ターキの街に その③
「さ、お茶が入ったぞ。二人とも飲め」
フィラに呼ばれ、俺はキナと並んでちゃぶ台に座る。
陶器のコップに注がれた緑色の液体を啜ると、渋みの強い風味がした。
「うーん、疲れた身体に染みわたるお味ですねぇ」
隣で老人のような声を上げるキナ。
……そういえばこいつ実年齢いくつくらいなんだろう。人間でいえば老人と呼べるくらいの年月は生きているのかもしれない。
「ところで俺たちはこうして南へ向かって旅を続けているわけだが」
「いきなりどうしたんです、クルシュさん」
「いや、少々不安になってだな。一応俺たちはエルフの楽園を目指してる―――ってことで良いんだよな?」
「もちろんです。正確には希少な種族たちが集まる楽園ですが」
「なるほどな。で、俺が訊きたいのは、ただ南に下っていくだけで本当にそこへたどり着くのかってことなんだけど」
「そうですね……楽園のことは私も話に聞いたことがあるくらいで、どこにあるのか詳しいことを知っているわけじゃないんです。ただ、ニュルタム王国の南側にあるということしか」
「口を挟むのは何だが」フィラがお茶を啜りながら言う。「希少な種族が暮らす楽園などという話は妾も聞いたことがない。だが、ひとまず南に向かうというのは賛成だな。まだ妾たちは【上流階級ギルド】の勢力圏内にいる。早くそこから抜け出さなければ、またいつ危機に陥るか分からん」
「じゃあ、とりあえずの目標はひたすら南に向かうってことだな。王国の最南端まではまだまだ遠いし……明日は旅の道具を揃えにいかないと。宿が見つからないってこともあるだろうから」
「ですね。フィラちゃんのお陰でお金に余裕もできましたし。では今後のお話はこれくらいにして温泉に行きませんか? せっかく温泉が有名な宿なんですから」
「それもそうだな。よし、行こう!」
部屋に用意してあったタオルを片手に部屋を出る。
「温泉など久しぶりだな。お前たちはどうだ?」
「温泉どころかちゃんとお風呂に入るのも久しぶりです……。泊まったとしても安い宿ばかりで、お風呂の設備があるところはありませんでしたから。そういえばクルシュさんは? 採掘場のクルシュさんの部屋にもお風呂ありませんでしたよね?」
「ああ……まあ、気にするなよ」
小生、王都を出てから一度も風呂には入っておりません。
というか。
研究室にいた頃も激務でそんな暇なかったし。
いや待てよ、そもそも俺って最後に風呂入ったのいつだろう……。
恐ろしくなってきた。俺の表皮常在菌は一体どうなっているんだろう。突然変異とか起こしていないと良いけど。