っただろ?」
「え? ああ……そう言えば」
確かに作ったと思うけど……かなり昔のことだ。
私はすっかり忘れていた。
「その時にさぁ、千冬がすっごく作るのうまくて、
料理上手なんだなぁって……思って」
「料理が上手かったら誰でも良かったんだ」
「いや……その……」
私が意地悪な返事をすると、ケンジは戸惑っていた。
まぁ……上手なら誰でも良いってわけじゃないんだろうけどさ。
今の言い方だとそう取っちゃうよね。
「ここらへんでいいよ、ありがと」
「おっ……おう」
アパートのすぐ近くまで来たので、自分から別れを告げた。
彼はしばらくその場にとどまって見送ってくれていたが、しばらくすると自転車に乗ってさっさと帰っていった。
やっぱり高級自転車なだけあってスピードが違う。
「ただいまー」
「おねーちゃーん!」「おなかすいたー!」
「はいはい」
扉を開けるや否や、弟と妹が飛び出してきた。
まとわりつく二人をいなしながら、ぐちゃぐちゃになってるリビングへ向かう。
服を集めて洗濯機へ。
ゴミはゴミ箱へ。
おもちゃはおもちゃ箱。
「ミクは掃除機かけといて。
ヒロはお風呂掃除お願いね」
「「はーい!」」
二人ともいい返事。
私は早速キッチンへ行って、洗い物を始める。
シンクには今朝、父が使った調理用具と食器で一杯になってる。
これを洗わないとなにも始められない。
洗い物が済んだら今度は冷蔵庫チェック。
ぐちゃぐちゃに詰め込まれた食材の中から、今晩のおかずになる物を探す。
「とりあえず……みそ汁と、おひたしと、卵焼きでいいかな。
あとお魚も焼こう」
食材を並べて調理を始める。
リビングでは妹が掃除機をかけている。
まだまだ扱い方になれていないのか、扱う手がおぼつかない。
ヒロはお風呂で遊んでるのか、ぜんぜん戻ってこない。
あとでトイレ掃除もやらせようかな。
料理は一時間ほどで完成。
大皿におさかなを盛りつけて、その隣に卵焼きも乗せる。
小鉢にはおひたし。醤油と鰹節をかける。
テーブルの上に並び終えるころには、二人共言いつけた仕事を終えて並んでテレビを見ていた。
芸人が沢山出てくるトーク番組。
面白いのかな、それ?
「できたよー」
「「いただきまーす!」」
二人はおいしそうに私が作ったご飯を食べる。
文句を言われたことは無い。
多分だけど……二人ともワガママを言っても仕方がないと分かっているのだろう。
「「ごちそうさまー!」」
「食器洗っといてね」
「「はーい!」」
やっぱり二人ともいい返事。
私は食器を片付けてテーブルを拭く。
そして――
「お母さん、今日も無事に終わったよ」
母の遺影に向かって話しかける。
写真の中の母は楽しそうに笑っている。
母が亡くなったのは2年前。
私が小学校を卒業する少し前のことだ。
あの日、病院に呼び出されて、朝までずっと祈り続けたのを今でも覚えている。
でも……その祈りが通じることはなかった。
母がいなくなってから、夕食は私が作っている。
弟と妹がもう少し大きくなったら食事当番も交代制になるかもね。
「お風呂沸いたよー!」
弟の元気な声が聞こえる。
「よし、じゃぁ皆で一緒に入ろうか!」
「「はーい!」」
母のいない生活はまだまだ続く。
人生、先は長いのだ。
◇
それから一か月後。
私は代り映えのない日常を送っている。
あれからケンジは自炊を始め、少しずつバリエーションを増やしている。
作り方を教わりに来ることもなくて自分で調べているようだ。
ケンジには大切な弟がいる。
彼が料理のモチベーションを保つのはそう難しくないんじゃないかな。
美味しいって言って食べてもらえるからね。
繰り返していく内に上手になると思うから、この調子で頑張って欲しい。
最初のきっかけは作ったし、私が出来るのはここまでだよ。
「おい、千冬ぅ!」
とある冬の日。
私が一人で帰ろうとすると、ケンジが追いかけて来た。
まーーーた何か頼みごとをされるのかな?
