ターキの街に その①
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俺たちがターキの街に辿り着いたのは、もう日も暮れようとしている頃だった。
バイクを押しながら街の検問所を抜ける。
「……ふう、かなり南まで下って来たな」
「シャポルの街を出てから結構進みましたからね。昨日は野宿でしたし」
「まったく、クルシュが妾の尻尾を枕にしようとしたときはどうしようかと思ったわ」
「間違いなく気持ちいいと思ったんだ……」
「ふん。妾の高貴な尻尾を枕になどさせるわけにはいかん。どうしてもして欲しければ土下座でもするんだな―――あっ、ちょっと待て人前だぞ、本当に土下座するやつがあるかバカ!」
「だって土下座したら枕にさせてくれるって言うから」
「プライドというものがあるだろっ!」
「そんなもの王都に置いてきたもんね!」
「くっ……面倒くさい男だなお前は! とにかく妾の尻尾には触らせないからなっ!」
大事そうに尻尾を両手で抱きかかえるフィラ。
いつかはフィラの尻尾を枕に昼寝をしてやる。絶対にな。
「それにしてもずいぶん温かくなってきましたね。コートももう脱いでよさそうですね」
と、キナがコートを脱ぐ。
そしてその下に来ていたセーターが露わになる――のだが―――え、マジ? セーターってあんな風に伸びるの?
「……何じろじろ見てるんですか、クルシュさん!」
恥ずかしそうに胸の辺りを隠しながら、キナが頬を紅潮させる。
「いや……そのセーター伸縮性がすごいなって……」
「あんまり見ないでください、コンプレックスなんですっ!」
「コンプレックス? 何が?」
「何がって、その……私ちょっと周りの子より発育早くて。できるだけ小さく見せようと努力して来たんですけど」
「フッ、何をバカな。お前がコンプレックスに思っているその双丘には男の夢と希望が詰まっているんだよ。恥ずかしがることはないさ。最も俺は、初めてお前の胸に触れたときから相当なサイズだと予測はしていたけどな」
「お巡りさん、この人ですこの人」
「やめろフィラ通報するな! ちょっと目を離した隙に何やってんだお前は!」
「だって明らかなセクハラだろ……。妾のコンプライアンスは基準が厳しいんだ。大人しくお縄につけ」
「い――嫌だ! 元特級錬金術師がセクハラで逮捕なんて、そんなの嫌だ!」
「―――そうだったんですね! クルシュさんの言葉が『心』で理解できました!」
「い、いきなりどうしたんだ、キナ」
「私は今までこの胸を疎ましく思ってきました……でも、本当は違うんですね。私が疎ましく思っても、それを必要としている人たちがいる。恥ずかしがる必要はないんですね!」
堂々と胸を張るキナ。
そのせいで胸が上下に激しく揺れ―――いやなんでもない。
「ま……まあ、そういうことだ! 自分がコンプレックスに感じていることも、視点を変えれば長所に成り得るということだな!」
「はい! クルシュさん!」