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1 私のヒーロー

 20XX年、日本に迷宮とモンスターが現れた。

 モンスターに実弾は効果がなく、自営隊や警察は街を破壊し尽くすモンスターに唖然とするばかり。


 そんな中、巫女やシスター、修験者は多大なる魔力を行使し、その活躍により日本は平和を取り戻す。


 いつしか、彼女らはこう呼ばれた――【神仏少女ゴッドル】――と。


 日本政府は【神仏少女ゴッドル】を養成すべく全ての教育機関に【魔剣道部】を設置。

 【神仏少女ゴッドル見習い】達に切磋琢磨させるべく、【天下一魔闘大会】を開催することを決定する。


 ――これは、神仏少女に憧れる私【モエギ】と、その友達【ワカバ】の物語だ。


 ★☆


 子どもの頃、私には怖いものなんてなかった。


 長い歴史を持つ、神社の家に生まれた私、【大麻萌木おおあさもえぎ】は生まれつき霊力が高く、身体も健康だった。

 

 元気の有り余っていた私は、長い黒髪と箒を振り回し、学校の乱暴者を成敗して回っていたんだ。

 

 だから、私が【ワカバ】と出会ったのは当然だったのかもしれない。

 気弱な転校生の【ワカバ】は、学校の乱暴者にとって格好の標的だったから。


 ――夕暮れの小学校で、日直の私は授業で使う大型ディスプレイを拭く為に居残りを命じられていた。


 ブツブツ文句を言いながら、ディスプレイを白布で拭き上げていると、足音が激しくなった。


「モエギちゃん、転校生が十字黒美沙じゅうじぐろみさたちに屋上に連れてかれたよ!」


 クラスメイトたちが私を呼びにやって来た。


「全く……あいつら悪さしかしないね」


 私はそう言うとぴょんと脚立を降り、白布をクラスメイトに渡した後、掃除道具入れから箒を取り、屋上へ走った。


「後、拭いといてね」

「あ……うん」


 私は日直の仕事をクラスメイトに任せ、屋上へ急いだ。


 ――屋上。


 どんよりとした黒い雲が、天を覆い隠していた。


「おお、神よ。

 か弱き転校生が学校に持ち込んだぬいぐるみを私に下さい!」


 黒一色のドレスに身を包んだ金髪ツーテール、十字黒美沙が手で十字を切った。


 手下の女子二人が、転校生を抑え込んでいる。

 十字黒は、転校生のものだろうランドセルを無遠慮にあさり、ぽいぽいと中身を放り投げていた。


「か、返して……」


 転校生はか細い声を出した。


「あ……そんな小さい声じゃ誰にも聞こえねえよ!」

「ぎゃはははは!」


 手下たちは品のない声で笑った。

 

 十字黒美沙が冷たい笑みを浮かべて転校生へ近づく。


「ふふふ……何かしら。

 あら? 特撮ファンでしたか、たしか日曜日にやっています仮面のお話ですね。

 ……こんなもので喜ぶのは、小さい男の子だけかと思っていましたが」

「返して……」


 顔を真っ赤にしてぼそぼそとつぶやく転校生を無視し、十字黒はぬいぐるみを持って、屋上の手すりの近くへ。


「このぬいぐるみさん、たしかジャンプが得意なんですよね?

 ふふふ、この屋上からどのように飛ぶのか見てみたくはありません?」

「やめて!」


 手を離せば、ぬいぐるみは地面へ真っ逆さまだろう。


「大事なものを地面に落とされたくはありませんよね?」


 振り返った十字黒は急に優しい声を出した。


「う……うん」

「私たちは友達にはひどいことはしないんです。

 ねえ、お友達になりませんか?」


 十字黒は、にっこりと笑いかけた。


「え……」


 急な話に転校生は混乱していた。


「せっかく優しくしてあげていますのに、お友達になりたくないっていうことですか?

 じゃあ、いいです。

 このぬいぐるみ、落としちゃいましょう」

「や、やめて……友達に、なるから」


 手下たちが手を放すと、転校生は立ち上がり、ぬいぐるみを返して欲しそうに十字黒へ手を伸ばした。


「はい、どうぞ」


 ポイっと十字黒はぬいぐるみを転校生に投げつけた。


「わわ……」


 何回かお手玉しながら、転校生はやっとのことでぬいぐるみをしっかりとつかまえた。


「良かった」

「私ったらうっかりしていて、伝えるのを忘れていましたけど……お友達になりましたら、【友達料】っていうのが、必要なんですよね」

「え……」


 十字黒はランドセルから財布を取ると、財布から一万円を引っ張りあげた。


「わーい、やったー。

 一万円じゃないですか!」

「ダメ、それ迷子になったとき用なの」


 転校生は取り返そうとしたが、十字黒はひらりとかわした。


「いいじゃありませんか?

 友達のためなんですから……それともあなた痛い目を見せて欲しいのですか?

 せっかく優しくしてあげてましたのに……」


 十字黒は屋上に置いてあった、釘が大量に刺さったバットを握った。


「へへへへ」


 手下たちも縄跳びの縄を手に持った。


「誰か……助けて……」

「うふふふふ!

