表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/4

4 信じる力

 ――高2の夏、【天下一魔闘会】が始まった。

 

 あれから、ワカバとはいろんな話をした。

 

 戦型や練習内容、結局は私の案になることも多かったけど、ワカバが積極的に発言をするようになって、連携がよりスムーズになった気がする。


「気合入れていくよ、ワカバ!」

「うん、頑張るよ。

 モエギちゃん!」


 巫女装束に身を包んだ私達は、気合入れのハイタッチ。

 ……ヒリヒリする。

 ワカバ、力が強いんだけど。


「戦型を変えたのね。

 あらあら、髪まで斬って……」


 コーチのあやみちゃんは何故か嬉しそうだ。

 私は思い切ってショートカットにした。


「モエギは美形だから、ショートも似合うわね」

「……ありがとう」


 褒められて素直に喜べないのは私の悪い癖だ。


「私も身長が伸びなかったからね、筋肉もつきづらくてさ。

 それで前衛は諦めたのよね」


 自嘲気味に笑うあやみちゃん。

 魔法使いとして、長年神仏少女ゴッドルを務めてきたあやみちゃんに、悩みなんてないと思っていたのに。


 弱みを見せてくれたのはきっと、私のためにしてくれたことなんだ。


 背筋を伸ばし、頭を下げた。

 軽口を許してくれる気のいいコーチだけど、私、ホントはあやみちゃんのこと尊敬してるんだ。


「見ててよ、あやみちゃん。

 前衛、後衛をきっちり分けた騎士姫。

 私とワカバで全国のみんなをビックリさせてやるからさ!」

「期待してるわよ、後輩諸君」

「「はい!」」


 私とワカバはちらりと互いに視線を送ると、一緒のタイミングで拳を天に突きあげた。

 ……ふふふ、息ピッタリだ。


 ――私たちは、決勝まで勝ち上がった。


 薙刀を使うワカバが前衛、弓と祓い串を使う後衛は私が務める。

 一応、小回りの利く小太刀を腰に帯びているけど、私は完全なる遠距離攻撃要員だ。


 開始早々のワカバの突撃で前衛をひるませ、後衛を私の弓で仕留める。

 決勝までは、このムーブ一本で勝ち上がって来た。


 さて、目の前に控える対戦相手は……優勝候補。

 修道服に身を包んだ十字黒美沙率いる、闇の教会勢力だ。


 小学校であくどいことばかりしていた十字黒美沙は、屋上で私に負けてから、知らぬ間に転校していた。

 人格に問題はあったけど、強大な魔力と、血の魔術を使う根性には私も一目置いていた。

 ヤツは高校になってから頭角を現し、180を超える体躯を活かしたワイルドな戦型で今大会の優勝候補、前評判はナンバーワン。

 パートナーを務める女の子は、特筆すべき点はないが魔力の高い聖書使いだ。


 十字黒は、私たちを見てくすくすと笑った。


「あなたが後衛だなんて……負け続けて奇策ですか?

 モエギ」

「言ってろ」

「ワカバじゃ私は抑えられないと思いますけどね」

「さて、どうかな?」


 私たちが構えたのを見て、審判が叫ぶ。


「試合開始!」


 決勝までは速攻で片付けてきたけど、手の内を明かしていない分、取れる選択肢が多い。

 ジリジリと間合いを詰めながら、相手の出方をうかがう。


「来ないなら、こちらから行きますよ」


 十字黒は上段から力いっぱいに鉄槌を振り下ろす。


「はあああああ!」


 それをワカバは真正面から受けた。


「く……」


 力は十字黒の方が上のようだ。


「どこまで耐えられますかね?」


 連撃を繰り出す十字黒の攻撃をワカバが防いでいる間に、私は詠唱を始めた後衛の聖書使いに対して、引き絞った矢を放った。


「詠唱完成より、矢のが速いよ。

 もらった!」


 しかし、聖書使いは自分目掛けて飛んでくる矢を無視して詠唱を続けた。

 まさか矢を気にも留めず詠唱を完成させるつもりか?


 矢が命中した瞬間、聖書使いはニヤリと笑って詠唱を完成させた。

 

