異種族の楽園へ? その②
「これがチケットです。船はもう少ししたら出発しますから、遅れないようにご乗船ください」
事務的な口調で受付嬢が言う。
チケットは最低限の必要事項しか書かれていない、簡素なものだった。
「ああ、ありがとう……そうだ、その船ってバイクとか載せられませんか?」
「残念ながら無理です。よろしければこちらの港でお預かりしますが?」
「ああ……じゃあお願いします。これ、チケット代です」
俺が金貨を差し出すと、令嬢は愛想よく、
「港に泊まっている『エスポワール号』という船です。では、よい旅を」
と言った。
チケットを手に、俺たちは一度受付ロビーを出た。
キナとフィラにそれぞれチケットを手渡す。
「で、どうする? もうすぐ出港らしいけど」
「本当に後から来られるんですか、クルシュさん」
「いや……今のところ何の考えも浮かんでないんだけど、何とかなるだろ」
「でしたら、ここでクルシュさんとはお別れかもしれないってことですか?」
「まあ――キナたちが異種族の楽園に住みついちゃって、俺がそっちに行く方法を考えつかなければそうなるよな」
「そんなのイヤです……! やっぱり行くのやめます」
「え?」
「クルシュさんと一緒じゃなきゃ、私イヤです……」
キナの両目から大粒の涙が零れだす。
「お、落ち着けよ。少し考えよう。もっといい方法があるかもしれないだろ」
「でも、でも、クルシュさんを置いてなんて行けません!」
「そう言われてもなあ……」
人間はチケット売ってもらえないし、密航もできなさそうだし。
何か上手い手はないものだろうか。
「盛り上がってるところ悪いが、妾に良いアイデアがあるぞ」
「本当か、フィラ?」
「当たり前だ。クルシュの分として用意しておいた金貨が不要になっただろう? そのおかげでまだ妖力に余裕がある」
「ほほう、つまり?」
「ここにチケットがあるだろ? これをこうして、こうだ」
気付けば、キナの手元にあったチケットが2枚になっていた。
「お―――お前!」
「これがあればクルシュも異種族の楽園とやらに行けるのだろう?」
「さ、さすがですフィラさん! お礼に尻尾揉ませてもらっていいですか!?」
「しっ、尻尾はやめろ、バカ!」
「ありがとうございますフィラちゃん。これでクルシュさんも一緒に行けますね!」
キナがフィラを抱きかかえる。
フィラはわざとらしく迷惑そうに、
「ふん、妾の力をもってすれば造作もないことよ。そうだ、念のためお前に耳を付けて置いてやろう」
フィラが手を一振りすると、俺の側頭部に獣のような耳が生えた。
「……あの、俺これ今耳が4つあるんだけど不自然じゃないかな?」
「船に乗り込むまではそうしていろ。受付の女が何かをメモしていただろう? 乗船時に身体的な特徴のチェックがあるのかもしれん」
なるほど、そういうことか。
「では行きましょうクルシュさん! 異種族の楽園へ!」
「あ……ああ!」
俺たちは船着き場の入口へ向かって歩き出した。
しかし、こんな簡単に異種族の楽園へ到着して良いんだろうか。
もっと南の方だと思ってたけど……まあ、今は気にしないでおこう。
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