北の工場から その⑥
それを確認した後で、俺は廊下の陰から出てキナに声を掛けた。
「大丈夫か?」
「ク、クルシュさん……どうしてここに?」
「忘れ物を届けに来たんだ」
「ああ、なるほど……あはは、なんか変な物見せちゃいましたね。ごめんなさい」
「謝ることなんてない。それよりキナの使命っていうのは……その、あんな目に遭ってまで果たさなくちゃいけないものなのか?」
「んー……、まあ場所はここじゃなくてもいいかもしれないですね」
「だったら別の街に行った方がいいと思うぞ」
「それはそうなんですけど、お金とか移動手段とか色々問題があって……なによりほら、一人で生きていくのって寂しいじゃないですか。だから、クルシュさんが一緒に来てくれるなら考えます」
「なんでそこで俺が出てくるんだ」
一体どんな使命を抱えていたら彼女にとって俺が必要になるんだろうか。
俺は人類を一掃することくらいしかできないってのに。
もしかしてキナの使命って人類の殲滅……? なんてな、流石にないか。どうやら寒さで頭が回らなくなってきてるらしい。
「先のことを考えるのもいいですけど、それよりも大事なのは今ですよ。お仕事も終わったことですし、一緒に帰りましょうか? ね?」
「ああいや、俺はここだから」
「……ここって?」
キナは訳が分からないといった様子で首をかしげる。
「言葉通りの意味だよ。俺はここに住んでるんだ」
「え……えぇ!? ってことはあそこで寝てるんですか!?」
「軟禁状態だからな。採掘場の敷地外に出るには許可が必要らしい。まあ、この辺は雪しかないから逃げ出しても意味ないけど、とにかくそういうことだから」
「いやいやいや、ホントのホントに死んじゃいますって」
「大丈夫だよ、ここに来てもうすぐ一週間だけど全然平気――あれ?」
ボスンッ、と。
キナに手を振って第二管理室へ戻ろうとした俺は、気付けば雪の中に倒れこんでいた。
「クルシュさん!? 大丈夫ですか!?」
「ああ、うん、問題ない……」
慌てて駆け寄ってきたキナに肩を貸してもらい、俺はどうにか立ち上がる。
なんだこれ……身体重っ……。
「やっぱり限界なんですよ。ほら、手とか超冷たいですし」
キナは俺の手を握ってその冷たさに驚いている。
なんてことだろう、美少女に手を握られているのに肝心の感覚が無いなんて運が悪いにも程がある。