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2 天才魔剣道少女

「ほら、見てよワカバ。

 これが神仏少女だよ」


 小学校の頃は、学校帰りにいつもワカバと【神仏少女ゴッドル】の迷宮実況を見ていた。


「うわあ、カッコいい!」

「神道由来の薙刀と祓い串のダブルス。

 魔法と薙刀のコンビネーションがカッコいいんだよ!」


 迷宮ダンジョンで強そうな怪物モンスターたちを、私たちと少し上のお姉さんたち、【神仏少女ゴッドル】たちがなぎ倒していく姿は、まさに圧巻だった。


「モエギちゃんが前衛で、私が後衛だね」

「うん、ワカバは祓い串での魔法の使い方、筋がいいって褒められていたもんな」

「えへへ……モエギちゃんに向かってくる敵は私の祓い串で倒すんだから」

「でも先生言ってたよ? 子どもの頃は祓い串も薙刀も両方練習しなきゃダメだって」

「うん。

 そうだけど、私、白兵戦はやっぱり怖いな」


 ワカバは怯えたような目をした。


「じきにできるようになるよ。

 それまで、私が支えるからさ。

 祓い串も薙刀も、一緒に頑張ろうよ」

「うん!

 ありがとう、モエギちゃん!」


 ワカバは私に飛びついて、ぎゅっと抱きしめてきた。


「まったく……ワカバ、アンタ私に甘えたいだけだろ」

「えへへ」


 ――天才魔剣道少女、と言えば私のことだった。

 中学の間、私は日本一のタイトルを取り続けた。

 

 個人でもタイトルを取り続けていたけど、やっぱり魔剣道の花形と言えばダブルスなんだ。

 

 私は戦いとなると不安そうな顔をする相棒バディのワカバを励まし続け、ダブルスでも日本一を取り続けた。

 

 陣形は、【騎士姫】。


 私が騎士、前衛で主に薙刀を振るう。

 ワカバが姫、後衛で主に祓い串で魔法を使う。

慣れないワカバを守りながら二人で戦うには最適な陣形だ。


「行くよ、ワカバ!」

「モエギちゃんに習った魔法、全力で放つよ!」


 私に比べれば、ワカバのできることは少ない。

 それでも、ワカバの私を信じて振るう剣や魔法は、バカにできない威力があった。


「やったね、モエギちゃん」


 ワカバは勝利すると、決まって私に猛烈な勢いで抱きついてくるんだ。


「……重いってば」

「だって、うれしいんだもん」

「こいつめ」

「……モエギちゃん、痛いよ」

 

 抱きついて来るワカバのこめかみをぐりぐりするのが、私たちの勝利のルーティーンだ。

 そして、それは私たちが高校生になるまで続いた。


 ――ワカバは成長するにつれて、身体が大きくなった。

 身長の伸びが中2で止まってしまった私よりも今は5センチほども大きい。


 それでも、私は日本一を取り続けた。

 けれど、学年が進むにつれて、対戦相手の剣が重く、リーチが長く感じてきた。


 中学3年生にもなれば、嫌でも気づく。


 今まで私が日本一であり続けてこれたのは、他の人より身体が大きくて力強く、手が長くてリーチで優位を取れていたから。


 私より魔力が高い人も、剣閃が鋭い人もざらにいた。

 ……私は剣でも、魔法でも、天才少女ではなかったんだ。


 肉体的優位を失った私は、高校一年の時にダブルスも、シングルも優勝を取り逃がした。


「また頑張ろう、モエギちゃん。

 私、もっと頑張るから……」

「……ワカバ」


 初めて負けた私を、ワカバは優しく抱きしめてくれた。

 ……その温かさが、私にはとても辛かったんだ。


 ★☆


「モエギ! 薙刀に力がこもってないわよ!」


 高校2年生になった私に年若い女性コーチ、【飯倉いいくらあやみ】が練習中に檄を飛ばす。


 ……別に力がこもってないわけじゃない。

 私は、今まで上段の構えを好き好んで使っていた。

 でも、力の拮抗した相手でリーチの有利の取れない相手には、この構えの後隙の大きさというデメリットが目に付くようになった。

 

 だから、私は今まであまり使って来なかった下段の構えに取り組んでいたところだったんだ。


「下段は練習したばかりなんだ、いつのようには行かないよ!」


 素振りをするときのこの不快感は、新しく練習した構えによるものだと、その時の私はそう思っていたんだ。

 だからこそ、私の思いを理解してくれないコーチに私はいら立っていた。


「ワカバを見なさい、型の練習でも丁寧に剣を振っているわよ」


 ワカバは初心者用の構え、中段で丁寧に型の練習を行っていた。


「……中段くらい誰でも振れるよ」

「モエギッ!」


 コーチは大きな声を出した。


「結果が出なくて腐るのは結構だけどね、人が頑張ってるのを落とすような発言は見逃せないわ。

 モエギ、今のアンタには薙刀を握る権利がないわよ」


 ……ぐうの音も出ないほどの正論だ。

 

「モエギちゃん!」


 ワカバが私のところに走って来た。


「先生、今日の分練習終わりました。

 モエギちゃんも今日の分終わってますから、先生、私一緒に帰ります」


 ワカバはそう言うと、私の手を引いて足早に練習場を後にした。


 ――初夏の夕方でも風が強く吹けば肌寒さを感じてしまう。


「ごめんね、モエギちゃん。

 この前の大会、私が当ててれば勝てたのに」

「……いいよ」


 高校になってから、私とワカバは【横一文字】の陣形でダブルスに挑んでいるんだ。

 横並びの二人が薙刀も祓い串も使って臨機応変に立ち回る型だ。


 この前の大会の本当の敗因は、ワカバが魔法を外したことじゃない。

 私が相手の前衛に吹っ飛ばされ、一瞬、2体1の状況でワカバが挟み込まれる形を作られてしまったからだ。


「本当にごめんね、モエギちゃん」

「私が吹っ飛ばされたのが悪い」

「でも……」

「うるさいな、もういいって言ってるじゃない!

 ……この話はこれでおしまい」


 思わず、大きい声を出してしまった。

 大会の結果もついて来ない苛立ちを、ワカバにぶつけてしまった。

 ワカバは何も悪くないのに……


「……ごめん」


 情けないことに、うつむきながらとても小さな声でしか謝れなかった。


「うん。

 私、もっと頑張るね、モエギちゃん!」


 いつだってワカバは曇り一つない笑顔だ。

 ……それに比べて、今の私は――コーチの言う通り、薙刀を握る資格がないのかもしれない。


「ねえ、モエギちゃん。

 明日も一緒に頑張ろうね!」


 別れ際そう言ったワカバに、私は何も言えなかった。

読んでいただきありがとうございます。


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