希望の船 その②
「た、助かったよ! これは一体どういうことなんだ?」
スーツ姿の男――獅子か何かの獣人だろうか、めちゃくちゃ筋肉質で口の端に牙がある――が、切羽詰まった様子で俺に問いかける。
「ええと、恐らくは罠です。【上流階級ギルド】が、自分たちの勢力圏外に逃れようとする獣人たちを捕らえるための」
「つまり、異種族の楽園というのは嘘だったと?」
「少なくとも現段階では」
「……そうだったか。獣人であることを隠さず生きられる場所を求めた結果がこれとは、情けない」
男は残念そうにため息をついた。
「とにかくここを脱出しましょう。このままじゃどこに連れていかれるか分からない」
「ああ。私も他の乗客の様子を見てくるとしよう。君、名前は?」
「俺はクルシュ。特級錬金術師――いや、今はただの無職です」
「そ、そうか。私の名はイオン。イオン=シヲラインだ。航海士をやっていた。よろしく」
「はあ……よろしくお願いします」
「では私は他の乗客の様子を見てくる。またここで合流しよう」
そう言ってイオンさんは下の客室フロアへ降りて行った。
他の解放された獣人たちは、それぞれ思い思いの場所でしゃがみ込んだり、落ち着かない様子でうろうろしたりしていた。
「……もう船は海の上だぞ。どうやって脱出する、クルシュ」
フィラが言う。
確かにそうだ。特級錬金術師といえども空を飛ぶことはできない。湖の水を飲み干すことも。
「もしかしたら救命ボートがあるかもしれない。魔石で動くボートなら俺が組成を書き換えれば操縦できるようになる」
「しかしこれだけの人数、ボート一隻に収まるのか?」
「それもそうか……他の乗客も助けるっていうのは高望みしすぎだったか?」
俺が言うと、キナは首を振った。
「そんなことはありません。私たちだけが助かれば良いってわけじゃありませんから」
「……そうだよな! 自分たちだけが儲かればいいとかいう考え方は間違ってるよな! くそ、あの貴族たちめ。俺がどれだけ魔石の生産に貢献してきたと思ってるんだ……っ!」
「過去に何かあったんですね、分かります」
ごほん、とフィラが咳払いをする。
「話を元に戻すが、どうやって脱出するんだ。こうしていてもいずれ奴らは異変に気付くぞ」
「まあ、そう焦るなよ。俺にだって何も考えがないわけじゃない」
「さすがクルシュさん! このピンチを覆す一手を既に準備されているわけですね?」
「ったりめーよ! いいか、この船から脱出するって考えがまず間違いなんだ」
「といいますと?」
「つまりな、この船を奪ってしまえばいいんだよ」
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