新たな魔石 その③
「とにかくお二人とも、こちらへ」
兵士に促されるまま、俺とコルナは外へ出た。
立ち並ぶ建物の隙間からは、荘厳にそびえ立つ王宮が見えた。
普段と変わらないように見える王宮。その瞬間、その外壁の一部から火の手が上がった。
「王宮が、燃えてる……!?」
「昨晩、賊が現れたのです。奴らは最初に魔導院を襲撃すると、次に王の間を襲撃し――何せここ数十年このような謀反など起こらなかったのです。敵の手際の良さに兵たちも動揺し……」
「そんなのは言い訳だろ。王宮を守るのが兵士の務め……のはずだったよな」
「は、申し訳ありません!」
兵士は直立不動のまま声を張り上げる。
いや、もちろん俺は兵士の訓練を受けたこともないし、受けたところできっと耐えられなかっただろうけど――とにかく今問題なのは、王宮が何者かの襲撃を受けているって事実だ。
胸騒ぎがする。
「クルシュ、どうする? もしかするとチャンスかもしれないよ」
「チャンス?」
「王宮が襲われているなら、その分警備も手薄だよ。クルシュは安全に脱出できる」
「それはそうだろうけど……助けてくれって言われてるんだぜ。お前もナクファを見殺しにはできないだろ」
「だけど、クルシュを追放したのは王宮の人たちでしょ? これ以上クルシュにばかり責任を負わせられないよ」
「そうは言っても、何か嫌な予感がするんだ。なあ、その賊は何者なんだ? 分かる範囲で教えてくれ」
「奴らは『上流階級ギルド』と名乗っていました。王政を打破し、ニュルタム王国内に居住する希少種族たちを他国へ売買することで国益を上げると……」
兵士の言葉に、コルナが顔色を変える。
「それって奴隷貿易を始めるってこと!? そんなやり方が上手くいくわけないじゃん!」
コルナの言うことはもっともだ。
しかし恐らくは――奴らは、いや奴は本気だ。
『上流階級ギルド』の―――あのドブラという男にとってうまくいくとかいかないとかいう話はどうでもいい。
ただ、自分のアイデアを実行に移してみたいだけなのだ。異種族の遺伝子を自らの身体に取り込み、自分自身を実験台にしたように。
そしてナクファはエルフ族だ。ドブラがこのクーデターを決行したことと無関係とは思えない。
ひょっとすると、俺が王都に戻ったことも原因の一つだろうか。
いや、今はそんなことを考えていても仕方がない。
とにかくやるべきことは―――。
「俺は王宮に行く。あんたは先に行って状況を確認しておいてくれ。王宮内で落ち合おう」