希望の船 その③
※
というわけでやって来たのは船の動力部―――巨大な魔石が設置されている部分だ。
「へー、これだけ大きな船を動かすには、大きな魔石が必要なんですね!」
感嘆したように魔石を見上げるキナ。
「いや、実はそうとも限らないんだ。魔石の性能は魔石の純度にもよるからな。質の低い魔石だとこのくらい大きくなってしまうけれど、これが高品質なものだと、バイクに搭載されているサイズくらいのものでも十分船を動かせるんだ」
「さすがクルシュさん、お詳しいですね!」
「元とはいえ特級錬金術師だからな。さて、仕事に取り掛かろうか」
俺は船の動力伝達用のパイプと接続されている、巨大な魔石の一部に触れた。
思った通り船の操舵室にコントロール系が集約されているようだ。
あとはそのコントロールの権限を、さっき客室から奪って来た魔石に移せば―――よし、完了だ。
船がゆっくりと動きを止める。
「止まり……ましたね」
「これでこの船は俺の意のままに動くってわけよ。さ、港に戻ろうぜ」
「……水を差すようで悪いが」フィラが困ったような顔で言う。「お前、港の方向は分かるのか?」
「えっ」
「原付バイクくらいなら何とかなるかもしれんが、ここは海の上だ。コントロールを得たからといってそう簡単に操縦できるとは思えんのだが……」
な、なるほどー!
その辺は全然考えてなかったなぁ!
「ま、任せとけ。この特級錬金術師がどうにかしてみせよう」
「さすがクルシュさん!」
キナの純粋な期待の視線が俺に突き刺さる。
見るなぁー! そんな目で俺を見るなぁー!
ヤバい、どうしよう。
今は船がストップしているから大丈夫だろうけど、このまま放っておくわけにもいかない。
せっかく奪ったコントロールだけどもう一度操舵室に戻して―――いや、そうなるとこの船を動かしている人間を仲間にする必要がある。もしくは脅して言うことを聞かせるか。でもそれはさすがにやってることが悪人過ぎる……っ!
「おお君たち、こんなところにいたのか」
迫力ある声に動力室の入口を見れば、イオンさんがいた。
背後には数人の獣人の皆さんがいる。良かった、他の客室の人たちも無事だったみたいだ。
「……そういえばイオンさんって航海士をされていたんですよね?」
「ん? ああ、そうだが……」
「今俺たちが乗ってるこの船も動かせますか?」
「コントロール系を奪取することが出来ればね。まさか操舵室を襲撃するつもりじゃないだろうな」
「いや、既にこの船の操縦系統は魔石に集約してあるんです。あとは魔石の制御をイオンさんの脳波で行えば良いだけです」
「うん……? よく分からないが、つまり船を私の意のままに操れるようになるということか?」
「そうそう、そうです。やってもらえますか?」
「ふむ、その脳波コントロールというものの仕組みさえ分かれば可能だろうな」
「分かりました。じゃあ、この制御魔石を持ってください」
「こうか? ……む、少し痺れるな……」
「……接続は完了です。あとはイオンさんがこの船を港まで操縦してくれれば」
「承知した。では海の様子が見える場所に行かなければな。ここからは集団で行動した方が良いだろう。ついて来てもらえるかな、クルシュ君」
「もちろんです。キナ、フィラ、行こうか」
「はい、クルシュさん!」
俺たちはイオンさんの一団と合流し、動力室を後にした。
階段を上り甲板エリアへ向かう。