 聖書から発生した光球が、十字黒の攻撃を防いでいるワカバを襲う。


「ワカバ!」

「く……」

「よそ見している暇はありませんよ!」


 光球と挟み撃ちするように十字黒は連撃を続け、私は十字黒へ矢を放った。


 十字黒は矢を防ぎ、その隙にワカバは飛びのいたが虚を突かれたワカバは光球を避けきれなかった。


「うう……」


 膝から崩れ落ちたワカバに十字黒が追撃をかけた。


「死になさい!」


 矢で十字黒に防御行動をとらせ、その間にワカバの元へ近づく。


「ごめん、モエギちゃん……」

「もういい、後は私に任せて」

「そうする」


 ワカバは私の手をぎゅっと握った。


「モエギちゃんは、絶対勝てる。

 モエギちゃんが一番強いんだ。

 私は、ずっとそう信じてる」

「……ワカバ」


 そう言って気絶したワカバの手を握り返し、ワカバを端へ移動させた。


「さて……ようやく一対一ですね。

 後衛に逃げてしまったモエギさんに負けるつもりはありません」


 十字黒は巨大な鉄槌を軽々と振り回した。


 子どものころは、私の方が背もリーチも有利だった。

 今は両方とも、私の方が不利。


 でもね、今の私は負ける気がしないんだ。


「十字黒、ごちゃごちゃしゃべってないでさ。

 早くおいでよ、口じゃなくて武器と魔法で私たちは戦うんだ。

 二人で戦うときは後衛だけど……武器を捨てたつもりは無いよ」

 

 弓を背負い、祓い串をしまい込んで小太刀を抜いた。


「その視線……ふふふ、子どものときのあなたはそういう目をしていました。

 自分が一番強いんだと、疑いなく思ってる傲慢な瞳」


 十字黒は唇を噛んだ。


「その瞳をくもらせ、あなたは私に勝てないとわからせるために、私はここに来ました」

「だから、ごちゃごちゃしゃべるなってば。

 来ないなら、こっちから行くよ」


 一気に踏み込んで十字黒の巨大な鉄槌の間合いの中へ。

 鉄槌を振り下ろされる前に、私は連撃を繰り出した。


 フェイントを多く入れ、スピードで畳みかけて攻撃をする暇さえ与えない。


「後衛に逃げたあなたが、どうしてこんな剣速を保てるのです?」

「はあああああ!」


 力を込めた横薙ぎに、たまらず鉄槌で防御した十字黒を武器ごと吹っ飛ばした。


「う、うううう」


 迷いを捨てた私の剣は、どうやら鋭さを増しているようだ。


「前衛だった頃よりも、随分と剣が冴えてるじゃないですか」


 十字黒は気合で立ち上がる。


「私は見えすぎる方でね。

 戦いの最中、いつもいろんなことが気になってた。

 選択肢を選ぶ分、剣の振りが遅れていたんだ」

「フフフ……この手だけは、使いたくなかったんですけどね」


 距離を取った十字黒は、長い爪で手首を斬り、聖書を血で染めた。


「使い込んだ聖書魔法はかなり詠唱を短縮できる。

 前は魔法戦で敗れましたが、今度はそうは行きませんよ」


 そう言う十字黒目掛けて私は全速力で近づいた。


「は、速い!」


 十字黒が魔法を放つ前に聖書を切り裂く。


「私の使い込んだ聖書が……許しません!」


 振り回してきた鉄槌をかわし、小太刀を納めて突進してきた勢いを利用して、十字黒をぶん投げた。


 仰向けのまま気絶した十字黒の横で、私は拳を突き上げた。


 割れんばかりの歓声の中で、審判が私たちの勝利を告げた。


 ワカバの方へ行き、抱え上げるとワカバは眼をぱちりと開いた。


「う……試合どうだった?」

「勝ったよ」

「やったー!」


 この大歓声よりも、私はワカバが喜んでくれることの方が嬉しいよ。


「ねえ、ワカバ」

「何、モエギちゃん」


 上目づかいで私を見上げるワカバが可愛らしくて思わず頭を撫でた。


「……嬉しそうだね、モエギちゃん」

「そうだね、私は嬉しいのかもしれない」


 照れくさくて、私は人に感情を見せるのをためらってしまう。

 ワカバのように、素直に心の内を見せることが出来る人は本当に素敵だと思う。

 だってワカバの笑顔を見ると、私も嬉しくなるから。


「あやみちゃんはね、前衛に必要なのは信じることだっていつも言ってた。

 ワカバと戦って、私が負けたのはその信じる心が足りなかったんだと思う。

 踏み込みに迷いがあったんだ。

 ……素直じゃない私は、自分を信じることは難しい」

「モエギちゃん」


 ワカバはうつむいてる私にいつだって手を差し伸べてくれた。

 だからさ、私はアンタだけは信じられる。


「でもね、私の強さを信じてくれたワカバのことなら、私は信じられる。

 私の剣から、迷いは振り切ったよ!」

「モエギちゃん!」


 会場から拍手が聞こえてきたから、気恥ずかしくなって私はワカバを引きはがそうとしたけど、ワカバはぎゅっと私に抱きついてちっとも離してくれそうになかった。

読んでいただきありがとうございます。


女主人公相棒バディもの、楽しくかかせていただきました。


アニメイト様のコンテスト応募作です。

12000字で楽しく読めるものを目指しました。

良ければ感想いただけると嬉しいです。


それでは、また、どこかで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