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北の工場から その④


「もう……ヘアスタイルがめちゃくちゃですよ。また髪が雪だらけに……ん? どうしました?」

「いや、そ、その耳……」

「みみ? 耳? ……えっ、ウソ!?」


 キナは自分の両耳に手を当てるや否や、ただでさえ大きな目をさらに大きく開いた。


「まずっ……まずいです……! まさか見られるなんて……!」

「キナ、間違ってたら謝るけど……その耳、もしかしてエルフなのか?」

「あー……うー……そうですね。一応そうなります。見られた以上、もう言い逃れできなさそうですし……」


 顔を紅潮させたキナは、動揺したように目をきょろきょろさせた。


「うぅ……そんなにジロジロ見ないでください……」

「…………」


 そんなに恥ずかしがられるとなんだか、耳だけじゃないイケない物を見てるような気分だ。


 とはいえ。


 彼女が自分の耳を見られてここまで動揺するのには理由がある。


 この世界にはオーガやゴブリン、それから獣人などの亜人族が多く繁栄しているので、街中で人間以外を見かける機会自体は頻繁にある。


 だが、亜人族の中でエルフが属しているカテゴリーは特殊なのだ。


 【第一級絶滅危惧種・エルフ】


 魔力の扱いにおいて彼らの右に出る者はおらず、人間もかつてはエルフの魔術を頼りにして共存していた。


 しかし、魔石の開発が提案された際、魔術の極端な汎用化を嫌ったエルフは協力を拒んだ。


 誰でも簡単に強力な力を扱う事ができるようになれば、生物の争いはより激化すると考えたからである。


 にもかかわらず、文明の発展を最優先事項に設定した過去の人間たちは、エルフを無理矢理魔石の開発に参加させた。


 その結果、人間とエルフの関係は悪化し、多くのエルフは散り散りとなって人間の生活圏から姿を消してしまった。


 そこから数十年の月日が経った今現在、「エルフ」という種族はとても希少な存在になっている。俺だって見たのは生まれて初めてだ。


「も、もしかして私、このまま捕まって見世物として展示されちゃったり、標本にされたりするんでしょうか……?」

「しないって。珍しい虫じゃないんだから」

「本当ですか? 誰にも言わないって約束してくれます?」

「ああ、もちろん」

「あ、ありがとうございます。じゃあお礼に私も、クルシュさんが魔石を改造できることは報告せず秘密にしておきますね。言っちゃったら余計に警戒されて、下手すると魔石の所持を禁止されちゃうかもしれませんから」

「いいの? 助かるよ」

「いえいえ、お互い様ってことで。けど私、見られたのがクルシュさんで良かったです。万が一人間にバレたら無事じゃ済まないって、エルフのみんなは言っていましたから」

「……えっと、仮にそうだとした場合、キナはどうしてそんな危ない場所にいるんだ?」

「私には使命があるんです。とんでもなく大切で重要な使命が。……まぁ、今はちょっと言えないんですけど」

「ふぅん、まあ深入りはしないけどさ、それにしたって無防備すぎやしないか? 髪で隠すだけじゃなくて耳当てでもしとけばいいのに。ここは寒いし丁度いいだろ?」

「サイズが合いません。人間のやつは」

「…………」


 確かに。





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