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真の天才 その④


「不完全な融合は寿命を縮めるだけだぞ、ゴート!」

「天才に追いつくためには命を削るしかない。それが僕の達した結論だよ、クルシュ。さあ、この手でお前を殺してやる!」

「この馬鹿が!」


 俺は地面を蹴った。


 常人であれば反応できないスピードの中、ゴートがはっきりと俺を見ているのが分かった。


 俺の拳がゴートを捉える。


 同時に、腹部にゴートの拳が減り込んだ。


「ぐっ……!」

「ようやく追いつけたようだな、お前に」


 ゴートは血を流しながら笑っていた。


「魔石は命を削るためのものじゃない!」

「それを決めるのはお前じゃない、魔石を使用する者だ!」


 ゴートの蹴りが俺の側頭部を襲う。


 強い衝撃で一瞬眩暈がする。


 何とか踏みとどまり、蹴り返す。ゴートは避けず、二、三歩後ずさった。


「お前は特級錬金術師になり、俺を追放した。自分の目的は達成したはずじゃないか。なぜ俺にこだわる?」

「お前が不完全な魔石を残したから―――いや、違うな。違う。今こうしてお前と対峙してみて初めて分かった。僕がお前から逃れられないのは、お前を超えられなかったからだ、クルシュ。お前の残した魔石の製法、僕ならば欠点を克服できると思った。しかしそうはならなかった」

「結局お前、俺に対するコンプレックスが解消できていないだけなんじゃないのか!?」

「知った風なことを言うな!」


 ゴートが俺に掴みかかる。


 次の瞬間、ゴートの頭突きが俺の顔面に直撃した。


 鼻の骨が変な音を立て、血が噴き出した。


 ゴートの拳が容赦なく俺に襲い掛かる。


 強化された拳は一撃一撃が重く、当てられるたびに意識が飛びかけた。


 ゴートは肩で荒く息をしながら、最後に俺を蹴り上げた。


 目の奥が出血しているかもしれない。視界が真っ赤だった。


 俺は何歩か後退し、ようやく立ち止まった。


「なぜ……反撃してこない」


 ゴートが俺を睨む。


「俺が反撃すれば……満足するのか?」

「……貴様はいつもそうだ。自分が優位に立っているような口ぶりで、僕らを見下している」


 俺を睨んだまま、ゴートは血を吐いた。


 絨毯がその血を吸い込んでいく。


 俺が両手の拳を顔の前で構えると、ゴートも同じ姿勢を取った。


「クルシュ、貴様がいなければ!」


 ゴートが左足を踏み込み、俺めがけてすさまじい速度のパンチを放つ。


 身体を微かに捻る。ゴートの拳が俺の頬を掠める。俺は右手を伸ばし―――ゴートの胸部に埋め込まれた魔石に触れた。


「俺は錬金術師だ。殴り合うのは得意分野じゃないからな……」

「クルシュ―――ッ!」


 ゴートが歯を食いしばる音が聞こえた。


「……全設定を初期化。動力パターンはそのままにシナプス配線の対象を変更。システムの制御権限を解除。神経野から魔石を強制排除。伝達信号とアリアドネ・ネットを運動ルーチンから切断、全システムをオフラインに移行」

「き―――さま――――ッ!」


 ゴートの胸の魔石たちが輝きを失っていく。


 そして最後の一つが暗色に変化した瞬間、ゴートは膝から崩れ落ちた。


「お前の身体から魔石の動力を排除した。だが、まだ動くことはできるはずだ。ゴート、ここから脱出しろ。『上流階級ギルド』は俺が何とかしておく」

「僕は、お前を殺すために……」


 床に倒れたまま、ぎらついた瞳だけでゴートが俺を見上げる。


「そんなことより、錬金術でこの国を変えて見せろよ。お前の言う政治の力ってやつも利用してな」


 キナが駆け寄って来る。


 ゴートは起き上がろうとしなかった。


「クルシュさん……」

「大丈夫だ。急いで魔導院へ行こう」


 魔石を外す。


 全身が消耗しているのが分かる。


 やれるのか、と思いながらも、やるしかない、と思い直し、俺はキナと共に魔導院へ向かった。






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