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失われる光 その⑥


「しかし、まさか国の中枢にエルフがいるとは思わなかった。クルシュも知らなかったのだろ?」


 席に着くなり、フィラが言った。


「……ああ。いくら王都に種族を差別する概念がないとは言っても、王宮内では人間以外を見たことは無かったな。俺も意外だった。っていうかそもそもエルフ自体、存在が希少だからな」

「私もびっくりです。どうせならエルフやほかの種族が暮らせるような国にしてくれればいいのに」

「無理だろうな。特に『上流階級ギルド』みたいな連中が国内にいる限りは」


 そんなことを話していると朝食が運ばれてきた。パンとサラダ、そして卵を焼いたものがワンプレートに載せられた簡単な朝食だ。


「それにしても王都は良いところですねえ。病院も無料だし、ご飯も美味しそうだし。北部とは大違いです」

「たしかにロクなもの食った覚えがないな、あっちでは」

「その点、妖狐族の里は良いぞ。食べ物が健康的だ。塩分はちょっと多いが、味は妾が保証しよう」

「へー、そんなに凄いなら今度作ってくれよ。インスタントの食べ物ばかりじゃ飽きてきたところだし」

「それはダメだな。ちゃんと道具を揃えてもらわないと」

「道具ならお前の妖術とかいう技で出したらいいんじゃないのか?」

「それだけで力尽きてしまうからな。大体、そういうのは作ってもらう側が準備するものではないのか? 敬意を見せてもらわんとな、敬意を」


 そう言ってフィラは俺の皿にあった卵料理に手を伸ばす。


 いつもなら止めるところだが、こいつも病み上がりだし。少しは大人の余裕というやつを見せ

てやろう。所詮子供だからな。


「良いよ、食えよ。その代わりよく噛んで食べろよ」

「む……素直な反応だと拍子抜けだな。まあ良い、ありがたくいただくとしよう」

「フィラちゃん、手づかみはお行儀が悪いのでちゃんと匙を使った方が良いですよ」

「わ、分かっとるわ!」


 伸ばしかけた手を引っ込め、匙を握り再び俺の皿に手を伸ばすフィラ。


 俺が皿をフィラの方に寄せてやると、嬉しそうに卵料理を自分の皿に移した。


「……食べさせてやろうか?」

「き、気持ち悪いことを言うな! 自分で食えるわ!」


 そう言うなりフィラは口を開け、もぐもぐと料理を食べ始める。


「ところでクルシュさん、この辺りってバイクを修理するお店ってあるんでしょうか?」

「俺も王都にいた頃はバイクになんか乗ってなかったからな……探してみないと分からない。時間がかかるかもな」

「そうやって時間がかかるというのも、旅の楽しみみたいなものですよね!」

「ああ、そうかもな」


 俺はパンを千切って口に入れた。


 普通の市販のパンって感じか。可もなく不可もない味だ。


 いや、よく味わってみると普通のパンとは違う刺激的な風味を感じるような気がする。


 どこか身体に悪影響を及ぼすような刺激的な味―――って。


 それって毒じゃない?


 いやいやまさか。こんな街中の宿屋で毒物なんて。


 そう自分に言い聞かせた瞬間、隣でフィラが激しい物音とともにテーブルへ突っ伏した。


 皿と、その上に載っていた料理が四散する。


「フィラちゃん、どうしたんですか!?」


 血相を変えるキナ。


 が、その片手には食べかけのパンが握られていた。


「キナ、食べるのをやめろ! もしかするとこの料理―――」


 毒が入ってるかもしれない……そう声に出す前に、俺は強い眩暈を覚えた。


 上下左右の感覚が分からない。


 遠くでキナが俺を呼んでいる声が聞こえる。


 風景が横に傾いて、床に叩きつけられたような気がした。


 食堂のドアが開き武装した兵士たちがなだれ込んでくる。昨晩ナクファが連れていた兵士とは装備が違う。恐らくは別の部隊の兵士なのだろう。


 そこまで考えて、俺の意識は途切れた。






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