お礼のオムライスもまだご馳走になってないよ。
――って思ったけど、違った。
「これ受け取ってくれないか?」
彼は恥ずかしそうに顔をそらしながら、オシャレにラッピングされた箱を差し出してきた。
掌に収まるサイズの小さな箱。
ピンク色の包装紙にまっかなリボン。
お店で売ってるようなものと比べると包み方が粗雑。
手作り感がある。
つまりこれは――
「なにそれ?」
「……チョコレート」
「もしかして作ったの?」
「……うん」
恥ずかしそうに頷くケンジ。
顔がケチャップみたいに赤く染まっている。
ケンジがチョコレートを手作り?
もしかしてこれがお礼なのかな?
「もらってもいい?」
「ああ……受け取ってくれ」
「ありがと」
箱を開けて中を見てみると、小さなチョコが四つ入っていた。
いびつで、不格好で、とてもへたっぴで。
でも……気持ちがこもってそうで。
温かくて。
チョコを頬ばると、優しい甘さが口いっぱいに広がっていく。
あの日、彼がオムライスを作ったように、心を込めてチョコレートを作ったのだろう。
私のために。
まぁ、板チョコを溶かして型に入れて固めただけなんだろうけど。
でも……私のことを思いながら作ってくれたんだなって。
そう思うと胸が熱くなって。
「おっ……美味しい?」
不安そうに上目遣いで私を見つめるケンジ。
そんな顔で見つめられたら、こっちまで変な気持ちになっちゃうよ。
「まぁまぁ……かな」
「まずくない?」
「普通に食べられるよ」
「そうか……よかったぁ」
ホッと胸に手を当てるケンジ。
よほど不安だったんですね。
「さぁて……お返しは何にしますかね」
「……え⁉」
私がそう呟いて背伸びをすると、彼はびっくりしていた。
ケンジはチョコレートを渡すだけでこのイベントを完結させるつもりだったの?
その先は期待してなかったのかなぁ。
先にチョコを送られてしまったから、バレンタインは別の物をプレゼントしよう。
そうだなぁ……からあげとかハンバーグがいいよね。
「こんど、うちおいでよ」
「ええっ⁉」
「親いないよ」
「えええええっ!?」
余計に顔を真っ赤にさせるケンジ。
分かりやすいなーコイツ。
親はいないと言ったけど、弟と妹がいないとは言っていない。
後でどんな顔するか見ものだね。
「そうだ、弟君も連れてきなよ」
「……え?」
「みんなで一緒にハンバーグ作って食べよ。
ホットプレートあるし」
「え? ええっと……うん」
期待してたのとは違う反応がきてケンジは戸惑っている。
分かりやすすぎて笑っちゃう。
流石に彼の弟君だけ家に置いとくのはかわいそうだよねぇ。
どうせならみんな一緒に楽しみたい。
「じゃ、私は帰るから」
「おぅ……」
「これ、ありがとね!」
「うん……」
受け取った箱を掲げてとびっきりの笑顔を見せてやる。
顔真っ赤にしたまま俯いてやんの。
「じゃーねー!」
「まっ……またな!」
私はケンジに別れを告げて、校門を出たらそのままスーパーへ向かう。
今日は買い出しの日なのだ。
それにしてもケンジのやつ。
本当に分かりやすいなぁ。
あいつ、私のこと好きになったのかな?
「…………」
さっきからドキドキが止まらない。
ケンジにチョコを貰ったから?
だとしたら私、チョロすぎるだろ。
分かりやすいのはどっちだよ?
ハンバーグ作るの……楽しみだな。
少し先の未来に思いを馳せ、私は一人、冬の街を歩いていく。
誰かのために何かを作る。
そんな明るい未来を想像しながら。
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