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北の工場から その②


「お食事をお持ちしました。お忙しいようでしたらまた後で伺いますけど……?」

「ああいや、大丈夫だから入ってくれ」

「はい。では失礼します」


 少女は静かにドアを開け閉めして室内に入り、礼儀正しく頭を下げる。


「初めまして、キナ・フリブニャンと申します。今日からクルシュさんのお世話を担当することになりました。よろしくお願いします」

「お、お世話って……ああ、お目付け役か」

「あはは、身もフタもない言い方をすればそうなりますね」


 と、こちらの指摘を特に気にすることもなく楽しそうに笑うキナ。


 その長い銀髪に降り積もった雪を払っている姿はまるで妖精だ。


「それにしても寒いですね、ここ」

「まあ俺は大罪人だからな。死んでも問題ないと思われてるんだろ」

「大罪人だなんてとんでもないです。クルシュさんは王国が誇る特級錬金術師じゃないですか」

「元、だけどな」

「それでも十分凄いです。あとで私の魔石にサインしてくださいます?」

「……あの、ちょっと質問なんだけどさ、俺のことを怖いとかは思わないの?」

「え? うーん、そうですね、ちょっとだけ身構えて来たんですけど、やっぱり悪そうな人には見えなくって」


 言いつつ、キナの温かみのあるオレンジ色の瞳が俺を見つめる。


 あぁ……なんて見る目のある子なんだろう。心溶かされそう。


「まったく、クルシュさんをこんなところに置いておくなんてブラックな職場ですねぇ。あとで毛布とか持ってきますから」

「ありがとう。でもまあ、部屋が寒いのは自分でなんとかするさ。魔石があればどうにでもなるし給料日までの辛抱だな」

「あー……なるほど、クルシュさんは魔石が欲しいんですね……」

「え? ま、まさか売ってないの?」

「ああいえ、販売自体はされていますけど……その、ここって、新品の魔石を買えるほどのお給料は出ないんですよ」

「…………」


 ブラックすぎる。


 真っ白な雪原の中に黒い会社が建ってるよ。


「げ、元気出してください。一応、最低限の食事は出ますから、これを食べて元気出してください。ね?」

「ああ……後でもらうよ。ありがとう」

「いえいえ、憧れの特級錬金術師さまのお世話ができて光栄です。……よいしょ、っと」


 キナは運んできた食事のプレートを机の上に置くと、何故か部屋の隅から予備のイスを持ってきて俺の隣に設置した。


そして何故かそこに座る。


「……えっと、で、出ていかないの?」

「はい、特級錬金術師さまの仕事っぷりをここで見守ってますね!」

「監視まで付くのかよ……」


 うーん、まあ……マガイに見張られているよりかは良いか。おとなしく仕事に戻ろう。


 人使いの荒いアイツのことだ、またとんでもない量の仕事を押し付けて来るに違いな――うわっ、これ全部俺一人でやるの? 死んじゃうって……。


「あの、ちょっといいですか?」


 マガイが残していった資料に目を通していると、キナが横から興味深そうに話しかけてきた。

「それってこの採掘場の全体図ですよね? クルシュさんはここで一体どんなお仕事をされてるんですか?」

「大した事じゃないよ。ここの機械を動かしてる魔力魔石の点検だ。全部のな」

「全部って…………えっ!? いやいや、人間一人でこなせる量じゃないと思いますけど……だってここかなり広いですよ?」

「もちろん俺もそう思う。けど、それでもやれってさ」





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