真の天才 その①
※
王宮の裏手にある森林地帯。
切り立った崖の向こうに見える王宮からは、未だ火の手が上がっていた。
「さあ、準備は良いですかクルシュさん」
「もちろん。ヘルメットも被ってるし」
「では行きましょう。あの辺りめがけて加速すれば良いんですね?」
キナが王宮を指さす。その先はちょうど王の間がある箇所だった。
「そうだ。この坂を利用して、あの窓から中に突っ込む」
「舌を嚙まないよう、気を付けてくださいね!」
「ああ、頼む!」
キナがインテレストを急発進させる。
下り坂で加速をつけたバイクはそのまま崖に差し掛かり、速度を落とさないまま宙を舞った。
「―――っ!」
強烈な浮遊感と空気の抵抗が俺達を襲う。
眼下にあった王宮がみるみるうちに近づいてくる。
俺は無意識の内に、キナの腰に回した腕に力を込めていた。
「インテレスト、がんばってください!」
キナが叫ぶ。
インテレストはタイヤの部分で大窓を粉砕するようにしながら、王の間に突っ込んだ。
俺とキナはガラスの破片が飛び散る中、空中へ投げ出され、そのまま分厚い絨毯の上を転がった。
ヘルメットが弾け飛び、ゴーグルが割れる。
王の間に集められていたらしい貴族たちの悲鳴が上がる中、俺は立ち上がった。
見張り役の黒服たちが銃口をこちらに向ける。
「……ええと、ドブラって人がいるんじゃないかと思うんだが」
ドブラの名前を出した瞬間、黒服たちの表情が変わった。
「なんでその名前を知っている? ドブラさんに何の用だ」
「ああ、やっぱりあいつの仕業か。いや、因縁があってね。そろそろその因縁もチャラにしたいと思ってたとこなんだよ」
「ふざけたことを言うな!」
黒服たちの銃が一斉に火を噴いた。
貴族たちがもう一度悲鳴を上げる。
俺はキナを突き飛ばし、その上に覆いかぶさるようにした―――瞬間。
王の間を眩い閃光が迸り、次に気が付いたときには黒服や貴族たちの一部は焼死体に変えられていた。
「な……え?」
呆気にとられる俺の傍らで、キナが震える声を上げた。
「な、なんなんですか、これ……!?」
「分からない。まさか魔石の力なのか……?」
少し遅れて、貴族や黒服たちがそれぞれに訳の分からない叫び声を上げながら、出入り口に殺到した。
肉の焦げたような匂いがした。
そんな大混乱の中、重たい足音が一定のリズムを刻みながら、俺たちの方へ近づいて来た。
「外したか……。やはり最大出力ではコントロールが効かないな。それともお前ならコントロールできるのか、クルシュ」
うつろな目で俺を見つめるその人物は、ゴートだった。
その片手には淡く発光する魔石が握られている。