異種族の楽園へ? その①
「えーっ!? 人間は船に乗れないのか!?」
ロシュマクの港。
乗船予約窓口。
ターキの街を出た後、買ったばかりのアウトドア用品で野宿をした俺たちは朝一番で異種族の楽園へ向かう船の予約手続をしていた―――のだが。
「そうです。俗に異種族の楽園と呼ばれる島、『メンゾグナ島』は人間の立ち入りが禁止された島なのです」
窓口の受付嬢は、事務的な口調でそう言った。
「なんでそんなことになってるんだ? 人間差別じゃないのか?」
「メンゾグナ島は古来よりそのような慣習があるのです。ニュルタム王国としてはその慣習を最大限尊重し、この港から出港する唯一の定期便も人間以外の異種族で運用されているのです」
「どうしてもダメなのか?」
「どうしてもダメです。規則ですから」
「例えば俺が王都である程度権力を持っていた男で、その権力を持って船に乗るというのは……」
「当然ですがダメです。北部の行政当局から密航は厳しく取り締まるよう通達が出ています。本来であればそのような話を聞いた時点で通報することになっていますが、お客様はこの辺りの方ではないようなので、特別にお見逃ししましょう」
「……………」
取り付く島もない。
いや、取り付きたい島はあるんだけど……。
「クルシュさん、どうしましょう……?」
背後でキナが心配そうな顔を浮かべる。
「どうするって言われても……とりあえずキナとフィラの分だけでも予約しておいた方がいいだろう」
「クルシュさんはどうされるんですか?」
「何か別の方法を考えるよ」
「しかしそんなことができるのか、クルシュ。取り締まりが厳しいようだが」
「大丈夫だ。特級錬金術師に不可能はない」
「『元』だろ?」
「それでもだよ。とにかくお前たちは異種族の楽園に行けよ。それで、俺がうまく潜り込めるよう準備を整えておいてくれ」
「でも」
「だから大丈夫だって。俺を信じろ。なんとかするから」
「……分かりました。必ず来てくださいね」
俺はキナへ頷いて、受付嬢の方を振り向いた。
「じゃあ、二人分の予約をお願いしたいんだけど」
「かしこまりました。お連れ様の分ですね? ではお連れ様が異種族である証明を」
「証明? 証明書ってことか?」
「可能であれば。もしくは、身体の一部を拝見させていただくだけでも構いません」
「む……」
周囲には俺たち以外の人影はない。
少しくらいなら大丈夫か。
「キナ、フィラ、悪いけどそういうことらしい。この人に見せてあげてくれないか?」
「は、はい。分かりました」
キナとフィラがそれぞれ、長い耳と尻尾を受付嬢に見せる。
受付嬢は手元の紙に何かをメモすると、少ししてから二枚の紙片を俺に渡した。