北の工場から その③
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「別に無理してついてこなくても良かったのに」
「い、いいいえ、クルシュさんだけを働かせて私だけ、かか、管理室でぬくぬくというわけには……いやまあ、別に暖かくはないですけどね、ああああの部屋は。外に比べたらマシというだけで……」
「寒すぎてまともに喋れてないじゃないか」
機械に備え付けられている魔石の状態を確認しなきゃいけないけど、それよりキナのことが心配になってきた。
点検をするために管理室の外に出たわけだが、それに同行しているキナは俺の背後でガタガタと震えている。
「こんなこと毎日続けてたら、クルシュさんホントに死んじゃいますよ……」
「俺が死んでも代わりはいるさ」
「そうでしょうか? 私、ここの機械が点検されてるのを見たのは今が初めてなんですけど……」
「あー……やっぱそうか」
キナの言っていることは正しい。どうやらここの機械は長い間改修されていないらしく、搭載されている魔石はどれもこれも旧式だった。
「よくこれで動いてるよ、まったく……ストラクチャーを組み直さないと駄目だな」
俺は採掘用の機械から魔石を取り外し、それを手のひらに乗せる。
魔石というのは、製作時に錬金術師がストラクチャーを組む必要があり、それによって機械の動力用になったり、火や雷を放出する魔術用の魔石等に姿を変えていく。
通常、魔石のストラクチャーを変更するには専用の工房が必要だが……。
元、とはいえ、俺は王国でたった一人の特級錬金術師である。
「魔石の再構築を開始。魔力回路を細分化することで魔力伝達率を40%から80%まで引き上げ。余剰分はコアのオプションに使って……いや、そこまでしなくていいか。今日は数をこなさなくちゃいけないからな」
「……すごいです」
俺の手のひらで輝きを放つ魔石を見て、キナは目を丸くする。
「こ、工房や専用の設備も無しで魔石の改造をやっちゃうなんて……それってまさか、逆に全ての機械が壊れちゃうような状態に設定することも……?」
「もちろんできる。だが、そんなことをしても俺には行く当てがないからな。この採掘場を破壊したりはしないから安心してくれ」
「私は最初からクルシュさんをそんな人だとは思ってませんよ。ただ、もったいないと思って」
「もったいない?」
「はい。私が国の偉い人だったらこんなに有能な人を僻地に置いておくようなマネはしません」
「いいね、キナが国王をやったほうがうまくいくかもな」
「誰だってそうしますよ。クルシュさんはそんなに悪いことをしたんですか? 私、やっぱりクルシュさんがそんな人には見えないんです」
「やっぱり分かるか。実は――」
と、俺が口を開いた瞬間、強い突風が雪を巻き上げながら俺たちの間を駆け抜けていく。
「キャア!」
「うわ、風が吹いたら一段と寒いな。キナは先に戻ってても…………え」
振り返って彼女の方を向いた俺は、その瞬間言葉を失った。
彼女のある部分に目を奪われたからだ。
突風で乱れた髪から覗く彼女の耳は――どうみても人間の人体構造とは違い、流線型でスラッとしていた。