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3 ワカバの強さ

 ――私は、それから練習に行かなくなった。


「練習に来てよ、モエギちゃん。

 二人で神仏少女になるって決めたじゃない」


 ワカバは練習が終わった後、薙刀を担いだまま、私の家のチャイムを鳴らすのが日課になった。

 インターホン越しでもわかるワカバの明るい声が、癇に障ったんだろう。

 突っかかるような言い方をしてしまった。


「二人で神仏少女になるって言うけどさ。

 ……私がいなきゃ、何も出来ないじゃない。

 練習だって、戦法だって全部私が決めて……」


 ……ワカバはいつも私の言いなりだった。

 それを当然として受け入れ、ワカバの意見を聞こうともしなかったのは私だ。

 だから、悪いのは私の方だってわかってる。

 

 だけど……二人で神仏少女になるって、意見をぶつけ合う他校の相棒バディたちが、私はうらやましかったんだ。


「ごめんなさい、モエギちゃん。

 私、全部モエギちゃんに任せてたよね」


 謝るワカバに今イライラしてしまうのは、何故なんだろう。


「モエギちゃんに任せてれば大丈夫だって思ってた……でも、それじゃダメなんだよね。

 魔剣道は二人でやるんだから……でもね、私、モエギちゃんが一番強いんだって知ってるんだ。

 剣も魔法も、作戦だって……モエギちゃんが一番なんだ。

 魔闘大会でそれを見せつけようよ、モエギちゃん!」


 ワカバの声が珍しく力強かった。


「少し一人にしておいて」

「ダメだよ!

 ちょっと休むと勘が鈍るって教えてくれたのはモエギちゃんでしょ?」


 ははは、さすが長い付き合いの相棒だね。

 私の言葉、覚えてくれているんだ。


「モエギちゃん、明日練習に来て。

 それで、私と勝負しようよ」

「……アンタが私に勝てるわけないでしょ」


 ここ最近大会で勝てなくなってきてるけど、それでも私はワカバよりはずっと強い。


「それでも、私はモエギちゃんと戦いたい」


 こんなにワカバが意思を見せたことは今までなかった。


 ――妙に押しの強いワカバに誘われるまま、次の日、私は練習場に来た。

 

「久しぶりじゃない、モエギ」


 着替えを済ませた私は、コーチのあやみちゃんに挨拶をした。


「聞いたわよ、ワカバと試合するんでしょ?

 審判やってくれって頼まれたのよ」

「ワカバから試合を挑まれるのなんて初めてだったから、びっくりしたけどね」

「うふふ、ふてくされて練習休んでたのに、ワカバちゃんに頼まれたら聞いちゃうんだから」


 あやみちゃんがニヤニヤしているのが気に入らない。


「……うるさい、もう私行くよ」

「ねえ、モエギ」

「何?」


 振り返って見ると、あやみちゃんはいつになく真剣な目をしていた。


「モエギ。

 薙刀にも祓い串にも適性があって、天性の勘を持つあなただけど……そろそろ、自分の特性に目を向けるべきだと思うわ。

 ……あなたも本当はわかっているでしょう?」


 あやみちゃんの瞳に私の心を見透かされているような気がした。


 ――中段で構えるワカバに対し、私は同じ型で挑む。


 以前であれば、上段で構えていたかもしれないけど、今となってはワカバの方がリーチが長い。

 技術で勝つには同じ型で挑むのが一番だからね。


 魔剣道だから、武器は何でもありだし、祓い串などの魔法を司る道具の使用も認められているけど。

 詠唱が必要だから、1対1だと正直、魔法を使わせてもらえない展開が多い。

 

 一応、私も腰に祓い串を仕込んであるけど、薙刀の腕で勝敗は決まるような気がするね。


「それでは、はじめ!」


 あやみちゃんの掛け声で、私とワカバの試合が始まった。


「はあああああっ!」


 にらみ合いもせず、ワカバは斬りかかってきた。


「やるじゃない」


 真正面から受けるが、その重さに驚かされた。


「ありがとう。

 でも、もっと強くならなくちゃ」


 ワカバは闘志をみなぎらせながらも笑みを浮かべた。


 昔からそうだった、ワカバはびっくりするくらいに素直で前向きだ。


 素振りが必要と言われれば、何回でも。

 走り込みが足りないと言われれば、何週でも走り込んで体力をつけていった。


 ……どうして最近ワカバを見ると苛立ちを感じてたのか、やっとわかった。

 私はどこまでも前向きに努力し続けられるワカバが、羨ましかったんだ。


 ワカバは気迫で打ち込み続けるから、しばらく私は防戦一方。

 ぐいぐいと押されていっていた。


 ははは、今までの試合内容だけだったら、完全に負けと判定されるだろうね。


 取るべき道は3つ。

 距離を取って祓い串を使うか。

 守勢に回りつつ隙を伺うか。

 一気に攻撃に転じるか。


 ……ここだ!


 私はワカバの動きを見て、選択肢を絞り出し、最適なタイミングで薙刀を振るったつもりだった。

 剣の振りはワカバよりも私の方が速い。

 

 だけど……私の薙刀がワカバに届く前に、ワカバの切っ先が私の頭をとらえていたんだ。


「一本!」


 あやみちゃんの声が練習場に響き渡った。


 あやみちゃん、やっとわかったよ。

 これが、私とモエギの適正なんだね。


 一心不乱に打ち込んでくるワカバに対して、選択肢を探す癖のある私は踏み込みの差で負けてしまった。


 負けたけど、不思議と気分は晴れやかだった。


 礼をした後、私が大の字で寝ころぶと、ワカバも同じように寝ころんでいた。


「強くなったんだね、ワカバ」


 私は素直に友達ワカバの成長が嬉しかった。

 よほど嬉しかったのか、ワカバは瞳を潤ませていた。

 ……ふふふ、可愛いな、ワカバは。


「モエギちゃんのお陰。

 私に魔剣道を教えてくれたのは、モエギちゃんだから」


 ワカバの言葉にウソなんてない、その笑顔は私に感謝を伝えてくれていた。


「……お陰で決心がついたよ。

 自分の特性と向き合えって言われたけど、初めて分かった。

 ワカバ、アンタは一流の前衛だよ、私は遠く及ばない」


 私は中学校まで前衛で負けたことがなかったこともあって、花形の前衛に固執してたけど。

 

 状況を把握して、隙を見つけて行動の選択肢を探す癖がついている私に対して、ワカバは瞬時に薙刀を振るう。

 そのスピードの差が顕著に出たってことだね。


「私が一流の前衛? いやいや、そんなことないよ。

 剣の振りだってモエギちゃんの方が速いし」


 ワカバはぶんぶんと首を振った。


「いや、一流だよ。

 私を信じて突き進むアンタが一流だってことに今更気づいた」


 その決断の速さは、きっとワカバは疑わないから。

 一直線に怖いもの知らずで突っ込んでいく。



「……ねえ、ワカバ。

 私と、また魔剣道頑張ってくれる?」

「絶対頑張る」


 即答か、ふふふ。

 ワカバ、ありがとう。


「絶対か……私、ワカバのそういうところ好きだよ」


 口にしたとたんに頬が熱を持った。


「私はね、モエギちゃんの好きなところいっぱいあるよ、えっとね」

「……言わなくていい」

「えっとね、恥ずかしがりやなところ」

「言わなくていいって言ってる!」

「えへへ」


 口を抑えられたワカバは心底嬉しそうで、二人はずっと笑っていたんだ。

読んでいただきありがとうございます。


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