檻の中の錬金術師 その①
※
「―――さん、クルシュさん!」
身体を揺すられ、徐々に意識を取り戻す。
ゆっくり目を開けると、こちらを覗き込むキナの顔が見えた。
「ああ……キナ、大丈夫だったか?」
身体を起こし周囲を見てみると、石造りの狭い空間だった。正面には鉄の格子は嵌められている。
宿屋のスイートルーム、というわけではなさそうだ。
「私は大丈夫です! でも、私たち捕まっちゃったみたいで」
「やはりそうか。まあ、見れば大体分かるよ」
「乱暴な奴らだ。女性の扱い方というものをまるで判っとらん」
憮然とした表情で壁際に体育座りしているのはフィラだった。
どうやら無事なようだ。
俺の分まで毒料理を食べていたのに、丈夫なやつだな……。
「俺たちは一体誰に捕まったんだ……いやまあ、大体想像はつくけど」
「多分、王国の人たちです。ナクファさんたちとは関係のなさそうな人たちみたいでした」
「だろうな。ナクファは毒物なんて使うようなタイプじゃないし」
立ち上がり、牢屋の中を歩いてみる。
格子の外側には鍵穴があった。恐らくここを開け閉めするのだろう。
石造りの壁には窓があったけれど、そちらも格子が嵌っている。魔石の一つでもあれば人体接続して無理やり脱出できたかもしれないが、牢に入れられるときに持ち物は全て没収されてしまったらしい。ポケットには紙切れ一つ入っていなかった。
「どうしましょう、クルシュさん……。インテレストは宿屋に置かれっぱなしなんでしょうか。心配です」
「おいおい、毒盛られてるんだぜ。自分の身体を先に心配しろよ。キナもフィラも具合はどうだ?」
「私は大丈夫です」
「ああ、妾もだ。恐らく人間用の毒だったのだろう。妾達にはあまり効き目がなかったようだ」
「それは何よりだ。良かったな。むしろ羨ましいよ。実は俺、まだちょっと眩暈が」
「だ、大丈夫ですかクルシュさん! ほら、横になってください! ここの床がよく冷えていて気持ちよさそうですよ!」
「人の頭を石の床で冷やそうとするなよ……!」
とは言いつつ、キナの言う通りの場所に額を当ててみる。
あれ、意外と気持ち良いかも……。
「しかし、妾達を捕らえてどうするつもりなのだろうな。奴隷として売るつもり――というわけでもなさそうだな、今回は」
「ああ……多分だけど、目的は俺だろう」
「クルシュが犯罪者だから捕まったということか?」
「それもあるだろうが、それだけじゃない。きっと俺の顔を見たい奴がいたんだよ。……ほら、お出ましだ」
格子の向こう側には上へ続く階段があった。高らかな足音を響かせながら、階段を降りてくる人影がひとつ。
忘れたくても忘れられないだろうその人物は、俺を北の地へと追放した張本人―――ゴートだった。