王国凋落編 その⑧
現在行われている魔石の製法では、生産性が上がる代わりに品質は大幅に劣化し、以前のものと同じように使用していればひと月程度で破損する。
魔導院から渡された書類に書かれていたのは、要約すればそんな内容だった。
「僕だって錬金術師だ。そんなことが分からないとでも思っているのか……っ!」
ゴートは怒りに顔を歪める。
彼が一級錬金術師として認められたのは、クルシュよりも先だった。
かつて天才錬金術師という言葉は、ゴートのためにあったのだ。
しかしすぐにその名は、特級錬金術師となったクルシュのものとなった。
ゴートはクルシュを追い落とすべく、貴族や王族との間のコネクションづくりに没頭した。
そしてクルシュの未完成な研究成果を手土産に、彼は特級錬金術師の座を手にしたのだ。
魔石を大量に生産できる新製法がクルシュ程度に考えついたのであれば、自分ならその欠点など簡単に克服できる――クルシュを追放したとき、ゴートにはそんな自負があった。
だが現在、新製法の欠点は未だ解消されず、ついにその不具合が明るみに出始めた。
国中の優秀な錬金術師を集め『魔力研究室』を開設し、新製法の研究を行わせてもロクな結果は上がってこない。
このままでは、すべての責任がゴートに降りかかってくる。
品質の悪い魔石を国内外に蔓延させた張本人としての責任が。
ならばどうにかその罪を誰かに擦りつけなければ。
そもそも悪いのはクルシュだ、と、なおもゴートは思う。
あいつが中途半端な製法など考えつかなければ――いや、疑いを知らない王にも責任の一端がある。リスクもなく生産力が向上する製法などという都合の良い話があるわけもないのだ。
貴族たちも同じだ。仮にも一国を担うものであれば、自らが下した決定に責任を持たなければ―――錬金術師はあくまでも錬金術に精通しているものであって、政治をする人間ではないのだから。あの、目先の利益ばかりに囚われた無能どもが。
そう、自分以外は無能ばかりだ。
天才であるはずの自分が、無能たちに責任を押し付けられるわけにはいかない。
だから代わりに誰かを―――。
そう考えて、ゴートはふと思い至る。
そうか。
すべての元凶は、中途半端な術式を編み出したクルシュにある。
であればこの責任さえも、クルシュに負わせれば良い……。
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