真の天才 その③
「そうだ、恨みだ。お前はいつも天才と呼ばれていた。僕が一年かけて構築した組成式を、お前は一日で構築できた。僕はお前を超えるためには手段を選ばなかった」
「その手段っていうのが、俺から研究成果を盗むことだったのか?」
「違う! 政治の力を味方につけるということだ! お前は特級錬金術師の地位を持ちながら貴族や王族の言いなりだった。理不尽なノルマを押し付けられながらも、それを達成することしか考えなかった。そのせいで奴らは錬金術師そのものを見下すようになったんだ! 僕が貴族や王族とのコネクションを重視したのは、錬金術師の立場を向上させるためでもあったんだ!」
「錬金術師は魔石の扱いに長けてこそ錬金術師だ。そして魔石の生産力が上がれば、それだけ国民の生活は豊かになる。工場で働く人間たちも楽になる。それじゃいけないのか?」
「政治はそう簡単じゃない。お前には分からないだろう。そうさ、天才のお前には僕の気持ちは分からないだろう!」
「分かるつもりもないね、俺を追放した人間の気持ちなんてものは!」
早くこの決着をつけて、ドブラを止めなければ。
俺は再びゴートに接近し、右手を振り上げた―――が、顎に強い衝撃を受け、気づけば壁に叩きつけられていた。
な―――何が起こったんだ?
口の中に熱いものが込み上げて来て、吐き出すとそれは血だった。
「理解できない、とでも言いたげな顔をしているな、クルシュ」
「ゴート……」
「人体と魔石の融合は禁忌だ。いや、禁忌という以前に不可能なんだ、魔石の動力を人間に伝達する組成式なんてものは。しかしお前は天才だから、そんな不可能も簡単に可能に変えてしまう」
「何が言いたい?」
「僕はお前ほど天才じゃない。が、かつて天才という言葉は僕のものだった。だからできるさ―――雷属性の魔石を用いて身体へ強制的に電気信号を送り、人間の限界以上の動きをさせることくらいはね」
「そんな――まさか」
「これも一種の魔石との融合だろう、聊か不格好ではあるがね―――お見せしよう」
ゴートが上着を脱ぎ、上半身を露わにする。
その胸元から脇腹にかけて、両手程のサイズの魔石が数個、埋め込まれていた。
それらの魔石はゴートの心臓の動きに合わせてか、定期的に脈動していた。