 そんな小さな声で、助けが来るわけありませんよ!」


 十字黒は不敵に笑った。


「アンタの小さな声、私には聞こえたよ」


 鍵のかかった扉を蹴破り、屋上に出た。

 

「困りましたね、モエギさんですか」


 十字黒は吐き捨てるようにそう言った。


「「どうやって入った!」」


 手下たちは驚いている。


「ただ、蹴破っただけさ。

 開けるのに手間取っているときに、ここでアンタらが何をしてたかは大体聞いたよ。

 アンタら、覚悟するんだね」


 私は転校生をかばうように前へ出た。


「怖かったね、もう大丈夫だよ」

「……助けに来てくれたの?」

「ああ……今からあいつらぶっ潰すからさ。

 ちょっと後ろ下がっててよ」

「……うん」


 転校生は私の言う通りに後ろへ下がった。


「ねえ……あなたの名前は?」

「【モエギ】だよ。

 アンタは?」

「【ワカバ】。

 ……モエギちゃん、頑張って!」

「ははは、ワカバ。

 大きい声も出せるじゃないか」


 私は箒を持ち、上段に構えた。


「さてと……ゴミ掃除の時間だね」

「あなたたち……モエギさんを取り囲んで一斉に襲い掛かりましょう、わかりましたね!」

「「はい!」」


 十字黒と手下たちは私を取り囲んだ。


「へえ、3人もいて攻めてこないんだ」

「黙りなさい!」


 十字黒は怒りのままに叫んだ。


「じゃあ、こちらから行くよ!」


 手下の一人に踏み込んで近づき、上段から斜めに箒を振り下ろす。


「がはッ……」


 狙い通り後ろからクビに一撃食らわせ、返しの箒で足を払って地面になぎ倒す。


「な、何だと!」

「畜生!」

「……武器ってのはこう使うんだよ!」


 もう一人の手下が攻撃してきた縄跳びの縄を箒で絡めとり、引っぱって縄ごと手下を引き寄せた。

 引き寄せられた手下の顎に左手で正拳を食らわせ、脳を揺らす。


「ぐぅう……」


 脳震盪を起こした手下は崩れ落ち、動くことすらできなくなった。


「さて、後はアンタ一人だよ」

「うわああああ!」


 十字黒は叫びとともに金属バット片手に突っ込んで来た。


「足元がお留守だよ!」


 箒で足元を薙ぐと、直撃を食らった十字黒は派手にすっころんだ。


「ぐうううう」


 十字黒はやっとのことで立ち上がると、釘バットで自分のあたまをぶったたき、血を流した。


「ちょっと、十字黒アンタ正気を失ったの?」


 懐から取り出した聖書に流れ出した血を吸い込ませた。

 血塗られた聖書は、瞬く間に闇の魔力をまとっていく。

 

「この手だけは使いたくなかったんですけどね……」

「十字黒、アンタが呪術を使うなら、私だって祝詞のりとを使わせてもらうよ」

 私は懐からはらい串を取り出し、祈りをささげた。


「悪逆の豊穣神、サタンにこの血濡れた聖書を捧ぐ。

 【高等魔術テウルギア黒刃マヴロス・クスィフォス】!」

「龍神よ、地界を寿ことほぎ、御霧みぎりを風が吹きはらうが如く、一切衆生いっさいしゅじょうの罪穢れを祓い清めたまえ……【祝詞のりと光風こうふう】!」


 十字黒と私、闇と光の2種類の刃がぶつかり合うが、きらめく光風の魔法力に押され、闇はすぐに溶けてなくなった。


「ぎゃああああ!」


 十字黒は光風に晒され、その場に倒れた。


「……死んじゃったの?」

「まさか。

 邪気を払う魔法を使ったからね。

 十字黒は邪気だらけの人格だから、ダメージを受けたんだろうさ」


 ……でも、私もさすがに疲れたよ。


 その場にドタンと倒れ込むところを、ワカバが助けてくれた。

 そのまま、するすると私の頭はワカバの膝に導かれる。


「どうして膝枕してるんだ?」

「地面より、いいかなって」

「なるほど」


 ワカバの論理的には間違っていない回答が、私には面白くて、くくくと笑ってしまった。


「助けてくれてありがとう、モエギちゃん」

「いいよ。

 私はね、悪い奴はぶっ潰すって決めてるんだ」

「……ヒーローみたいだ。

 ううん、モエギちゃんは私のヒーローだよ!」


 にっこりと笑うワカバを見ると、いいことをしたんだなって思う。


「ねえ、どうしたらそんなに強くなれるの?」

「私は魔剣道をやってるからね」

「……モエギちゃん。

 私も、強くなれるかな」


 見上げたワカバの瞳は真剣そのものだった。


「今日の自分より明日の自分の方が強くなれる。

 それだけは、間違いないよ」

「……私も魔剣道始める」


 ちょうどいい。

 私も一緒に頑張れる仲間が欲しかったんだ。


「わかった。

 一緒に頑張ろう、ワカバ」

「モエギちゃん、ありがとう!」


 膝枕されたまま、私たちは固い握手を交わした。

読んでいただきありがとうございます。


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