ターキの街に その②
「……やれやれ、付き合っていられんな。それよりさっさと今晩の宿を探そう」
「どうしたフィラ、やけに元気がないじゃないか。……ああそうか、ごめんごめん勝手に盛り上がっちゃって。いずれ成長期が来るよ」
「あーもしもし、ポリスメン?」
「だから通報はやめてくれ! 俺が悪かったよ!」
「ふん。貧乳には貧乳の良さがあるということだ。それを忘れるな」
「はいはい。で、どうする? 話は戻るけど、今日の宿は……」
「えーと、さっきの検問所で貰ったパンフレットによると、温泉宿があるらしいですよ」
「へー、いいじゃないか。行こうよ」
「どうやらあっちみたいですね。私が先に行きます。ついてきてください」
公道に出て、バイクのエンジンを掛ける。
流れる車の列に合わせるようにして、俺たちは出発した。
※
幸いにも宿には空室があった。
俺たちはバイクを駐車場に停めて、女中さんに案内されるまま部屋に辿り着いた。
「……なんだ、この植物で編んだような板は?」
床一面に見慣れない板のようなものが敷き詰められていた。
部屋も靴を脱いで上がるみたいだし、異文化感が半端ない。
「ああ、これは畳というものだ」
「畳?」
フィラは慣れた様子で履物を脱ぎ、部屋に上がっていく。
「極東の国の文化だよ。私たち妖狐族は元々その国から来たのだ。かつてあった妖狐族の集落にも、似たような建物が立っていたよ」
「へー、そうなのか。この足の短いテーブルは?」
「ちゃぶ台というものだ。座っていろ、お茶を淹れてやろう」
そう言って、フィラはテーブルの上にあったポットで陶器の入れ物にお湯を注ぎはじめた。
「それは何だ?」
「急須というものだ。どうやら妾たちは和室に通されたらしいな」
「世の中には俺の知らないことがまだたくさんあるみたいだな」
「お前はまだ百年も生きていない若造だからな。勝手は妾が知っている。適当にくつろいでおくが良い」
なるほど、じゃあそうさせてもらおう。
「わー、夜景がきれいですー!」
キナが窓から外を眺めながら言った。
木枠の窓からは川と、その岸にそって設置された照明の明かりが見えた。
「あの川、よく見ると湯気が立ってるな」
「温泉なのかもしれませんよ」
「そういうことか」
俺の左遷先である採掘場ほどではないが、外には雪が薄く降り積もっていた。
自然豊かな山と川、そして雪景色。
研究室に引きこもっていては見られない光景だった。
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