純粋な悪意 その③
火球が放たれる。
横へ跳んで躱すと、火球は魔導院の壁を破壊し、壁面を瓦礫に変えた。
「君たち錬金術師が長年叶えたかった夢だろう。人間が魔法を意のままに操ることは」
「滅茶苦茶だ、そんなの。エルフの体液を注射すれば魔法を使えるようになるなんて!」
「それは君も同じだろ。滅茶苦茶だよ、魔石と融合して魔法を使えるようになるなんて」
いや、え?
そうなの?
まあ、確かに滅茶苦茶と言えば滅茶苦茶か……。
ドブラと同類扱いされていると思うとちょっと複雑な気持ちだ。
だが――滅茶苦茶だろうがなんだろうが、とにかくドブラを止めなければ。
視界の端でキナがナクファを抱きかかえているのが見えた。
拘束を解くことには成功したらしい。ナクファは脱力したまま動こうとしない。
「エルフ2匹が気になるかい?」
ドブラが薄い笑みを浮かべたまま、言う。
「何が言いたい?」
「あいつらはこの勝負の景品だろ? 勝手に動かれちゃ困るな」
こちらに顔を向けたまま、ドブラは左手だけをキナたちへ向けた。
次の瞬間、ドブラの左手から雷撃が放たれた。
「キナ――っ!」
地面を蹴り、身体をキナと雷の閃光との間に滑り込ませる。
水魔法を発動し、電撃の逃げ道を作る―――が、全部は避けきれない。
「ッ……!」
灼けた。
俺の体が、灼けた。
口の中まで焦げたような味がする。
「クルシュさん!」
「あーあ、クルシュ。そんな家畜は放っておけば良かったのに。どうせダメージを負っても自然に回復するんだから」
「これ以上、俺の目の前でこいつらを傷つけさせるわけにはいかない」
「カッコいいねえ。でも、いつまで持つのかな?」
ドブラが魔法を連射する。
火球、雷撃、氷弾、あらゆる属性の魔法が次々と俺に襲い来る。
「キナ、ナクファを連れて逃げろ!」
水の壁でドブラの攻撃を防ぐ――駄目だ、防ぎきれない。
回避――いや、俺が避ければ背後のキナたちに直撃する。
迷っている間に、水の壁を突破した氷弾の粒が俺の全身を貫いた。
「―――――!」
傷口から流れる血液と共に力が抜けていく。
魔石の動力を伝えるためのバイパスが破損している。
組成式が頭の中で上手く組めない。
いつの間にか、俺は床の上に倒れていた。
血液と一緒に体中の力が抜けていくような気がする。
口の中が渇いていた。
痛みだけが生命の危険を知らせるように全身を駆け巡っていた。