純粋な悪意 その②
「シンプルにいこう、クルシュ」
そう言ってドブラは立ち上がり、両手を広げた。
「ぼくと君、最後に立っていた方が勝者ってことでどうかな? 敗者は勝者の言うことを聞くっていうのは?」
「乗った」
「せっかくエルフをもう一匹連れてきてくれたみたいだし、ぼくが勝ったらその家畜、ぼくが貰うけどいいよね?」
「……………」
キナのことだ。
俺は一瞬言葉に詰まった。
そんな俺の代わりに答えたのはキナだった。
「構いません! クルシュさんは、負けませんから!」
「……随分家畜に信頼されてるねえ、クルシュ。どういう手を使ったんだい?」
「家畜じゃなくて仲間だからな」
「そうかそうか、ぼくも今度から奴隷のことを『仲間』って呼ぶことにしようかな。勉強になるよ」
ドブラの右手に握られていたものに、部屋の照明が反射して光った。
注射器だ。
ドブラはその針を自らの首筋に突き立てた。
「キナ、隙を見てナクファの拘束を解いてやってくれ」
「分かりました!」
「始めようか、クルシュ」
ドブラが円卓を蹴りあげる。
巨大な円卓が空中に浮かび、俺めがけて落下してくる。
「冗談だろ……!」
魔石を胸の孔にセットし、動力を全身へ伝える。
拳を握り、思いきり円卓へ叩きつけた。
円卓がひび割れ、細かい木片が飛び散る。
その合間を縫うように、ドブラがこちらへ接近してくるのが見えた。
「クルシュ!」
胸部の魔石の組成を書き換え、炎熱魔法を付与する。
「これでも喰らってろ!」
魔石から放たれた炎の渦がドブラの半身を焼いた―――が、すぐに再生する。
ドブラの拳が俺の頬に直撃した。
「そんなものかい、『元』特級錬金術師!」
「『元』は余計だ!」
炎熱魔法から雷撃魔法に組成を組みなおす。
俺は手を伸ばし、ドブラの髪を掴んだ。
そして相手の顔面に右手を押し当て、雷撃魔法を放った。
一瞬ドブラの顔面が焼失したが、やはり瞬く間に再生してしまう。
今度はドブラの蹴りが俺の腹部を襲った。
胃液が込み上げてくる。
俺は歯を食いしばり、ドブラを突き飛ばして後ろへ下がった。
やはりすさまじい再生能力だ。しかも、心なしか再生のスピードが上がっているような気がする。
「……気づいてくれたかな、クルシュ」
「何にだ?」
「再生能力の向上だよ。やはりエルフの遺伝子は素晴らしいね。ぼくの身体にもよく馴染んでいるよ」
「お前、ナクファの身体からエルフの遺伝子を……!?」
「ぼくは収集家だからねえ。珍しい種族の遺伝子は自分の身体に取り込んでみたくなっちゃうんだ。ほら、見なよ」
ドブラが指先を俺に向ける。
その先端に光が結集し、光はやがて火球に変わった。
「魔法……だと……!?」