檻の中の錬金術師 その②
「おやおや、『元』特級錬金術師様が地下牢行きとは。無様ですねえ」
「わざわざ会いに来てくれて嬉しいよ、ゴート。お前が広めた劣化版の魔石、調子が良いみたいじゃないか。俺の見立てじゃあと一か月たたずに使い物にならなくなると思うけど、特級錬金術師様のことだからちゃんと対策は考えてあるんだろうな?」
劣化版の魔石、と口にした瞬間ゴートの顔色が変わった。
怒りを露わにしたゴートは俺を睨みつけながら言った。
「……すべては貴様の責任だ、クルシュ。貴様が中途半端な研究成果を残したせいで国民が苦しむことになる。だからその責任を果たしてもらう、貴様の命でな」
「冗談だろ? 俺はあの魔石の製法を広めるつもりはなかった。それなのにどうして俺が責任を負わなきゃならないんだ?」
「簡単な理屈だ。貴様は王国を裏切った張本人。その貴様は劣悪な魔石を国に広めた罪で処刑される。国王も貴族も、国民さえも納得する結末だろう」
「そりゃいいね。で、全員が納得すれば魔石の性能は上がるのか? すごいな、そんな錬金術を生み出したのか――さすがだねえ、特級錬金術師のゴートさん」
「僕は今、政治の話をしているんだ。魔石の性能の話などしていない!」
「錬金術師の本分は政治じゃない、魔石の研究だ。錬金術師同士が魔石の話をしなくて何の話をするんだ?」
「この……っ!」
ゴートは大股で牢に歩み寄って来ると、両手で勢いよく鉄格子を掴んだ。
鉄格子が大きな音を上げ、俺はちょっとビビった。
「な、なんだよ、口で勝てないからって実力行使なんて。研究成果泥棒らしいやり方だな」
「貴様はいつもそうだ。僕がどれだけ苦労して貴族や王族に取り入ったと思っているんだ。誰もが貴様のように錬金術だけで成り上がれると思ったら大間違いだ。……そこで好きなだけ喚いていればいい。最後に笑うのはこの僕だ。いいか、クルシュ。処刑は明日だ。そこの女二人も国家反逆者と同行した罪で終身刑だ。最期の夜をせいぜい楽しく過ごすんだな!」
そう言うとゴートは踵を返し、地上へ続いている階段を昇って行った。
「……ったく、何なんだよあいつは。何しに来たんだ?」
「あの人に恨まれるようなことしたんですか、クルシュさん?」
「仮にあったとしても逆恨みだろ。まったく、男の嫉妬っていうのは醜いねえ」
「その嫉妬に巻き込まれるこちらの身にもなって欲しいものだな」
牢屋の片隅に座ったまま、フィラが言う。
「で、クルシュ。お主はいつまでそうして寝ころんだままなのだ?」
「……いや、石が冷たくて気持ち良すぎて、つい」
ようやく俺は身体を起こした。
眩暈も随分治まった気がする。
「そういう態度だと、さっきの男が怒るのも分からんでもない気がするな」
フィラは手持ち無沙汰になったのか、尻尾の毛づくろいを始めた。