再会 その④
「当たり前だ。俺も王都なんかに長居するつもりはないからな。キナ、フィラのことも頼んだぞ」
「はい、クルシュさん」
「お前の方こそ、また牢屋に入れられるようなヘマはするなよ、クルシュよ」
「分かってるよ。じゃあまた明日な、キナ、フィラ」
「……はい。ご無事で、クルシュさん」
キナはヘルメットをかぶるとフィラを後部座席に座らせ、自分もインテレストに跨った。
すぐにエンジンの重低音が鳴り始める。
もう一度だけこちらを振り返ったキナは何かを言いたそうにしていたが、結局何も言わないままインテレストを発進させた。
エンジンの音が遠ざかっていくにつれてバックランプが街の外へと消えていくのを、俺はぼんやりと見送った。
空気が冷たい気がする。身体が少し震えた。
「我々もこの辺りで失礼させていただきます。もう一台のバイクはいかがしましょう?」
兵士の一人が沈黙を破るように言う。
「ああ、コルナの研究室に運んでおいてくれ」
「え、私の研究室? クルシュ、何をするつもりなの?」
「劣化版の魔石を広めたのは俺じゃないが、開発したのは俺だ。本当は関わるつもりはなかったんだけど、気が変わった。一応の責任は果たしたいと思ってる」
「つまり、今の魔石を改良する方法があるってこと?」
「そういうこと。まだ実験はしていないけどな。頼むよ、同期の仲間だろ」
「そ、そんな風に言われたら断れないけど……うん、分かった。王都のためだし。でも一晩で出来ることなの?」
「出来なきゃ諦めるよ。どちらにしても俺が国家反逆者っていうことは変わらないわけだしな」
「じゃあ、せっかくだからバイクに乗って行こうよ。クルシュ、運転出来るんでしょ?」
「え? ああ、まあ、うん、出来なくもなくもなくもなくもない感じかな」
「すみません、バイクは置いていってください。私たちが使いますから」
「承知しました。では、我々はこれで」
兵士たちが再び闇の中へ紛れていく。
残されたのは俺とコルナと、一台のバイクだけになった。
「憧れだったんだよねー、バイクの後ろに乗せてもらうの」
「そ、そうか。まあ乗れよ」
どうなっても知らないぞ、こいつ。
俺はバイクに跨りエンジンをかける。小気味いい振動が全身に伝わってくる。
「お邪魔しまーす。へへ、わくわくする」
「しっかり掴まってろよ!」
バイクが急発進する。
殺人的な加速で心臓が握りつぶされるような錯覚に襲われる。
「あははははははっ!」
背後でコルナが狂気的な笑い声をあげ、俺の背に身体を押し付けてくる。
夜の風を切り裂きながら、俺とコルナの乗ったバイクはヘッドライトの明かりだけを頼りに、街の中を走った。
※




