新たな魔石 その④
「ありがたいお言葉です、クルシュ様!」
「良いの、クルシュ?」
コルナが俺の顔を覗き込み、不安そうな目で俺を見上げる。
「北部に追放されてからこの王都に戻ってくるまでに『上流階級ギルド』とは何度か揉めててな。まさかクーデターまで起こすとは思っていなかったけど」
「私も行く。クルシュ一人でどうにかなるような問題じゃないと思うし」
「いや、王宮に乗り込むのは俺一人で良い。コルナには頼みたいことがあるんだ」
「私に頼みたいことって?」
「ああ、魔石の――」
俺の言葉を遮るように、聞きなれたバイクのエンジン音が耳に飛び込んできた。
音のした方へ顔を向けると、そこにはインテレストに跨ったキナが居た。
「どうもどうも、王宮までの特急便はいかがっスかぁ?」
「キナ!? 先に脱出してろって言っただろ!」
「クルシュさんがピンチなんじゃないかと思って駆け付けたんですよ!」
「お主が妾達の知らぬところで命を落としてしまっては後味が悪いからな」
後部座席からフィラが顔を覗かせる。
「お前ら……」
「あの工場を脱出したときから覚悟はできていますから。さあフィラちゃん、クルシュさんに席を譲ってください」
「え、妾も一緒に行くのではないのか? そういう流れかと思ってたのだけど!?」
「インテレストは二人乗りまでが限界ですから、我慢してください。コルナさん、フィラちゃんを頼みます」
「ちょ、ちょっと待ってよ。どうせなら私が行くって。私これでも錬金術師だし、クルシュの役に立てるのは、悪いけど私だと思ってるから」
「な、なんですって!? じゃあインテレストは誰が運転するんですか!」
「まあ、待てよ。落ち着いてくれ。俺に考えがある」
「考え?」
キナたちが一斉に俺の方を見た。
うっ、大人数に見つめられると俺の中のコミュ障な部分が……。
「ええと、とりあえず二手に分かれよう。俺とキナは王宮へ殴り込みをかける。コルナとフィラには別で頼みたいことがあるんだ」
「それってもしかして、さっき言いかけてたこと?」
コルナの質問に俺は頷き返す。
「そうだ。コルナには、この王都中の魔石の組成を一部書き換えて欲しい。出来るだけ多く」
「つまり、昨晩クルシュが開発した組成式を既存の魔石に組み込んでいくってことね」
「ああ。お前の人脈があればより多くの魔石に手を加えられるはずだ」
「なるほどね。確かにそれは、錬金術師の私にしかできないことみたいね」
「フィラもコルナをサポートしてやってくれ」
「仕方ないのう。妾が面倒を見てやる。任せておれ、赤髪の小娘」
「………この子もしかしてアレなの、自分のこと妾とか呼んじゃうお年頃なの? まあ、私も自分が特別って思っちゃってた時期あったし、気持ちは分かるけど」
「ち、違うぞ! 妾はれっきとした妖狐族の末裔で、お主などよりよほど長く生きておるのだぞ!」
短い両手を振り回しながら必死に抗議するフィラを横目に、俺は炎上する王宮へ向き直った。
「じゃあ、始めるか」
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